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闇。
闇の中で、一条の青白い光が差している。否、光源は青白く発光しているパソコン画面だ。
闇に目が慣れてくれば、画面を覗き込む成人男性の姿もじきに見えてくるだろう。ついでに、部屋に散乱している使用済みの割り箸を突っ込んだままの空いたカップ麺やティッシュを詰め込んだポテチの空き袋なんかも映るかもしれない。つまり、部屋はゴミ塗れだった。
彼…白摩 春太(シラマ シュンタ)は、ノートパソコンでオンラインゲームを楽しんでいた。仲間とのチャットにタッチタイピングで返信を打った彼は、やがて目を見張る。…ちょうどその時、自室の窓からコツンという音が響いてきていた。
スイッチ一つつけず、白摩は身体をイモムシの如く億劫そうに動かして、のそのそと窓際に近づいていく。閉め切っていたカーテンを手で除ける。ガラスが目前に現れる。外の方が月光がある分明るいからか。ガラスにはくっきりと、白摩の顔が像を結んでいた。ベッドにだらしなく横たわる男。外見から察するに、年齢は二十歳前後か。栗色の前髪はボーボーな上、後ろ髪は寝癖で跳ね放題。黒縁の眼鏡で瞳は見えない。眼鏡を外すとコンプレックスである童顔と、ぱっちりとした二重瞼が現れる。灰色の上下スウェットはだぼだぼしていて、とても人に見せられるような格好じゃない。片腕一本を伸ばしてロックを外し、窓を開け放つ。からからと、乾いた音がした。
窓を開くと、男は匍匐前進の要領で窓枠に前身を乗せる。窓枠が重そうにぎしり、と音がしたが男は気にもかけなかった。前髪から時折覗く彼の瞳が、きらりと閃く。
窓の向こうは春の予兆が一切ない、真水の如く冷たい空気が漂っていた。時折風や木々の揺れる音がする。他は生活音だらけだ。どこかの子供の笑い声。遠くで聞こえる犬の遠吠え。白摩の自室は二階にある。頭上には濃紺の夜空に小さく光る星が瞬いている。
しかし、白摩の眼差しは一心に前方に向けられていた。彼の前方三十センチ先には、隣の家のベランダがあった。そこに、一人の男がこちらに背を向けて腰掛けている。片手に携帯、一方の手にはミネラルウォーターのペットボトルが握られている。
「…ミチ。」
白摩は彼の名前を口にする度、言い知れない息苦しさに襲われる。胸にずしりとかかる重圧は、酷く甘い反面ほろ苦い。
ミチ、と呼ばれた男が振り返る。短い黒髪。女顔。タレ気味の茶がかった瞳。スラリと長い手足。これでもかと乗った上背。読者モデルにならないかと高校の頃に一度スカウトを受けた経験さえある。彼の名前は…佐々景道(サツサ カゲミチ)だ。
「こんな時間まで、何をしているんだ。」
生真面目過ぎる幼馴染の言葉に、白摩はごくりと唾を飲み込む。佐々が自分のためを思って言ってくれる言葉なら、どんな内容だって文句はない。続けて、白摩は相手の格好を眺める。ピタッとした黒いシャツ(素材というよりは、佐々が成長したのだろう)に、白のジャージ短パン。短パンから覗く筋肉質な太腿が白摩の胸を静かに乱す。シャツの肩にかけられた白いタオルと、幼馴染の身体から立ち上る湯気から推測するに、彼は湯上りなのだろう。
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