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「……………わ、からないです。……だから自分でも困るし、……」
「うん。それでいいよ。……他には? 一番近そうな言葉はある? 逆に、これは絶対ないなっていうのは?」
言葉探し。それなら得意だ。少しずつ、心をひもといていく。
「なんだろ……とりあえず『尊敬』はしてます、大人だし、先生の小説好きだし……。あと『安心する』、と……先生のことはもっと『知りたい』し………『触れたい』」
「うん」
「でも、………あの」
「なあに」
「………ち、ちゅーしといてあれなんすけど、『恋愛としての好きではない』っていうか、や、先生のことは好きなんですけど、なんか違う、気がして」
「うん、そうだねぇ」
先生は笑わずに受け止めてくれる。
けど、さすがに、死にたいとか殺されたいは言えない。あれは言葉として間違っていると自分でも思うから。
「だからなんか、わけわかんないことになってて……」
「…………僕になにかしてほしいことある?」
「えっ、………………今まで通りで」
「わかった」
「………………………先生は?」
俺のこと、どう思ってるんだろう。
「んー、最初はいじめるはずだったんだけどね」
次回作の構想に。いまどきの大学生を少しからかってみるつもりだった。どうせ短期間しかいないんだし、多少酷いことをしても、むこうだって、あることないこと、周りやインターネットで吹聴するだろう。もともと根も葉もない噂ばかりの自分だ。今更言われたところで、何も傷付かない。
…………それなのに。
試験問題に書かれた綺麗な文字。見た目とは裏腹に、書籍と日本文学を愛してるのがすぐにわかった。この不自由な身体を見ても、不躾な視線を投げたり、変に気遣うこともない。そのくせ気が利く。バイトもサボらずによく働くし、田辺が気にしていた情報漏洩も一切ない。
賢い子だと思った。
ただのサンプルではなく、対等な人間として扱おう。そう考え直した。けれど、気持ちを切り替えてなお、彼に触れたい自分がいることに気付いた。
駄目だと、わかっていても。
目の前にいれば、触れたくなった。あとさきなんて考えてられなかった。思い通りにするために視線も吐息も自由に演技出来た。彼も拒まないから、まるで受け入れてくれたように勘違いしてしまう。そんなことはあり得るはずがないのに。
何度も自制した。何回も煩悶した。今までに僕から触れた人はたいがいが不幸になる。だから触らない。近付かない。恋愛なんて一番に遠ざけてきた。友達も極力作らない。僕よりもこう、生きる力とでもいうのか、マイペースというか、そういうのが強い人なら、多少は関わっても大丈夫だ。たとえば田辺だったり佐久間だったり。でもこの子は違う。確実に僕の中へ引きずりこめる。だからやっちゃ駄目だ。もうこれ以上は。汚したくない。
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