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【蜘蛛の糸】1
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【蜘蛛の糸】
「お疲れー」
「お疲れ様でーす」
バイトを終えて。
てろんてろん夜道を走る。車とバイクの修理専門店。仕事は大変だけど、好きだから楽しい。
大学は相変わらずの無遅刻無欠席だ。授業も真面目に受けている。おとなしめの茶髪に変えたら、友達には驚かれた。アクセもピアス一つだけ。カラコンもつけないし、服もありふれた安っぽい流行りのやつ。
女には好評だが、男には不評だ。つまんなくなんなよ、お前。えー、いいじゃん、俳優のナントカ君みたい。周りの声がわずらわしいときは、図書館に逃げ込んだ。ただひたすらに、勉強と課題をやった。
佐久間めろんとは、今でもぽつぽつやり取りを続けている。一時期は先生と何があったのか訊かれたが、俺がそれに返さなかったので、まったく関係ない話に切り替えてくれた。他愛のない会話。むこうは相変わらず忙しいらしい。
古城賢人の新刊が出たのは、秋も過ぎて、そろそろ本格的に風が冷たくなる季節だった。
読もうか読むまいか、迷って、結局読んだ。実験小説とか、不思議系とか言われるとどうしても気になる。私小説では、とも噂されていた。文学大好きなやつしかいない授業だと、始業前には嫌でも耳に入ってくる。その本を読んでいる奴も、実際見かけた。
『こんなはずじゃなかった。』
『これは、破壊と再生の物語。……に、見えたんですけどね。してやられた。』
そんな帯の煽り文にすら、惹かれる。複雑な思いで、表紙をめくった。
【僕の愛するものへ】
そこからは自我を忘れて没頭した。
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