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幸せの残骸 ※最期の願い その後
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どんなに泣いても涙は枯れることはないって、彼を喪って初めて知った。
何をしていても今は居ない恋人のことを思い出す。
抱きしめた温もりは思い出せるのに、手を伸ばしてももう届くことは無い。
「洸ちゃん...」
名前を読んでも返ってくるのは静寂ばかり。
募る想いはどこにも吐き出せないまま、心の奥深くに隠されていく。
あの日から何度眠れない夜を過ごしたのか。
笑っていて欲しいと言う恋人の最後の願いは、まだ叶えられそうになかった。
事務所はまだ洸介を喪ったことの喪失感でいっぱいだった。
佐久本洸介という存在の大きさを改めて実感する。
立ち直れないのは俺だけじゃない。
それは、ある意味ではとても喜ばしいことなのかもしれない。
「おうちゃん、大丈夫?」
「あ~...なっちゃん。そっちこそ」
洸介のデュオの片割れ、仲本央(なかもとひさし)が資料から顔をあげた。
相方を失った央は、そのまま『仲本央』として芸能界に残るかを悩んでいるようだった。
正反対な二人だったけど、見えない絆で結ばれていた『K-2』
考え方は違うのに、K-2の活動となると阿吽の呼吸で物事を進めていく二人に、軽く嫉妬を覚えた時もある。
「俺は...まぁ、大丈夫。洸ちゃんから色んなもの貰ったから」
愛することの強さと弱さ。
大切な人が存在することの奇跡。
洸介と一緒じゃないと知ることの無かった、沢山の気持ち。
色んな想い出を想いだすだけで、心は温かくなる。
「惚気けるねぇ」
「...愛してる、からね」
まだ「愛してた」って過去形にはしたくない。
「名瀬、大好き」って声が、耳に残ってるから。
事務所を出ると、収録の為テレビ局へ移動する。
ほとんどの人は、洸介と仲良かったこと知ってるから腫れ物に触るように俺を扱う。
中には神経逆撫でするような事を聞いてくる輩もいたけど、そういうのは一切無視していた。
世間は洸介が居なくなっても、変わらずに動いている。
当たり前の事だけど、それが少し悲しい。
仕事を終え部屋に帰ると、そこに残る洸介の存在に泣きそうになる。
お揃いで買ったマグカップ、洗面所にある歯ブラシ、洸介の服。
形見として貰った指輪は、チェーンをつけて肌身離さず持っている。
大切なものだから、心臓に1番近いところに身につけていたかった。
寂しい時洸介がしてたように、ソロコンの映像を見る。
色っぽいダンス、切ない歌声、時折見せる笑顔。
何もかもが愛しくて、やっぱり泣けてきた。
「俺が居ないと名瀬はダメダメやなぁ」
そんな呆れた声が聞こえてくる。
幻でもいいから、逢いたい...。
まだ笑顔でなんて居られないよ...。
いつになったら恋人との約束を守れるのか分からないけど、今も悲しいだけじゃない気持ちはどこかにある。
いつの日か洸介のことを想い出して、心の底から笑える日がくる。
その日は必ずくると、記憶の中の洸介が教えてくれる。
「名瀬、笑って?」
笑顔の洸介がそう言った。
*****
最期の願いと合わせて1作品みたいな感じです。
音楽を聴いて作品思いつく事が多いので、まさかの死設定となりましたが、短編集自体はこれからも続きます!
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