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押し倒して両手をかける。力強く、その首を絞める。女の抵抗もその苦しげな表情も気にならない。ずっと考えていた。自分がこれをしてしまうのは怒りに身を任せて我を忘れたときだと。実際やってみたらこんなに冷静なのかと驚いた。
僕の手の甲を引っ掻き、手首を強く掴み引き剥がそうとする。暴れる脚。どんどん赤黒くなっていく顔。
それらが。
…………心の底から、愛しすぎて笑えた。
笑えたから、手を離した。
乾いた笑いは急にとまって涙が出た。あーあ。とうとう、やってしまった。
女は僕から離れ、呼吸を落ち着ける。信じられない、という顔で、女は僕を見た。僕は嗤って見つめ返す。
なんだよ、その顔は。
おまえが暴いたんじゃないか。
自分にだけ教えろって。
「僕は父親が母親にしていたようにしか、出来ないんだ」
長年、苦しんでいた。ずっと、怖かった。それを言葉にして口に出してしまえば、今が一番苦しくて怖かった。
幼い頃の記憶。
そこにいたのは、父親に首をしめられる母親だった。抵抗し、暴れる女と、笑う男。母の白いふともも。父の日焼けした黒い腕。
映像はそれだけだ。ものごとを考えられるようになって、あれは夢か、別の記憶でも混じってるんじゃないかと片付けた。だって父親は確かに暴力をふるうけど、あの二人は夫婦として仲良くやっていることもあるからだ。どっちが正しいのか、わからないなら、幸せそうにしているほうを選びたい。
だけど。
いざ自分が人を愛そうとしたら、無理だった。殺したくなる。その首を絞めてみたくなる。その衝動は女性相手だけではなかった。仲良くなった友人にも、可愛い動物にも、愛情はいきすぎると殺意に変わった。もちろん、手は出せるはずもなかった。
可愛らしい、一緒にいて落ち着く、楽しい、癒される。それでは駄目だった。殺したいと思えなければ、愛しさはなく、性的な興奮もなかった。
僕は他人に触れてはいけないのだと、わかった。
だからやめた。
愛されることを、愛することを、諦めた。
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