アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2
-
男のもとには、毎晩あるものが訪れる。明記されていないが、それは『者』であったり、『物』である。男と、ものの会話を聞いていくうちに、ものの正体が読者にはわかるようになっている。
『死んだはずの者』があらわれ、『かつて壊した物』が訪れる。クリスマス・キャロルか、セロ弾きのゴーシュを思わせるような展開だ。男は訪れるものを罵倒し破壊し、ひとりきりになりたがる。
名作のように、じゃあ男は段々改心していきハッピーエンドになるかというと、そうでもない。『かつて捨てた物』だと読者には思わせておいて、実は男は『あなたを救う者』を殺してしまったりする。男はどんどん逃げ場がなくなっていく。『者』と『物』の言葉の境界が曖昧になっていき、すべては男の妄想なのか、それとも本当にあったのかさえもわからなくなっていく。
これが何も信じず、すべて捨てて壊してきた男の末路なのだと、相変わらずの繊細な文章は丁寧に着実に、男を追い込んでいく。余韻をたっぷり残して、後味の悪い話はここで幕を閉じる。
…………かと、思いきや。
章も改行も、段落さえも変えずにいきなり物語はひっくりかえる。悪夢から急に目覚めたような、ジェットコースターを落ちるようなスピードと重力の変動。あっさり男は『人』に助けられ、急に物語は終わる。
呆然とした。思わず次のページをめくってしまう。もちろん続きなどない。わかってる。あの単語で男は救われた。あの文章の構成で全てが綺麗に片付いた。他の言い回し、他の単語では有り得ない、この圧倒的なカタルシス。わかってる。
明言はどこにも、されてないのに。
どうしてこんなに伝わるんだろう。
言葉で綴るのが小説なのに、救いを救いと言い現さないでこんなにも救われるなんてひどい。
久しぶりに脳がしびれた。手が震えた。身体が熱いのか寒いのか、よくわからない。息も出来ないくらいに切なくて、泣きたい。でもすごく嬉しい気分でもある。これだ。これなんだよ。俺にとっては。
これが文学だ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
54 / 66