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春休みの帰省-2
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偶然百瀬たちに会った日からギクシャクしながらも、俺たちの束の間の親子劇は続けられ、春休みの帰省は最終日となった。
明日には隣の県の学園に戻り、翌日には高等部の入学式が控えている。
俺は学園側の配慮によって、高等部でも同室者はいないと聞いている。
風呂から上がると脱衣場にはフカフカのバスタオルが用意されていて、何気ない優しさが嬉しかった。ふと父親に置いて行かれて独りで生活を強いられた日々を思い出した。
あの時は風呂に入る余裕もなくて、薄汚れた幼い俺は部屋の中で戻るかも分からない親父を待ち続けていたんだよな。
寂しいと感じなくなるくらい毎日を生きるのに必死だった気がする。先が見えない不安に怯える自分を思い出すと、そこから救ってくれた担任の倉木先生や、伯父夫婦に感謝の気持ちでいっぱいだ。
優しく迎え入れてくれた家族。俺さえ来なければ、この家庭は今でも兄を中心に幸せな温度を保っていたはずなんだ。
ーーこの家庭を壊したのは俺!?
兄だけが悪いわけじゃないのにと、ずっと思っていた。俺も悪かったのにと。でもそもそも俺がこの家に引き取られなければ……。
無性に兄に会いたくなった俺は、海外に行ってからずっと避けてきた兄の部屋の扉を開けて愕然とした。
そこには何も無かった。机もベッドも棚も、兄が勝ち得てきたトロフィーも全部!全部消えていたのだ!
処分したのは伯父夫婦だろう。あまりにも酷すぎる。俺が壊した家庭の行く末が目の前の光景だなんて……。
俺はガタガタと震えだしたが転びそうになりながらも階段を駆け下りて、伯父夫婦の部屋に駆け込んだ。
どんな事があっても泣かなかった俺が、涙を流しながら現れたことに、伯父夫婦は驚き直ぐに側に来てくれた。その優しささえ今は悲しくて仕方がない。
「なんで……なんで和也兄さんの部屋が」
そこまで言うと喉が締め付けられて呼吸すら苦しくなり、その場にうずくまると俺は唸るように泣き続けた。
かなり時間が過ぎたようだ。泣き疲れて声も枯れているが、ここでくたびれている場合ではない。
兄がこの家に存在しないものとして扱われている事が辛くて苦しくて、伯父夫婦にどういう事なのかと問い詰めた。
「すまない。今はまだ何も話せないんだ。あれから月日は経ったがまだ私達は混乱している。だが良い方へ進展はしているんだ。もう少し待って欲しい」
伯父は静かにそう言うと、俺の目をじっと見つめてきた。その瞳にはこれ以上は聞いて欲しくないという気持ちが込められていて、俺の質問には答えたくないという拒絶が現れていた。
「どうしてここまで意固地になるのか分からねえ。和也兄さんだけでなく俺にも罰をくれよ。俺と和也兄さんは共犯だろ?」
伯父は唇を噛み締めて何かに耐えるような表情をしていたが、黙ったままで目を逸らされてしまった。俺の言葉に何も返さない伯父夫婦を見て一気に体の温度が下がった気がした。
ーー俺は本当の息子ではないから罰すら与えてくれないんだな。その資格がないって言うならもう求めない。その代わりに俺が俺自身に罰を与えるよ……俺は幸せになってはいけない。
足腰に力が入らないが、部屋に戻るためのそのそと立ち上がると、もう一度「すまない」と言われたが、俺の心には何も響かなかった。
久しぶりに泣いた目は腫れ上がり、結局一睡も出来なかった俺は、翌朝予定時間よりも早く学園に戻る事を伝えた。
伯父夫婦が買ってくれた沢山の洋服を小型のキャリーバッグに詰め込んでいると、その時だけ二人の口元が綻んでいた。
駅まで送ると申し出てくれた伯父夫婦に断りを入れると悲しそうに微笑んでいた。
「隼人くん……夏休みも帰って来てね」
伯母が寂しそうな声を掛けて来るので、又泣きそうになったが必死で堪えた。
「その言葉、和也兄さんに言ってあげてよ」
俺はあえて明るく言うと、二人の反応を見る前に家を出て、目的の場所まで急いだ。
ーーきっとあの人なら知っているはずだ!
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