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「…………………………………」
どこから何を話そうか。俺は考える。具体的に何をしたのか、は言うつもりもない。当たり前のようにキスをしたこと。最後の日、先生を犯したこと。
だけど、嘘をついたり誤魔化したくもない。
「…………言いにくい?」
俺はうなずく。田辺さんはうーん、と唸って、全然違ってたら申し訳ないんだけど、と前置きした。
「……あいつ、君に、その……なんか酷いことした?」
酷いこと。
「酷い」という言葉を使うなら、最初の頃、からかわれてたことも、最後の挨拶の冷たさも、「酷い」になる。でもそれらは、俺が勝手に傷付いてただけのような気もする。
……答えにくい。
困った顔で目の前の大人を見たら、やっぱりかあ、と呻かれた。
「最悪だ。……大学のときに相当悪い連中とつるんでたからなぁ……。……………殴られたんでしょ」
「えっ、全然違います」
「あっ、違うの」
二人で驚いた。
「えっと、どっちかっていうと……っていうか確実に、俺が先生に酷いことしたっていうか…………」
「あ、君が殴ったんだ」
殴ったというか。
もっと暴力的なことをしたんだけど。
言えない。
大切な作家先生を傷付けられて、怒るかと思いきや田辺さんは笑った。
「あーそうか。へー。……よかった。君が何かされたんだと思ってた。はー、よかった、本当に」
「……すみません」
「謝らないでよ。どうせあれでしょ、売り言葉に買い言葉みたいな感じでしょ」
合ってる。……のか?
「……今から会いにいって、仲直りできる?」
田辺さんが俺を気遣う。このあと、俺は先生のところへ行くことになっていた。
「…………先生に許していただけるなら」
「大丈夫だよ」
どうしてそう、言いきれるんだろう。
「…………あの小説を書くために君を利用したんだと思ってた。担当だからね、ある程度は早めに読んでたよ。最後がああなるって予想できなかったけど……。君を希望にして書いたんだよ。そんな奴が君のこと憎んでるとは思えない」
「…………………」
「山田君もさあ。いいんだよ、もっと怒って。何があったのかは知らないけどさ。君は子供で、賢人はもういい大人なんだから」
「…………………」
本当に。
そう思っていいのかな。
結局、先生は俺のことなんて要らなくて、俺は優しくなれなかった。そういう話じゃないのかな。
……ひとりで考えても仕方ない。
「…………先生と話したい」
呟いたら、頭を撫でられた。
じゃあ、そろそろ行こうかと、田辺さんは伝票を持って立ち上がった。
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