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兄からの電話-2
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『君に何も話さ無かったのは悪いと思っているよ。僕が弱くて、また君を囲い込んで縛り付けてしまうかもしれない不安があったから、隼人くんには何も言わずにあの家を出たんだ』
兄はそこまで話すと、ふぅーーっと息を吐いた。バフっと音がしたのでソファーにでも座ったようだ。
「和也兄さん!俺まだ混乱してるんだけどさ、これだけは言わせてくれ!伯父さんの家庭を壊したのは俺なんだ!俺さえあの家に引き取られなければ……」
『違うよ隼人くん!何度も言うけど、僕が弱かっただけなんだよ。君は君の本当に好きな人と幸せになるべきだ。あんな関係に付き合わせてしまって、僕こそ本当にすまなかった』
どういうことだ?何を言っても兄は自分のせいにするだけで、俺の話を聞いてくれないのではないだろうか。途方に暮れていると、兄が再び話し始めた。
『あのね、僕は海外に来られて良かったんだ。ここは僕の事を知らない人ばかりだ』
だから優等生振らなくてもいいんだ。本来の自分で暮らせるし自由なんだよ、と言った兄の声は解放された事を心から喜んでいるようだった。
『あとね、隼人くんを好きな僕ごと愛してくれる恋人ができたんだ』
照れくさそうに話す兄の顔が浮かび上がって来た。きっと彼はいつもの癖でコメカミをポリポリかいているんだろう。
「てか、何で俺の事まだ好きでいるんだよ!」
『当たり前だろう?そんなにすぐには忘れられないよ。でも徐々にアレックスのお陰で君の事は良い思い出として替えて行けそうな気がするんだ。……人に愛されるって素敵だよね。隼人くんも僕の事は一時の気の迷いだと思って欲しいんだ。ちゃんと好きになった人と幸せになって欲しい』
その時、和也兄さんの後ろで彼を呼ぶ声が聞こえた。きっとアレックスって人だろうな。兄は包み隠さずアレックスに全てを打ち明けたのだ。それでも兄を丸ごと受け止めて愛してくれた。
ーーそんな事がこの俺にも?
兄はアレックスに先に言ってくれと声をかけて、再び俺に向かうとしょうがない子だなというような口調で話しかけて来た。
『まだ何かぐちぐち考えてたりするんでしょ。ふふっ』
「だ、だからさ。俺はとりあえず幸せになっちゃダメなんだよ!」
『もう本当に頑固な子だね。あのね、今度両親とはきちんと話しをするから。あの二人にも納得してもらえる自信があるんだ。だから安心して幸せになってよ。そして今度の夏休みはあの家で皆で会おうよ。家族4人でさ』
兄は一寸の迷いもなくそう言った。
「家族4人……俺もその中に入れてくれるのかよ」
『当たり前だよ。君は僕の大切な弟で、掛け替えのない家族だからね』
なんだろう。俺、このまま甘えてもいいような気がして来た。それに胸が熱いよ。
兄の後ろで再びアレックスの呼ぶ声が聞こえた。
『ははっせっかちだな。じゃあ今日はもう切るね。いつでも掛けて来ていいんだよ。今まで話せなかったのは、僕から両親に連絡先を教えないでって頼んでたからなんだ』
兄の心の整理が着くまでは、俺とは話をするのを控えると、伯父夫婦に頼んでいたそうだ。なんだよ紛らわしいな。伯父さん達もそれならそうと言ってくれりゃあ俺だってこんなに落ち込まなくて済んだのに。
しかも兄の部屋の荷物たちは、すべて契約倉庫に預けているそうだ。俺がいつまでも兄に同情しないために、俺の目から兄のもの全てを遠ざけたらしいのだが、余計に気になるだろうが!半ばやけくそに言うとごめんごめんと何とも軽い返事が帰って来て拍子抜けしてしまった。
これ以上話すとアレックスに悪いと思ったので、また連絡しようと約束をしてスマホをタップして通話を切った。
ーーうーん。これは頭の整理が必要だな。
急展開についていけず、とりあえず水でも飲むかとソファーから立ち上がって振り向くと、百瀬が泣き笑いのような顔で俺を見ていた。なんかややこしいことになりそうだ。でも、これを機会に全部打ち明けられたら俺の中で何かが変わるんじゃないかという期待もある。
「百瀬はどこから話を聞いてたんだ?」
「ごめん、その、佐藤の携帯が鳴るなんて珍しいから誰からか聞こうと思ったんだけど、話の内容がなんか深刻そうで……それにどうやら俺にライバルがいるみたいだし」
盗み聞きがバレたのも気不味いだろうし、今の会話を俺の部分だけ聞くと、かなり誤解も生じるよな。
兄のことをライバル視しているようだし早めに誤解は解いておきたい。
項垂れている百瀬の近くまで行くと、百瀬は俺に殴られると思ったのか目を瞑って身体を硬くしているので思わず笑ってしまった。
「ここで殴ってもお前を喜ばせるだけだろ……俺の過去も全て聞いて欲しいんだ。お前が学園から帰ったらきっちり話をするから、それまで待ってくれ」
優しく言うと案の定、殴らないのか?と少しガッカリした残念な男は、急に不機嫌になった俺にビビってすぐに謝って来た。
それから用事を済ませて戻って来るからと大騒ぎをしながら出て行った。
ーー百瀬のどこが落ち着いていてかっこいいんだよ。
百瀬を賞賛する言葉がすべて嘘くさいなと思いながら、俺は水を取りに冷蔵庫へ向かった。
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