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心詞side
リビングにあるグランドピアノの鍵盤に指を添える。
その周りには、幼少期から今まで獲得した賞状や盾、コンクールの写真などがところせましと並んでいる。
暫くすれば、ピアノの音か部屋の空気を響かせる。
あいつらに歌を教えて3日経った。
来週まで教えたこと覚えてるかな。
覚えてなかったら…まぁ色々と潰そう。
でも、本当にあいつらの飲み込みの早さは認めたくないが、なかやか良かったし少し期待はしている。
まず、伺史は細かい音程さえ落とさなければ、かなり上手い方だ。
あいつには、こんな感じの力強いメロディが合うのではないだろうか。
次にいかにも真面目そうな眼鏡。あいつは直す箇所は多いが、見た目通りに賢いのか、一回言えばすぐに改善される。
きっと、こんな感じの繊細なリズムでも歌えるだろう。
最後に問題のアホ面…音程どころか音すら外してるし、音域は狭いし、腹から声を出せていなかった。
だけども、3人の中では一番がむしゃらに励んでいて、眼鏡に負けないぐらいのスピードで良くなっていた。
そして今でも忘れられないあの目。
一体、あいつにはどんな思いがあるのだろうか。
そうだ。あいつの目を曲にしたらきっと…
あいつらはきっと、このままメンバーが集まり次第歌って踊って成長して…
なのに俺は変わらない。これからもずっと。
昔から知らないうちにピアノに触れていて、知らないうちに「天才児」と呼ばれていて、知らないうちにー…
俺も…あいつらみたいに変わりたい。
このままなんて、成長できないままなんて嫌だ。
自分の気持ちは本当はわかっている。
答えは、現在この部屋を響かせているピアノの旋律が物語っている。
その気持ちをはっきり分かりやすくいうなれば、あいつらと一緒にスクールアイドルをやりたい。
俺は今まで音楽…つまり『できること』しかやってこなかった。
『できないこと』には一切手を付けてこなかったのだ。
天才と謳われる俺だって所詮人間だ。
音楽の才能が秀でているだけで、その他は周りの人々と変わりはない。
積極的にやっていないだけで、本当は運動がすごく苦手だ。
数学の授業は正直周りに付いてくのが精一杯だ。
絵なんて描かせてみろ、ピカソのよりカオスなものが出来上がるぞ。
そして何よりも『人に頼る事』が一番苦手なのだ。
物心がついてから、ほとんどの事を一人でやってきたし、俺の生活のほとんどの時間を占めている音楽は、誰にも言われなくたって、レッスンさえ受けていれば勝手に上達していた。
世界中で仕事のある両親が家にいないことは、幼稚園の頃から慣れっこだ。
だから誰かに苦手な数学を教えてもらうことも、運動や絵のコツを聞く方法も、スクールアイドルに入れてくれと頼むことですらまるでさっぱり。
全く。皮肉な話だ。
音楽ができるだけ。『できないこと』から目を背け続ける。
こんな自分なんて…
大ッ嫌いだ!!!
あたかも自分の心とリンクするかのように、ピアノを引く指が乱れ、部屋を響かせる音のリズムもどんどんめちゃくちゃになっていった。
あまりにも聴き心地の悪い音楽が部屋中を支配する。
あぁ。このままこの曲は自分自身を失ってしまうのだろう。
…今の俺のように。
「嫌だ」
変われない自分が。
「嫌だっ…」
人らしさがまるでない自分が。
「嫌だぁッ…」
逃げてばかりの自分が。
「嫌だ嫌だ嫌だ…嫌だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」
とうとう全てを投げ出したかのように、心臓に悪い不協和音が響いた。
俺は「やってしまった…」と冷静さを取り戻そうと目を閉じた。
周りから評価も、自分の全ても、大嫌いなもの が見えなくなってようやく、俺は鍵盤を叩きつけてしまったがために、じんじんと痛んできた掌に気づいたのだった。
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心詞君ご乱心。
彼はこれからどうなってしまうのでしょうね…
作者としては、最悪な結末にはならないようにがんばりますね。
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