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それを知るための代償
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大陸最大の王国の都のすぐ近く。森を隔てて存在する廃都が1つ。
そこはすっかり盗賊達の寝ぐらと化していた。
盗賊はいくつかのグループに分かれて生活しており、互いの縄張りへの侵入は御法度。
少し前まではグループ同士の争いが連日行われていたが、各リーダーの話し合いによってそれは決められた。
廃都の昔の名を知る者は随分前にいなくなり、今は『盗賊の町・ロイバー』と呼ばれている。
「ゼル、また盗ってこれなかったのか?」
「…」
町の入り口のすぐ横にある古びた一軒家に住む若いグループが1つ。リビングのソファーに座って静かに話す男はこのグループのリーダーであるウェルド。そして彼の言うゼルとは、グループの中で特に盗むことが苦手なメンバー。
「やめてやれよウェルド。ゼルは優しいから仕方ないだろ」
そう言ってリビングに入ってきたのはリン。彼はゼルに甘く、ゼルが叱られているとすぐに助けに来る。
「だからって何も盗れなきゃ生きていけないんだぞ。わかってるのか」
「…」
「ゼル」
「…はい」
ゼルの声は体とよく似ていてか細い。ウェルドに叱られている時は特に小さくなる。
「シャナとフールが都に行ってるから、晩飯はゼルが作れ。いいな」
「…はい」
「…次は頼むぞ」
頼む、なんて言いながらもウェルドはゼルが決して物を盗ってこれない事を知っていた。それでも次を約束させなければならない。
いつか自分たちがいなくなったら、ゼルは否応もなく物を盗らなくてはならない状況下に置かれる。今はグループがあるので生きていられるが、1人になったらすぐに飢え死んでしまう。それでは困る。
どうにかゼルにも盗みの仕方を覚えてもらはなくては、と思いながら無理強いするのは逆効果だと踏み切れずにいるウェルドはリーダーとしての苦悩を抱えていた。
「話は終わった?ゼル、散歩の時間だ」
「うん」
説教が終わったのを見計らってリンはゼルと共に外へ繰り出した。1人残されたウェルドの深いため息は静かに空気に溶ける。
ゼルとリンはいつも決まった時間に森へ出かける。
散歩とは森にある食べられる山菜やキノコ、果実などを採りに行く事であり、ただの気分転換という訳ではない。これは物を盗ってこれないゼルが、グループの為に何かしたいとリンに相談した結果生まれた彼なりの奉仕。
「ゼル、手繋ごうか」
「…もう子供じゃない」
「誰もいないし、ほら!」
「ちょ、リン…」
ゼルと手を繋いだリンはご機嫌に鼻歌なんかを奏で、それに引っ張られながら、ゼルはそんなリンの横顔に何も言えなくなる。子供の頃と変わらない。ゼルもリンに甘いのだ。
ゼルとリン、ウェルド、そして今は都に盗みに行っているシャナとフールのグループ。このグループは、とある孤児院にいた少年たちによって構成されている。
幼い頃から同じ空間で同じ時間を過ごしてきた彼らには、他のグループにはない友情と愛情があった。
ゼルがあれと会うまでは、確かにあったのだ。
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