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しばらくベンチに座っていたが、21時半になろうとするときに、蓮はハッと時計を見た。遅くなると、父親が寝ていなかった場合、また酷いことをされる。帰らないと、と思うと同時に、帰りたくない、と強く思う。光希に醜態を晒してしまったが、優しく対応してくれたことに感謝をしていた。どこまで知っているのかは分からないが、変わらない態度が嬉しかった。ますます光希と一緒にいたいと思ってしまう。そんな気持ちが表れたのか、座る位置を、光希の方に詰めてしまった。あ、近すぎた…と思うと同時に、顔が熱くなる。今が夜で良かったと思う。ライトの明かりしかないから、顔の色まではわからないだろう。詰め寄られた光希は、目を細めながら蓮に微笑むと、ほんの少し、蓮の方に体重をかけた。
帰らないと、と何度も思いながらも、左肩に触れる熱を感じると名残惜しくて、帰れない。時計をチラッと見ると21時半をとっくに過ぎていた。
「蓮…帰らないと。」
「うん…。」
父親にきっと怒られる。また悪夢のような行為をされるかもしれない。父親がもう寝ていてくれることを願った。
「…ま、また、あ、し…、っ」
『また明日』が言えなかった。自分に、また明日はないかもしれない。また、学校に来られなくて、図書館にも行けないかもしれない。そう思うと言葉が詰まり、俯いてしまった。足元の桜しか見えない。そのとき、光希の大きな手が視界に入り込んできた。
「蓮、また明日な。」
顔を上げて光希を見ると、光希は優しく微笑んだ。桜がヒラヒラと降っている。その光景に息を飲むと、涙を浮かべながら頷いた。
光希は、蓮の様子が不安定だったため、駅で別れずに家まで送ると申し出たが、蓮は頑なに断った。父親に光希のことを知られたら、何をされるか分からない。巻き込みたくない、という気持ちが大きかった。1人で大丈夫、と何度も言うと、光希は渋々諦めた。
家に着くと、部屋の電気が着いていた。震えが止まらず、覚悟はしていたものの、恐怖に支配される。
「今帰ってきたのか。何してたんだ。」
晩酌後に、いつものように寝ていたようだが、蓮が帰る少し前に起きていた。父親は寝起きで不機嫌そうに蓮を見ていた。
「ぁ、え、と…図書館が閉館したあと、公園で、…さ、さくら、見て…」
嘘を言っているわけではないのに、声が震えて言葉がうまく出てこない。息を吐き出さなくて苦しい。
「桜?1人でか?」
「…はい。」
光希を巻き込みたくないが故、嘘をついてしまった。嘘を言うことで、光希の存在を否定しているようで自分を責めた。父親は、興味をなくしたように蓮を一瞥した後自室に戻って行った。
犯されなかった。その事実にやっと息が出来るようになった気分になる。胸を撫で下ろし、溜まった涙を拭うと、光希と桜を思い出し、心の中で謝った。
なるべく静かにお風呂に入り、何も食べずに布団に入る。蓮は暗闇の中で目を開き、今日のことを思い出していた。自分の暗い部分を、光希はきっと見抜いている。それでも逃げずに、向き合おうとしてくれている。もし光希が助けてくれたら。そう考えたところで、自分の女々しさが嫌になった。自分で助けも求められず、巻き込みたくないと思っているくせに、心のどこかで助けてほしいと思っている。アンビバレンスな感情は、蓮自身を混乱させた。しかし、助ける助けないは別として、今の蓮にとって光希の存在そのものが救いであり、希望だった。
次の日、いつものように智樹と一緒に学校に行く。教室に入り、ホームルームが始まるまでの間、智樹が言った。
「蓮、なんか最近楽しそうだよな。なんていうか…恋でもしてる?」
その言葉にビックリして、飲んでいた水筒の水を吹き出しそうになる。
「ああっ、大丈夫か?ごめんごめん。なんか、ボーッとしてるのは相変わらずだけど、ちょっと前と違うと言うか…。」
智樹の洞察力に驚くが、恋なんてしていないと否定する。そもそも、蓮は恋がどういうものか分からないのだ。
「恋って…どういう風になるの?」
そう聞くと、智樹は目を丸くしながら、恋をしたこと のない蓮に驚きつつ答えた。
「恋ってそりゃ、人それぞれだろうけど、その人のことを理由もなく考えてドキドキしたり苦しくなったり、会いたくなったり…そんなもんじゃない?」
それを聞いて、真っ先に光希が思い浮かぶ。光希に抱いている感情そのものを言語化された気分だ。光希に恋をしているのかもしれない、と考えると同時に、恋なんてしてはいけないと思い直す。汚い自分は、誰とも恋する資格なんてないし、光希も自分のことをそういう対象としては見ていないだろうと思った。そして何より、恋人同士がする行為を、自分は実の父親や名前も知らない男たちと数え切れないくらいしてきた。性行為が本来愛し愛されるために行う、お互い気持ちよくなるための行為であることを知らずに、ただ辛い感覚を我慢する行為だと思い込む蓮にとっては、愛する人であっても心から受け入れる自信が無かった。
そうなんだ…と智樹に返すと、担任が入ってきてホームルームが始まる。蓮はその日1日光希のことを考え、この感情が恋なのか考えていた。
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