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「いい加減にしてくれない?いきなり俺にスクールアイドルやれとか訳の分からないこと言い出すわ、他人の教室で悪目立ちするわ!」
まぁ怒られるよね?だいぶ浮いちゃってたし。
てゆうか、悠木君って一人称『俺』なんだな。俺てっきり『僕』かと思ってたよ。
「それは悪かったって。でもスクールアイドルの話は本気で考えて欲しい」
「嫌だね。そんな暇ない」
それを言われたらもう何も言えない。
悠木君に負担をかけさせる訳にはいかないし、次月の話だと毎日忙しそうだしな。
でも悠木君をスクールアイドルに誘うのは諦めたくない。
曲作れそうなのは、今のところ悠木君だけだし、何せすっごいイケメンだし!
この逸材を我らがスクールアイドルに入ってくれたらきっと、大きな進歩に繋がるよね。
俺は悠木君の前に立ち、深く頭を下げる。
「お願いしますッ!俺ら悠木君が必要なんです!」
そして顔を上げて悠木君の瞳を真っ直ぐに見つめた。
黒曜石のような瞳と俺の瞳が交わる。
その瞳は、心なしか揺れているような気がした。
さっきの教室内のとは違い、周りは騒がしい中俺らだけの沈黙が流れる。
その沈黙が数秒続いたのち、悠木君の薄い唇が動いた。
「…放課後。すぐに音楽室に来い。3人ともだぞ」
悠木君はそれだけを告げると、走って何処かへいってしまった。
今度は誰も追いかけようとはしなかった。
それよりも、悠木君が放課後に音楽室へ来いと言った事で3人ともポカーンとしてしまっていた。
あんなに頑なに断っていたのに、しかもあんなに怒っていたのにも関わらず、承諾に近い返事を貰ってしまったのだから、驚かない方が変だ。
俺らは黙ってお互いの顔を見て頷いてその場は解散となった。
放課後、言われた通り音楽室へ集まる。
紅薔薇学園には音楽室が二つ存在し、それぞれ『第一音楽室』と『第2音楽室』と名付けられている。
俺らが音楽の時間に使うのは第2音楽室の方で、第1音楽室は吹奏楽部など部活動専用の音楽室だ。
だから、俺達が呼ばれたのは第2の方だ。
でも、第2音楽室はいつも軽音楽部が使用しているはずだけどな…
少し躊躇してドアを開けると、そこには軽音楽部の姿はなく、代わりにグランドピアノの椅子に座る悠木君の姿だけあった。
「…来たね。とりあえずこっち来てくれる?」
グランドピアノからひょこっと顔を出した悠木君にこっちこっち、と手招きをされる。
俺らは素直に悠木君の所へ近づく。
「ここ、軽音楽部が使用してるんじゃなかったか?」
「あの部活、木曜だけオフなんだ。だから木曜だけ先生に許可貰ってここで練習させてもらってる」
なーるほど。そこまでしてピアノの練習に打ち込むなんて、本当に一生懸命だな。
そんなことは置いといて、と悠木君はいきなりピアノの音を出した。
ただ1つ「ポーン」とだけ。
「取り敢えずこの音歌ってみろ」
「「!?」」
「あー…これでいいのか?」
俺と次月が状況を理解できていない中、飲み込みの早い朱琉がピアノの音の真似をして歌った。
うわぁ。案外朱琉って歌うまいんだ。
ピアノの音1つ聴いたぐらいで俺は一発で音を当てられる自信はない。
俺と次月が二人で「おおお!」となっている中、約1名不穏な空気を出している悠木君。
ん?さっきまでの気だるげな態度は何処へ?
今はさっきとは別人のようになっている。
切れ長の目を更に鋭くし、ピンと張り詰められたオーラがピアノ越しにでも伝わってくる。
悠木君はチッと舌打ちをすると、次月を指差した。
ん?さっき舌打ちしましたよね?悠木さん?ん?
「次、伺史。お前だ」
ピリピリオーラの引き換えに彼の言語能力が衰退しているように感じるのは俺だけなのだろうか。
次月も悠木君の異様なオーラに気づいているのか、いつもの軟派な感じはどこへやら。顔を青くして肩を震わせている。
悠木君が再びピアノの音を鳴らす。
あの…ピアノの音、強くなってませんか?
「アッハイ…あー…?」
「ボソッちげぇよ…」
悠木君が明らかにイライラしているのが分かる。
悠木君?ゆうきくん?YUKIKUN???
とうとう俺に指がピッ!と指される。ひぃっ!
「最後、お前」
「はぃぃぃぃ…あー…?」
ジャアーンッ!
「「「ひッ!」」」
突如ピアノの鍵盤を両手で雑に叩きつけた悠木君に俺ら一同怯えた。
そのまま立ち上がり、キッ!と俺らを睨み付ける。
その表情は、最初の『寡黙』が似合う印象なんて忘れるぐらい別人のそれとなっていた。
「違う違う違う違う違うだろォッ!?」
今まで大人しかった悠木君が声を荒らげる。
「最初は+20次はー30最後なんて半音ずれてんだよッ!聴いてればイライライライライライラッ!てめぇらこんなでアイドルできると思ってんのか!こんなカスレベルの音痴共に曲なんて絶ッッ対ぇつくんねぇぞ!もう1回だッ!」
ポーン
「あ…あー「だぁかぁらぁ違うつってんだろーが!馬鹿か!?馬鹿かお前はよぉぉぉぉぉっ!」
「す…すみません…」
「謝ってる暇あんなら音程気にしろっての…これ合うまでは帰さねぇから覚悟しろよ!」
この悠木君と思わしき人物の地獄のレッスンは三時間ぶっ通しで行われた。
「…ったく少しはマシになったな。分かったか?曲作ってほしけりゃ来週も同じ時間ここに来いよ」
…俺ら来週もちゃんと声帯あるかな…
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