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23時間
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死神は歳をとらない。
もしなおがこのまま死ななくたって、なおは大人になって、おじさんになって、おじいさんになって、…絶対俺より先に死んでしまう。
昔からそうだった。もう何回も出会いと別れを繰り返している。俺が歳をとらないことを不思議に思われる前に、姿を消さなければいけないし。結局俺たちに訪れるのは別れだ。
なお、キミは。キミは子供でいる自分を恥じているね。背伸びして、大人の真似事ばっかりだ。でも、大人になって知ることより、子供の時に覚えたことのほうが価値があるんだよ。
建前と我慢と円滑な人間関係の築き方、そんなことよりも、純粋に芽生えた感情のほうがずっと、ずっとね。
「んん、…先生」
「あ、ごめんなぁ、起こしちゃったね」
「うん、気持ちいい。先生に頭撫でられんのスゲェすき」
そういって目を細める、なお。なおは思い出したかのように視線を自分の胸に移す。その行動にまた、俺の心は痛む。俺が、仕掛けたことなのに。23、たった23時間しかない。なお、キミは大人になれないよ。キスをしても、セックスをしても、大人にはなれない。
「聞いて欲しいことがあるんですけど」
「なお、もう帰りな」
「………は?なんで?」
「あのさぁ。キミ、やっぱダメだよ。よく考えてみて、俺とキミじゃ幸せにはなれない」
「……どういうこと、一週間は傍にいてくれるって言ったじゃん」
「あはは、バカだねぇ。これだから子供は嫌いなんだよ。覚えておくといいさ、大人は嘘と保身で出来てるんだよ。なおがあんまりにも必死だからお試し期間なんて言って付き合ってあげたけど、キスは下手、セックスも下手、…キミのために社会的立場を失ってもいいって思えるほど、熱くはなれないね。俺は。」
大人だから。
キミには幸せだとおもって死んで欲しかった。そのためなら傍にいてあげようと思った。だけど大人は自分勝手な生き物なんだ、俺はあんな、あんな沢山の愛をみせつけられて、なおの魂を喰えない。そんなのね、そんなのダメなんだよ。
死んだ人間の魂を回収するのが、俺の仕事だ。仕事なんだ。だから仕方ない、俺が悪かった。俺のわがままが引き起こした恋は、俺のわがままで終わらせなくちゃ。キミの魂は俺しか弔ってやれないのに、俺がそれを拒んだらキミの魂はどこにいくっていうんだよ。
23時間で俺は俺の気持ちに蹴りをつける。人間を特別な目で見てしまった自分に、ちゃんと手錠をするからね。大丈夫、キミを天国に連れてってあげる。俺がちゃんと、天国に連れてってあげるから。
「嘘つき」
「うん。知ってたでしょ。そんなこと初めっから。」
「俺にはもう時間がないんだよ!」
「ンー?なんの話?キミにも未来はあるよ、こんなとこで躓いてちゃいけないね」
「…あと、一日もねぇんだ、先生、先生のそばに居たいよ、キミって呼ばないで、そんな他人みたいに」
「他人だよ。キミは他人。ほら、ここでさ」
ここで、ここで。
「終わりにしよっか。」
23時間後、もう一度キミの夢に俺が現れても、キミは泣かないで、俺にひどい言葉を投げて、そしてどうか安らかに。
寝癖の酷い髪を直してやる、なおに触るのはこれで最後だ。あぁ、やめて、そんな捨てられた犬のような目をしないで。その目に俺は凄く弱いんだ。その目に俺は恋を、初めて恋をしたんだよ。
目を瞑って三秒。キミがいち、に、さん、と数えているのがわかる。それは悪夢撃退法だと言っていたね、ごめんね、これは夢なんかじゃないんだよ。
「やだなぁ、まぁた目、閉じてさぁ。どーしちゃったの、変なの。」
ぼろ、ぼろ、ぼろ、と、涙がまるで鱗みたいでさ。俺はそれを拭ってやったりはしない。俺は大人だから。
無言で立ち上がるなお、そのまま鞄を引っ掛けて部屋をでていく後ろ姿を見つめていたら、バタン。と、玄関の扉が閉まった。
おかしいなぁ。おかしいね。
涙が止まらないよ、なお、ごめんね、なお、すきだよ、だぁいすき、なお、なお、ごめん。最期まで傍にいてあげられなくて。最期にこうやってキミを苦しめて。
本当に ごめんね。
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