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春休みの帰省-1
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高等部からは外部生も増えて、一学年400人のマンモス校になる。10クラスもあるなんて少子化が進んでいる現代では珍しいのではないだろうか。全寮制なので高等部の寮もかなり大きな建物になる。
中等部の卒業後、伯父夫婦から懇願されていたので春休みの間、俺は帰省する事にした。
ーー分かってはいたんだけど、やはり胸が苦しいな。
伯父夫婦の家には兄の和也の姿はなかった。しかも初めから存在しないかのような雰囲気を出されては、話題にすることすら躊躇してしまうのだ。
伯父は学園は楽しいか、勉強には付いていけているかと聞き出しては楽しそうに柔らかく微笑んでいるし、伯母は何かのパーティーかと思われる程のたくさんの料理を作ってくれた。
ほとんど食べない俺に文句一つ言わず、痩せている事にもあえて触れないようにしているのが嫌でも分かる。
一見アットホームな家庭のようだが皆が皆取り繕っているみたいで、寛ぐどころか息苦しさが増していくばかりだった。
それでも時間は過ぎていき、誰も変化を求めない。過ちの数々を思い出し、俺は更に眠れなくなり顔色も悪くなる一方だった。
伯父の休日になり二人に連れられて、最近オープンしたばかりで話題になっているというショッピングモールに行くと、頼みもしないのに俺の服を選んで次々と購入していった。
店員がアドバイスをすると聞き逃さないように真剣に聞いている伯父夫婦は、いったい何が楽しいのだろうかと冷めた目で見ていた。
「息子さんならこちらの暖色系はいかがでしょうか」
太陽の光を避けて暮らす俺は、血が通っているのかと疑われるほど生っ白いからな。せめて服の色で温かみを出すってか。
「なるほど。父さんもブルーよりオレンジ系が似合うと思うよ、なあ母さん?」
「ええそうね!隼人君に似合うと思うわ!」
そしてさっきから気になるのがやたらと俺の親アピールをしてくる所なんだよな。
「親子でお買い物だなんて素敵ですね」
うっとりとした顔で素直に告げてくる店員の言葉に伯父夫婦は大喜びだ。いい加減にして欲しい。
疲れきった俺にようやく気がついた二人は、はしゃいだ演技をしている様にしか見えないのだが、そこだけログハウスのように暖かみのある木目調に装飾された、いかにも落ち着きそうな雰囲気のカフェへと促してくれた。
又々頼んでもいないのに疲れた時は糖分よね、とか何とか言いながらパフェを注文する伯母。じゃあ父さんも食べてみようかな!と店員に再び親アピールをする伯父にうんざりした俺は、ただ時間が過ぎるのを待ち続けた。
俺たちの前にパフェが置かれると、テンションの高い伯父夫婦は何やら話しながら食べ始めたが、俺はひと口含むと胸がむかむかして来たので慌てて水で流し込んだ。
その様子を見ていたはずなのに伯父達は何も言わないし、これからの予定を話し出す始末だ。
「……もう帰りたいんだ」
ぼそっと本音を口にすると、二人の方から息を呑む音が聞こえてきた。
ーーもう無理なんだ。限界だよ。
この場で言うのは相応しくないだろうが、ヘンテコな親子茶番劇に吐き気がした俺が口を開けたその瞬間、聞き覚えのある声で俺の名が呼ばれた。
「あれ?佐藤じゃないか?」
まさかの百瀬だった……。
どうやら百瀬の地元も都内だそうで、話のネタにここへ来ていたと、聞いてもいないのに知り得た店の情報をペラペラ話し出した。
伯父夫婦は学園で俺に友達が出来たのだと勘違いしたらしく、大喜びで隣の席を勧めてしまった。
百瀬は小柄な女の子と間違うような綺麗な顔の男の子を連れていて従兄弟だと紹介してきた。彼も同い年でこの春から外部生として俺たちの学園に入学してくるそうだ。
「初めまして。僕、速水圭介( はやみ けいすけ)て言うんだ。この春から宜しく!」
キラッキラに眩しい笑顔で話しかけてきた。げっ、こいつも光の中の住人かよ……こういう類の人種とは馴れ合うつもりは無いんだよな。ペコっと会釈だけを返した俺に少し戸惑ってるようだが、それでいいんだ。俺のことは変人だと思って近付かないでくれ。
「あらあらまあまあ。うちの子は照れ屋だからごめんなさいね。ふふふ」
「すまないね速水くん。息子を、隼人をよろしく頼むよ」
再び伯父夫婦のその場を取り繕っている様子が悲しくて、でも何だか嬉しくもあり泣きそうになった。俺だって父親に捨てられて行き場を失った時、引き取って有名私立校にまで通わせてくれる恩人に嫌な態度は取りたくはないんだよ。でも、こんな明らかに作られた家族ごっこはおかしいだろ。
居た堪れない気持ちで俯いていると、速水が学園のことを知りたいと言い出して、百瀬に質問をし始めた。お節介な百瀬が意気揚々と説明をし出すと伯父夫婦もその話に聞き入り俺を除いた4人で盛り上がっていった。
万年寝不足の俺は、こんな時に限って睡魔に襲われてしまい、瞳孔が開いたいつもの怪しい目をしながら脳みそだけ寝てしまっていたようだ。気が付くとかれこれ30分は経っていたが、まだまだ話は尽きそうにない。
百瀬の話に伯父夫婦が夢中になっているので帰りたいとも言えずイライラしていると、速水が突然何かを思い出したようにあっ!と声を上げて、ポケットからスマホを取り出し俺の携番を聞いてきた。
「スマホ……持ってないから無理」
何とか声を絞り出すと、伯父夫婦が眉尻を下げながら困り顔で俺を見てきた。そうだよな。俺、スマホ持ってるし。嘘ついてるのバレバレだからな。
速水はきっと鋭い子なのだろう。何かを言いかけたようだが俺の冴えない顔を見ると、じゃあ仕方ないねと言って諦めてくれた。
空気の読めない百瀬だけが、伯父夫婦にスマホの必要性を語りだし、是非息子さんに持たせるようにと説得が始まったので、心の中で謝っておいた。
百瀬が晩御飯まで一緒にどうかと提案してきた時には俺の苛立ちは最高潮に達していたのだが、すかさず速水が遠慮してくれたので、親子水入らず風を醸し出しながら別れる事になった。
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