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【斜陽】1
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【斜陽】
「先生、マジでこの家どんだけ広いの……」
「これでも離れと母屋の一部は潰してるよ」
快晴。
和室はある程度綺麗に片付け、本もだいぶ整理された。目録作成も完了。じゃあこれですることがないかといえば、そんなことはない。また和室に戻したら本が痛んでいくだけだ。俺が本の整理をしている間、先生はとある部屋のクリーニングを業者に頼んでいた。
「言わなかったっけ? 昔は図書室があったって」
「聞いたことあるけどさ……」
母屋の。応接間、から左奥へキッチン。からの奥に更に廊下があり、先生の生活圏。トイレとか風呂場とか、あと部屋が二つ。さらに二階への階段。廊下を突き当たって、扉を開けたら、天井の高い、窓の大きな六角形の部屋。安っぽいフローリングじゃない、ちゃんと木の板の床。
本好きなら一度は憧れたことがあるんじゃないか。壁一面が本棚の、自分だけの図書室。
今はまだ、本が収められていない状態だ。ここに整頓していくのが、残りの仕事になる。
先生のことを考えれば、取りやすい位置にだけ本を詰めていくのがいい。あとは並び順。重い本が下段は当然。それから出版社別にしようか。でもテーマでわけたほうがいいかもしれない。図書館と同じ十進法でいいかな。でも、よく使うやつは一番手前に置きたいし…………。
うーんとうなっていると、横で先生がクスクスと笑った。
「楽しそうだね。目がキラキラしてる」
「そりゃそーだろテンションあがるよ、こんなん!……………………先生は楽しくない?」
「君が楽しそうなら、僕は嬉しい」
頭を撫でられる。先日、髪の色を金髪に染めかえた。根元は黒を残して、ほとんど美容師さんのおまかせ。ちなみにカラコンも両目ブルーに変えたし、ピアスは減らした。でも手のタトゥーはそのまま。
名前で呼んでくれない……、と先生は俺に抱きついて甘えてくる。
「や、だってもう癖って言うか、……すんません」
ちゃんと食べてるのか不安になるくらい細い背中をたたく。
「ごーめーんーなーさーいー」
「……………」
「……せんせー?」
「……………」
「賢人さん?」
「うん」
ぱっと離れた。駄々っ子か。
昔の話をして以来、先生は前よりも心を開いてくれるようになった。それは凄く嬉しいことだけど、反面、つらくもある。
このバイトはたぶん、今月中には終わるから。
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