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「兄」として千里と比べられ、その理不尽さを実感したのはいつからだっただろうか。
昔はまだそんなに過剰に差別されていなかった気がする。
俺と千里の扱いが違うことに最初に気付いたのは、俺たちが小学生の頃だった。
家族でおもちゃ屋さんに行った時のこと。
俺は飛行機の模型、千里は恐竜のぬいぐるみを買ってもらってウキウキな幸せ気分だった。
そうして家に帰り、箱から出したばかりのピカピカの真新しい飛行機を抱き締めている俺のところに、千里がトコトコとやってきて言った。
「 それかしてっ!」
一瞬びっくりした。
まだ俺も遊んでいないのに、まさか貸してなんて言われるとは思ってなかったから。
もちろん俺は断った。
「 いやだよ。ちさとはぬいぐるみ買ってもらったでしょ?」
そう言って飛行機に向き直り遊ぼうと思ったのに、千里は悪びれもせず「あれ、もう飽きちゃったんだもーん」と言って笑った。
ふと千里の背後にあるおもちゃ箱の側に目をやると、そこには確かに飽きられたようなティラノサウルスが仰向けでコロンっと放置されていた。
せっかく買ってもらったのに、少ししか遊んでもらえなくて
可哀想な恐竜だ。お父さんもお母さんも可哀想だと思った。
「 僕やっぱり飛行機がいいっ!かえっこして!!」
千里の驚きの提案に思わず目を丸くしてしまった。
子供ながらに、なんて自分勝手な要求なんだろうと思ったのを覚えている。
もしかしたら、この時から千里は世の中全部自分の思い通りに進むと考えていたのだろうか。恐ろしい。
千里は何も考えず、俺の腕から強引に飛行機を奪い取ろうとしてきた。
突然のことにびっくりしながらも、このまま取り合っていたら飛行機が壊れてしまうと思ったから慌てて手を離そうとした。
が、もう遅かった。
パキンっと音を立てて飛行機の翼が折れてしまったのだ。
その瞬間、たった今までピカピカでかっこいいおもちゃだった
ソレは、ただのプラスチックのゴミになってしまった。
俺は泣いた。
そりゃあもう大泣きした。
買ってもらったばかりだったのに。
まだ遊んですらなかったのに。
目の前で2つに割れた飛行機は一気に、放置されたティラノサウルス以下にまで成り下がったのだ。
普段泣かない俺が大泣きしたことに驚いたのか、千里も慌てた様子で顔を青くしていた。
そして転がっていたティラノサウルスを拾ってきて、
「 あげる 」と言ってきた。
壊したお詫びかは知らない。
きっと、俺に泣き止んで欲しいと思っての行動だったのだと今になって思う。
でも違う。
違うのだ。
俺が欲しいのはそれじゃない。
代わりが欲しいわけでもないのだ。
泣きながら「いらない 」と言うと、何故か千里も泣き出した。
2人でわんわん泣いていると、何事かと母親が慌てて来た。
買ってもらったばかりのおもちゃを壊されたことの悲しさと、
悔しさと、怒り。母への申し訳なさなど、色んな感情がごっちゃになって涙と共に溢れ出た。
胸が痛みながらも、必死で説明した。
だが、母の口から出た言葉は意外なものだった。
「どうして千里に貸してあげなかったの?」
てっきりその時の俺は、母が千里を叱り、俺を慰めてくれると思い込んでいたもんだから予想してなかった言葉に驚き、
涙も止まった。
だって悪いのは誰がどう見ても千里じゃないか。
だけど母から見ればそれは違うらしい。
母は未だ泣き止まない千里を抱っこして、呆れた目で俺を
見下ろしながら言った。
「あなたはお兄ちゃんでしょ」 と。
千里に謝りなさい、と冷たい声で言われ、ことの展開についていけないまま千里に向かってごめんと言った。
千里は涙目になりながら「いいよ」って言ってまた泣いた。
なんで俺が謝らなくちゃいけない?
なんで千里に許されなきゃいけない?
分からない。
弟ってそんなに偉いものなのか。
それなら兄なんてなりたくなかった。
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