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後日。
駅前。
今日は久しぶりに先生とお出掛けだ。日差しの熱いなか、音楽を聴きながら待っていたら、先生が改札を抜けて、こちらに来るのが見えた。イヤホンをしまう。
「あー髪切ってるー可愛いー!」
「……大人に可愛いなんて言うもんじゃありません」
照れた。それも可愛い。ベリーショートまではいかないけど、けっこうさっぱりしてる。妖艶な雰囲気が少し和らいで、なんとなく初々しい感じがする。おっさんなのに。
「褒めたんですー」
「……ありがとう」
頭撫でたかったけど、むこうのほうが背が高いからそうもいかない。
今日はどっかの大学に呼ばれた、とだけ聞いている。俺がお供でいいなら、そう真面目な仕事でもないんだろう。面白いものが見れるから。彼は言っていた。
駅を出て、目の前の大きな交差点を渡る。このへんの大学といえば、超有名私立大がすぐそこにある。右へ進もうとしたら、先生は左へ進んだ。
「……K大じゃないんですか?」
「違うよ」
道をしばらくまっすぐ行って、高架下をくぐり、また直進。先生がタクシーなりバスを使わないってことは、駅近なはず。それで大学といえば、
「え……もしかして女子大?」
「詳しいね」
まじか。まじか。女嫌いの先生が女子大に行くとは考えてなかった。
「知り合いでもいるの?」
マンモス校でも何かが有名なわけでもない、その女子大を俺が知っていたので、先生が訊いてきた。
「やー……まあ……」
答えにくい。この人に知られたくない関係の奴が、そこにいる。日曜だったら良かったのに。そしたら確実にいない。でも今日は開講日だし、あいつがここにいるのも俺は知ってる。
「……会わないだろうし」
いた。
「やあ先生! お待ちしておりました!」
校門で出迎えてくれたのが助手。で先生を呼び出したのが国文科の教授。研究室でまずは挨拶と軽く歓談。俺の見た目がアレなんで、こういう真面目な場所は、なんとなく居心地悪い。
そこにひょっこり顔を出したのが、あいつだった。
「やってるー?」
「宇堂教授、呑み屋じゃないんだから」
助手に宇堂教授、と呼ばれたそれは、豪快に笑いながらこちらへ来て、俺の頭をわしわしやった。
「古城先生、いつもうちの息子がお世話になってまーす!」
一瞬の沈黙の後、俺と宇堂……親父以外の全員が叫んだ。
「……息子!?」
「宇堂教授マジでエキセントリックすぎでしょ」
「この人ほんと予想つかないわ……」
「だって苗字……」
国文科連中がざわつく。先生……賢人さんは笑いをこらえたままこちらをずっと見てくるので、俺はちょっと睨む。
「あ、オレ旧姓のままで働いてんのよー。山田はカミさんの苗字ね」
俺の隣にどっかり座って、我が物顔で俺と肩を組む。あー、この人あれだ。いつものやるよ。やだなぁ。恥ずかしい。
「マジで親子だから! え、見る? 証拠見ちゃう?」
袖をまくって、俺の左手をつかむ。お馴染み俺の左手の甲のドクロ。そしてまったく同じものが、親父の右腕にある。そうなんですこれ、俺が好きで入れたわけじゃなくて、親父に付き合っただけなんです。仲良し親子。あー、はっず。
賢人さんが顔をそらしたので、この人めっちゃ爆笑してんなとわかる。教授が入れ墨とか駄目でしょ、とたしなめるのが国文科の先生。これ落ちるやつだからいいもーん、とうそぶくのが俺の親父。
「……なんでいんの」
親父を睨む。
「驚いたー? ウケるー」
「俺が来んのわかってたでしょ」
「うん。有賀センセに聞いてたからねー」
国文科の先生をあごで示す。
「そんで? 謎解きでしょ?」
賢人さんを呼んだのは有賀先生なのに、なぜかこの親父が話をすすめる。ていうか、謎解きって、なに。
「あ、はい。こちらに」
助手が両腕に本を抱えてやってくる。先生が言ってた面白いものって、これかな。かなり昔の冊子と、でかい設計図。冊子の作成者は古城正とある。あとはいくつかの古書。
「先生でしたら、おわかりになるかと思いまして」
有賀先生が、本題を話し始めた。
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