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朝起きて、父親が部屋にいないことを確認すると、起き上がって放心状態になる。しばらく何も考えていなかったが、ふと、汚い、と思った。身体の痛みに気づかずに素早く立ってお風呂場に向かう。冷たいシャワーを浴びながら、ゴシゴシと皮膚を擦る。あんな状況で、はしたなく感じて、勃ってしまった。薬を使われて、酷い状況の中で犯された後はいつもこうだった。汚い、汚いと何度も呟きながら目は虚ろのまま擦る。こんなことで自分が綺麗になる感覚はなかったが、しないよりマシだと思った。
連日の性行為に心身ともに疲れていたが、家にはいたくないため今日も学校に行く。智樹とは普通に話せた。昨夜の自分の乱れた姿を想像し、智樹と話している自分との違いに自嘲した。こんな汚い自分を隠して智樹と接していることに後ろめたさを感じながらも、隠さなければいけない、気付かれたらおしまいだとも思っていた。
放課後、昨日のことがあったから、図書館に行くのが躊躇われた。放心状態になれるあの時間がなかったら、自分はダメになってしまう。でも、また注意されるのが怖かった。図書館に入って、彼がいたらすぐ出よう。そう思い、足を踏み入れた。蓮の心配をよそに、彼は図書館内にいなかった。念のため座る席を変えて、いつものように座った。
また無意識のうちに放心状態になっていた。ただ、昨日と違っていたのは、声をかけられるよりも前に身体に触れられたことだった。大きく身体を揺らして反応してしまい、一気に覚醒する。目を大きく見開いた先に見えたのは、昨日の彼だった。
彼は、蓮の肩を揺すっていた。ただ、それだけ。それだけの接触が、蓮には恐怖だった。
「また読んでないだろ…て、おい、どうした?」
最初は昨日と打って変わってからかうような視線を送ってきた彼だったが、蓮の身体が震えているのを見ると眉間に皺を寄せて問う。自分に触れているのは父親たちではなく、昨日の人。そう認識するのは、はたから見たら一瞬でも、蓮にとっては長くかかった。
「…っ、あ、大丈夫です。すみません、もう出ます。」
昨日の彼だということを認識したものの、蓮にとって怖い存在であることに変わりはない。またボーっとしてしまったから、注意されてしまう。そう思い、声を絞り出してそう言うと、彼の表情は一層険しくなる。本を手にとって返しに行こうとした蓮の進行方向に立ち、進路を阻んだ。
「責めてるわけじゃなくて…、ごめん、俺、顔怖いよな。気をつけてるつもりなんだけど…。」
切れ長の目、スッと通った鼻筋、薄い唇は少し口角が下がっている。綺麗な顔立ちであるがゆえ、黙っているだけで人を寄せ付けないようなオーラを放っている。そんな彼の困ったように笑う表情を見て、勝手に怖い人だと決めつけていた自分が一気に恥ずかしくなった。
「…いや、僕もごめんなさい。本、読んでるわけじゃなくて…ちょっと、ボーッとしちゃっていて…。」
「知ってる。いつも本を目で追ってなかったから。てか、俺ストーカーみたいだよな、悪い。昨日も、責めてるつもりじゃなかったんだ。話しかけてみたかっただけで…ビックリしただろ?ごめんな。」
悪い人じゃない。そのことが、たったこの数分で分かってしまう。初対面の印象がマイナスだったから尚更、意外性に驚いた。話しかけてみたかった、だなんて人に言われたことがなく、こんな自分にどうして、とは思ったが、嬉しさの方が勝った。
「う、ううん。大丈夫です。」
躊躇いがちにそう言うと、彼はホッとしたように笑った。
「俺、南高校2年の、立花光希。おまえは?」
「僕は…北高校1年の、上川蓮です。」
昨日は同い年くらいに見えたが、こうして立って話してみると、光希の背は蓮より15センチほど高く、大人っぽく見えた。図書館であるため小声だが、声も心地の良い低さで、何もかも自分と違って見える。家庭内がひどい環境である蓮にとって、友だちの存在は支えになるものであるため、学年は違うものの光希という新しい友だちができたようで、胸が高鳴った。
「俺もよくここ来るんだ。今の時期、窓から見える桜も綺麗だし。ほら、ライトアップされていて綺麗だろ。蓮もたまには見てみろよ。」
そう言われて、ふと目線を上げると、光希越しに夜桜が見える。綺麗だ、と思った。心が満たされる感覚がする。久しく得ていなかったその感覚に戸惑うが、澄んだ瞳をキラキラさせて桜を見つめていると、光希は目を細め嬉しそうに蓮を見た。
「ありがとう。言われなきゃ、気づかなかった。」
敬語も忘れ、目をキラキラさせながら言う蓮の姿に光希は笑い、綺麗だな、と言った。
しばらく2人で窓の外を眺めたあと、閉館時間になったため駅に向かって歩いた。
「俺、こっちだから。気をつけろよ。また明日な。」
明日。学校は違うのに、当たり前のようにそう言われて嬉しくなる。昨日出会ったばかりの光希に憧れを抱いたのは確かだ。早くまた明日会いたい。そして、会えると思ったら、別れたばかりなのにドキドキした。恋を知らぬ蓮にとって、未知の感情だったが、いつもの絶望感を忘れて帰路についた。
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