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帰りの車内も、ひたすらに静かだった。
ただ一言、女は僕に告げた。
「大丈夫よ。あなたはいつか、ちゃんと幸せになれるわ」
単語のひとつひとつはありふれていたが、薄っぺらい言葉だとは思えなかった。彼女が言うと、まるで頼もしい予言に聞こえた。
そして、あの事故が起きた。
身体が不自由になったことは、僕にとっては幸いだった。神様に感謝してもいいとさえ思えた。
走るどころか、歩くのさえおっくう。視界は半分。左腕は二の腕がうまく動かせない。こんなに素晴らしいことがあるだろうか。これで僕は他人に手をあげることができない。どれだけの衝動があっても。
いつかちゃんと幸せになれるって、このことかな。
本当に嬉しかった。生きていて今まで、こんなに心から喜んだことがあっただろうか。今までの苦しみすべてが救われた気がした。もうこれから先、自分の人生には何もなく、誰もいないと思えば、穏やかになれた。
そして実際、ただ生きて、ただ仕事をするだけの日々が始まった。
僕の心を動かすものは、他人の書いた本だったり、家から見る景色だった。殺せないものだけを愛していく生活は、本当に幸せだった。
あの子が、僕の前に現れるまでは。
終
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