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「…分かった。じゃあ俺の力を出来る限り伊織に送る。成功するかは分からないけど、既にかなり同調しているから可能性はある。力があれば、俺の体を介して日高先生と話す事が出来ると思う」
「ありがとう。…ごめんね、こんな事をさせて」
「…俺がやりたくてやってる事だよ」
これに関しては本当に俺の自己満足でもある。むしろ付き合わせているようなものだ、と思いながらも目を瞑り、伊織へと意識を集中させる。
「……」
「っ、」
自分の何かが流れていくような感覚に耐えながらも神経を尖らせる。暫く経つと、目の前から伊織の気配が消え、代わりに自分の中に伊織がいる事に気が付いた。多少荒業だったが、どうやら成功したらしい。そのことを自覚したと同時に、何故か目の前が霞んで見えた。
「……ごめんね、千梨」
完全に意識が飛ぶ前、そんな伊織の声が聞こえたような気がした。
***
「慧。…久しぶりだね」
「貴方は大御門…いや、まさか」
「千梨は今は寝てる…それとも見えてるのかな」
「…、本当に、伊織なのですか」
ぼんやりとした視界の中に日高先生が映る。二人の声も少し遠くに聞こえ、まるで夢を見ているような感覚だ。
「慧、ごめんね…」
「っ、何故あなたが謝るんですか、悪いのは私でしょう。あの時伊織を信じていれば貴方は学園を飛び出していくことなどなかった…死ぬことも。私のせいであなたは、」
「ううん、違う。僕が死んだのは慧のせいなんかじゃないよ。…慧は何も悪くない。だからもう、僕の事は忘れて欲しい」
「…忘れられるわけ、ないじゃないですか。私はまだ、伊織の事が」
「駄目だよ。僕はもう…死んでるんだから」
「っ、」
強い伊織の口調に日高先生は顔を今でも泣き出しそうに歪めた。それを見て伊織はいつものように、困ったように笑う。
「……それでも、もう遅いのだとしても、あの時私が言わなければならなかった事だけは言わせて下さい。…私は今でもあなたのことが、好きです。きっと、出会った時から。だからこそ、あの時私は迷って良い筈が無かった。あなたの言葉だけを信じるべきだった」
日高先生が声を震わせながら、それでも真っ直ぐに此方を見て言った言葉に、何故だか酷く嬉しいような、悲しいような、どうしようもない感情に包まれた。これは伊織の感情なのだろうか。
「…ありがとう、僕も同じだよ。…きっと、僕も出会った時から慧の事が好きだった。でも、駄目なんだ。…慧はもう僕とは違う。慧はちゃんと生きていかなきゃいけないんだ」
少し諦めたように笑った時、目の前の日高先生の瞳から涙が零れた。それと同時に、何故だか自分の目からも同じだけ涙が零れて止まらなくなってしまった。
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