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そして一ヶ月後。
先生は戻ってきたし、俺もバイトを再開した。
「山田くーん」
「はい」
「うちに坪内ってなかったっけ」
「あ、隣の部屋です持ってきます」
坪内逍遥。確か二……いや、三冊はあったはずだと隣の和室に移る。あった。
「どれですかー」
三冊表紙を見せたら、とりあえず全部と言われたのでそのまま渡す。またノーパソに向き合って作業開始。したいのに、なんでか先生が俺をじっと観察してるので訊いてみた。
「なんです」
「……………なんか距離を感じる」
「えっ」
べつに、先生への態度はなにも変えてない……はずだ。俺が勝手に思ってるだけで。
「気のせいっすよ」
「そう」
じゃあ何故そんなに露骨に目をそらすのかな。
先生の言葉が突き刺さる。返す言葉がない。
「…………なにかした?」
膝が触れるほど近くに座り、俺をまっすぐ見る。
……うーん、言いたくなかったんだけど、仕方ない。
「ラインの……」
「…………らいん?」
あ、この人ラインが何かすらわかってねぇな。自分のスマホを取り出して例の画像を見せる。
「えっ、なにこれ。いつ撮ったの?」
「俺が撮ったんじゃねーっすよ、送られてきたの、先生のアカウントから」
「あかうんと」
「つーか佐久間から」
「えっ、どういうこと」
あの夜のことをかいつまんで話す。先生はあー……と頭をかかえた。
でも、そのあと笑った。
胸が痛い。
「ごめんね。迷惑かけたんだね」
「つーか、なにこれ」
「うーん、…………………あいつもちょっと変なとこあるからなぁ……」
「じゃなくて!」
思わず怒鳴ってしまった。先生がびっくりする。
「なんで脱いでんの、つーかなにしてたの。そんでなんで俺に送ってくんの。やだよ、マジで意味わかんない!」
あー、やだなー。
言ってるそばから後悔していく。先生と喧嘩したくない。こんな大きな声出すつもりない。普通に喋りたい。
だいたい、俺が怒る理由がない。だってこれじゃ痴話喧嘩みたいだ。
先生は俺のこと、なんとも思ってないのに。
このバイトが終わったら、もう会えないのに。
「…………べつに、なにもないよ?」
先生が優しく言う。
「佐久間とは、ただ話してただけで。……べつに愚痴とか次回作の話だし……。服を脱いだのは覚えてない。…………あーでも、朝ちゃんと着てた記憶はあるなぁ。佐久間が脱がしたんじゃない? それ撮るために」
「なんで?」
「……君が喜ぶと思って?」
「……意味わかんね」
「………………んー。あの子、敵作りやすいんだよねえ。突発的だし、攻撃的だし、わかりにくいし。でもいきなり君に喧嘩売るような子じゃないよ」
「…………」
「あれはあれで、けっこう苦労してるから。人付き合いがすごく下手なんだよ。大目に見てやって」
むこうをかばう、みたいな発言。ちょっとむかついたけど、先生がそう言うなら、たぶん佐久間と俺とで考え方にものすごく差があるんだろう。勘違いしてる部分、多いのかもしれない。
ぶちギレた自分が恥ずかしい。逃げるか隠れたい。後戻りもできない。
先生に謝んなきゃ。でも、言葉が出てこない。変に意固地になってる。
これが恋愛だったら容易いのに。俺以外の奴に触らせんなって言える。俺のもんになれって言える。でも違う。恋愛じゃない。だから言葉がない。なんだろう、こういうとき、なんて言えばいい?
黙ったままの俺を見て、先生はさらに難しそうな顔をする。それから、ためいきをついてうなだれた。
「……………君の誤解をとく証拠がない」
べつにいらない。証拠なんて。俺が変に考えすぎてるだけだ。わかってる。もう謝らなきゃ。
「これ以上はもう言えることはないな」
最後は冷たい口調だった。
だから、先生を怒らせてしまったんだろうなと、思った。
あーあ、女だったらこういうとき、泣けたのかな。
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