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占い
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放課後。
夕祐は檜山についてきてもらって、発明部を見学してきた。
先生が「ほら、部費が来たぞ!」とか言って皆が笑ってた、とてもユニークな部活でした。
「檜山君、発明部面白かったね」
「…」
「檜山君…、眉間にシワがよりっぱなしだよ」
「…」
「夜風君と春日君の事でまだ怒ってるの?」
「グッ…」
今日の昼休み、夜風と春日が男子からラブレターを貰ってると知ってから、鬼のような形相をしている彼。
「でも、モテるっていうのは、いい事じゃん、魅力的って事じゃない、それに夜風君も言ってたじゃん、心配するような事じゃないって」
「原因は分かってるアレだ…しかし悪い虫がついたら、兄さんと姉さんに顔向け出来ない」
原因?僕には何のことか分からないけど、檜山君は男子がラブレターをよこす心当たりがあるらしい。
「二人ともしっかりしてるから、そこら辺は大丈夫じゃない?」
そう、あの二人は、小柄で華奢だけど、檜山君と一緒で武道を嗜んでいるし知恵が働く、そこら辺の人では軽く返り討ちだ。それは檜山君も分かってるんだろう、返事は返ってこなかった。
「そこのお二人さん」
不意に、通り過ぎた教室から声を掛けられて夕祐と檜山が立ち止まる。
「どう?占い部、寄ってかない?」
軽いノリで話しかけてきたのは、僕らより大柄で人懐っこい笑顔を向ける男子学生だった。ふわふわの髪と笑顔がゴールデンレトリバーみい。彼は親指を立てて、クイッと教室に向けている。
襟元には、高等部2年のピンバッチ。
「占い部があるんですか?」
「今なら見学者サービスで、一回占っちゃうよ」
興味を示した夕祐に、先輩がニコニコして、肩に腕を回す。
「何でも占うよ、恋愛も占えるし」
「本当ですか? ねぇ檜山君、見学して行こうよ」
「俺はいい、一人で行ってこい」
うっわ〜、超絶不機嫌な檜山君、目つきがヤバイ。
「いいじゃん占って貰おうよ」
「…俺は、そういうの好きじゃない」
…これは、恋愛ってフレーズに地雷があったようで、檜山君の後ろからドス黒い殺気がゴゴゴゴーと音を立ててる気がする。
「まーまー少年、気楽に行こうよ、見学なんだから、入って入って」
先輩は、檜山のヤバイ目つきに動じる事なく、カラカラ笑って肩に手を回し、檜山と夕祐をグイグイ教室に押し込んだ。
「はーい、スペシャルコース2名様ご案内でーす!」
部屋の中まで入れられた二人。部屋の中は、黒いカーテンで窓という窓が塞がれ光を遮断していて、いくつか灯されたランプの薄暗い灯りの中、真ん中に丸いテーブル2台と椅子が4脚。いかにも占いの館といった雑貨が並んでた。
雰囲気満点の部屋に目が輝いた夕祐と、一層険しくなった檜山。
「いらっしゃいませ」
部屋の奥から、白い袈裟をまとった、聡明な印象の大人っぽい少年がにっこり微笑んで出迎えてくれた。
「すっごい、本格的なんですね」
「ありがとうございます。私は、イズミ、こっちはクロ」
暗くて見えなかったが、イズミさんが示した場所には、黒いマントを頭から被った小柄な人物が、フードを深々と被り顔が見えない。おそらく身長は春日君達と同じかそれ以下、クロと呼ばれた人は黙ったまま、ペコリとお辞儀した。
「早速だけど、何が占いたい?ちなみに僕は霊視、クロはタロットだよ」
「なんでもいいんですか?」
「なんでも一つなら構わないよ」
「そうか〜、悩むなぁ」
「占い師なら、分かるんじゃないの?」
不機嫌な声で、檜山がイズミに突っかかる。
「俺、霊とか予言とか、見えない物信じないんで」
ピリッとした空気を出した檜山君、しかし僕たちをここに連れ込んだ先輩の、ふわふわした軽いノリの声が空気を変える。
「あっ、顔見えないのが気になった?すまんねぇー、クロちゃんは人見知りなんだよ」
先ほど夕祐達を案内してくれた先輩がニコニコしながら言った。
イズミも檜山の態度を全く気にした様子はなく、テーブルの前まで出てくる、さっきより近づいて顔がよく見える、綺麗な顔立ち、凛と澄んだ空気を纏っていて、この人が只者ではない気がする。
檜山を見据えたイズミが柔らかく微笑んだ。
「そういうのもできますよ、君からにしましょうか?」
「俺はいいです、外にいますんで」
「あっ、檜山君!」
踵を返した檜山が扉に向かって歩き出す。
「来年!」
イズミの声にピタリと足を止める。
「君は運命の出会いがある」
驚いた檜山はギロリとイズミを睨んだ。
「は?」
屋上での夜風の言葉とかぶる。
恐らくこれも地雷だ。
イズミは檜山の視線を受け取って、さらに口角を上げ、目を細めて視線を夕祐に向けた。
「火浦君」
「はい!」
急に名前を呼ばれてドキリとする、イズミの深い色を持つ瞳が夕祐を捕らえた。
「あれ?…なまえ」
すると、イズミさんは、胸の辺りをトントンと指で指し示す。僕は自分の胸に手を置き、名札が付いてるのを思いだした、そこには〝火浦〟と名字が刻まれている。
あぁ、と僕が納得していると
「君は、強くてまっすぐで、聡明だ。占い部に向いてるから是非入部して欲しいな」
にっこり微笑んだイズミさんに呆気に取られてると
「ただの勧誘じゃないか」
ボソリと檜山君
イズミさんは、構わず言葉を続ける。
「火浦君は、そのまま続ければいい、間違った選択はしないから」
「!!」
「おい!夕祐行くぞ!」
檜山の言葉にハッとする、彼はもう廊下に出てこちらを見ていた。慌てて追いかけようとすると。
「檜山ヒナタ君、一つ忠告するよ」
イズミの声で檜山は歩き出してしまう。
「手は離さない方がいい」
檜山は振り返らない。
僕は走って檜山の所まで行き、振り返ると、イズミと案内役の先輩が廊下に顔を出し手をヒラヒラ振ってくれていた。僕はお辞儀して、その場を後にした。
「檜山君」
「…」
「檜山君、ちゃんと聞いてた?」
「俺は興味がない」
「あの人の言ってること当たる…そんな気がする」
「勧誘されただけだろ」
僕はピタリと足を止めた。
でも…あの人
あれは勧誘じゃなくて僕のこと…
『そのままでいい、間違った選択はしない』
そう言われた時、電流が走って、戀兎のことが脳裏に浮かんだ。あれは、戀兎との事を言われた気がした。
だから、檜山君も…
まったく聞く耳を持とうとしない檜山は、さっさと行ってしまう。
そうだ
明日、もう一度行ってみよう。
そしたらもう少し詳しく分かるかも。
それに、檜山君。
名札には名字しか、書いてないんだよ?
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