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鈍感すぎる百瀬-1
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「君たち付き合ってるんだろ?」
大杉の突然の質問に驚いた俺は、暫く固まっていた。あれだけ逸らさず百瀬を見ている男なら、百瀬の変化にも敏感になっているだろう。いつから見抜かれていた?
「俺と頻繁に会うのは偶然では無かったんだな。俺の周りで何をしてたんだ?」
「質問で返すのはずるいよな」
「……」
大杉は根は真面目で誠実だと言うのは嘘ではないだろう。きっと俺たちの事を話しても周りに広めるような野暮な事はしないと思う。だったら正直に言うか……。
「俺と百瀬は付き合ってる。恋人だ」
それまで何か張り詰めていた空気が和らぐと、大杉が固い表情を緩めてそっか、と言い、何かが吹っ切れたのか自分の想いを話し始めた。
「俺は小学生の頃から百瀬が好きだ。気が付けば百瀬の魅力に惹かれていた。だがあいつは俺に友情以外の気持ちは持たなかったんだ。……俺は自分の気持ちを話す気は無いよ。長い長い秘められた初恋だ」
遠い日を思い出すかのように静かな声で柔らかく語る大杉が、一途で素直な少年に見えた。きっと自分の想いを伝えたい衝動に駆られた日もあったと思う。
「だから百瀬の友達としてあいつを守ると決めていた。喧嘩なら俺よりあいつの方が断然強いが、心の支えになりたいと思って今まで自分の気持ちに蓋をして接して来れたんだ」
そこで突如現れたのが佐藤だ。百瀬は好奇心で身体の関係になる事はあっても決して本命は作らなかった。だから俺はいつまでも百瀬を慕い続けて来れた。しかしいつか百瀬に本命が現れた時は、自分の気持ちにケジメをつけようとも思っている。
大杉はどこまでも穏やかな口調でそう話してくれた。
「周りをウロウロしてすまなかったな。お前がどんなやつかを見極めたかったんだ。でもそれは必要ないと分かったよ。百瀬が見間違うわけがないからな。俺は百瀬を信じるさ……そして、やっと初恋を終わらせる事が出来る。あいつをよろしく……」
最後の方は吐息に紛れて聞こえにくかったが、俺は大杉の目を見ながらしっかりと深く頷いた。
大杉は薄く笑うとコーヒーを一気飲みし、すまんトイレ、と言って歩いて行った。体育会系の男前を、話に夢中だったはずの店内の女子が目で追っているのが嫌でも分かる。その男前の目は涙で滲んでいたが、俺は気が付かない振りをした。
百瀬の近くで何回も季節が巡るのを共に見て来たであろう大杉が、隠し通して来た熱い想いをそう簡単に忘れることは無いだろう。
百瀬に恋焦がれた気持ちは良くわかる。俺もやつに魅入られた一人だからな。それを諦めようとする大杉の胸の内を、想像するだけで心臓が鷲掴みにされた気がした。
ただの傲慢かもしれないが、佐藤になら百瀬を託しても良いと、大杉に認められたいという欲が湧き上がって来た。しかし俺たちの風変わりな関係性は理解出来ないかもなと思い、自然と笑いが込み上げ苦笑いをした。
「ちょっと!あのイケメン戻って来たわよ。やばいんだけど」
急に店内がざわつき始めた。何かと思えばつい先程まで体育会系の男前こと大杉に、熱い秋波を送っていたはずの女性達が、優雅な身のこなし方で狭いテーブルの脇を掻い潜って来る百瀬に興味を移しているようだ。忙しいな。
「佐藤、待たせたな」
「は?待ってねえよ」
「……っ」
俺のきつい返しに喜びながら隣に座り、満面の笑みをうるさいほど投げ掛けて来る。鬱陶しいと文句を言ってもめげず、俺のしょぼい腕に引き締まった筋肉質な腕を絡ませて、熱のこもった瞳で見つめて来た。
ーーち、近い、近い!
どう大目に見ても友達の距離ではないと断言できる。さりげなく絡んで来た百瀬の腕を、指に力を込めて抓っておいた。
「さとう……はぁ、帰るまで待てないのか」
「はあ?っざけんな。離せよ暑苦しい」
勘違いをして興奮しだした百瀬に腹が立ったものの、まあいつものことだし本気で言ってるわけではない。試食について来たクッキーを百瀬の口に放り込むと、ぶっきらぼうに言った。
「別にお前の為に残してたわけじゃねえからなっ!」
そこで隣のテーブルの女子高校生たちが、ツンデレ萌えーー!と鼻息を荒くしているのを視界に入れた俺は、お?腐仲間ならサービスしてやるかと乗り気になった。
本能の赴くままに振る舞う百瀬に便乗し、近過ぎる位置にある秀麗な美貌を見つめ返すと、テーブルの下で皆から死角になっている足を踵でギリギリと踏み付けていった。
「……んっ」
目元が桜色に染まり形の良い唇から漏れる吐息が熱くなるのを見ながら、更に踵に力を込めていくと、既に周りが見えなくなっている百瀬は絡めた腕を強くした。
今にもキスしそうなほど接近した綺麗な顔が、近づき過ぎてぼやけて見える。
「はぁはぁ、いけ!そのまま甘噛みからの濃厚な接吻を!のおおおおおお」
ーーおお!盛り上がって来たな!
今ので腐女子と確定した女子高校生たちに、流石にキスはできないが、更なるエロスを提供しようと百瀬の脇腹に伸びた手をワキワキさせて、いざ抓ろうとした瞬間……。
べしっ。ばこっ。
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