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それからまた、十年経って。
二人とも、まだ文壇で活躍できている。おれは携帯小説や電子書籍みたいな、新しいジャンルにどんどん駆り出されて、先生は確実に文学を愛してる人の心を鷲掴みにして、たまにテレビドラマの原作や若者向けの雑誌に連載を持ったりしている。
アケゾノさんに代わって、ミサカさんが担当になった。ミサカさんはちゃんとおれの作品を愛してくれて、おれのキモいしゃべり方も、卑屈な部分も、受け止めてくれる人だった。
そして。
久しぶりに会えた先生は、また雰囲気が変わっていた。どことなく軽やかで、楽しそうに笑うようになっていた。
聞けば、バイトで大学生を雇ったらしい。しかも、先生の家に直接通っているらしい。なにそれ。おれには、あそこはお化け屋敷だからって、遠ざけたくせに。
わざといつもよりお酒を飲ませて、酔っぱらった先生に聞いた。
「先生、その人のこと、好き?」
「んー? そうだねえ、嫌いだったら雇わないよねぇ。ふふ」
「どこがいいんですかー?」
「全部」
「はー?」
「真面目に仕事してくれるし、賢いし……言葉とか雰囲気とか……ちょうどいいんだよ。たまに騒がしいけど。もうね、あれは、あの家には、なくてはならない存在かな」
なくてはならない存在。
おれは先生の、それになりたかった。
「家に? 先生にじゃなくてー?」
おれも、けっこう酔ってる。でも頭のどこかで冷めた。
お願い。
否定してよ。
「…………あぁ、僕にとっても、かなぁ」
おれのが付き合い長いじゃん。
そんな優しい目で、笑わないで。
そこからは、またお酒を飲んだから、あまり覚えていない。
気づいたら、先生とならんで寝ていた。客室だ。枕元のスマホ。そういえば、なんか勢いで誰かに電話してた気がする。
……先生のスマホだけど、盗み見る。指紋認証って、意味ないよね。こうやって寝てる隙にスキャン出来ちゃうし。
ラインのアプリを起動する。さっきまで電話してたのは山田とかいう名前の人らしい。平凡な苗字の癖に。先生の心にはいりこみやがって。むかつく。
「……先生、起きてる?」
顔にかかった髪をどけた。あ、本気で寝てる。可愛いなあ、寝顔。
「ねー、先生。先生ってばー」
起きない。
なんだか笑えた。
同時に泣けた。
あれ? なんで?
胸が痛い。お酒、飲みすぎたかな。
「せんせー、起きないと襲っちゃうよー……」
服の上から、身体をなぞる。シャツ。ボタンを二つ三つ、外す。先生がいつもきっちりワイシャツを着てる理由は、身体の傷を隠すためだ。おれみたいにラフなティーシャツとか、パーカーとか着れない。
「ねー、せんせー。…………好きだよー?」
冗談にしようと思ったのに、涙声だから、そうもいかない。いいよねどうせ、寝てるんだもん。
襲えるわけないじゃん。おれ童貞だよ? 知識は山程あるけど、面と向かって告白も出来ないやつに、そんなこと出来ないよ。
先生が大好きだった。先生になら何されてもいいと思ってた。どうせこの人のすることは、おれを傷付けない。抱きしめられたかった。特別でありたかった。バカだな、おれ。
写真撮って山田とかいう奴に送って、気がすんだから先生の服を戻してちゃんとお布団をかけて、部屋の電気を消した。
もう一回飲み直そう。廊下の窓の外をなんとなく見たら、綺麗な夜景が見えた。
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