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10 白石 圭介 side
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ちょっと前から気になってるやつがいた。
桜木 涼 ってやつ。
いっつも下を向いてて、ぼうっと宙を見てるような掴みどころのない奴だった。
あんまり近くで顔を見たことはないが、整った綺麗な顔をしていた。
桜木はいつもみんなの後を一歩引いてるような感じで、決して自分から何かを言ったりしない。
その割にはよく何か言いたげな顔はしてる。
言いたいことあるなら言えば良いのに。
特定の相手と話してるところもあんまり見ない。
でも友達がいないわけでもなさそう。
2年に進級して、同じクラスになってから変なやつだなーと思ってちょっと見てた。
クラスのやつの話を聞く限り、桜木の弟は超優秀らしい。
陸上の全国大会の出場経験もあるらしく、俺も多少は興味がある。.......まぁ、一応陸上部だから。
どうやら成績もいいそうで、尚且つイケメンだそうだ。
やっぱ兄弟だなぁ、と思った。
桜木も1年前主席合格したらしいし、顔も整ってる。
でもクラスの女子とかは、聞こえるような声で桜木と桜木の弟を比べて嫌味っぽい事を言ってる。
どう感じてんのかな。
そう思ってたら、今日教室に桜木の弟らしい奴がやってきた。
噂に聞いてた通りのルックスで、俺ほどまでないけど身長もそこそこあった。
桜木の弟兄貴の方に一直線でかけて行き、桜木に話し掛けた。
キラッキラの笑顔と、幸せそうなオーラを身に纏っていて
すごく可愛げがある感じ。
でもそんな弟の態度とは打って変わって、桜木本人は明らかに弟を見た瞬間動揺していた。
そりゃあ突然のアポなし突撃は驚くだろうけど、家族相手にあの表情をする奴はあんまりいないと思う。
変だな、と思っていた。
だけど桜木の弟の、有無を言わさぬ笑顔を見てなんとなく理由がわかった気がした。
あんまり接したことのない奴の家庭環境なんて全然興味もないし、そもそもそういうのには鈍かった。
だけど、あの兄弟の会話と弟の立ち振る舞い、桜木の焦りを含んだ言動から、ちょっと複雑な関係なんだろうなって思った。
ただの憶測に過ぎないけど.......
弟が帰って行った後、桜木は昼飯も食べずに着替えにいった。
早く行った割に、あいつは着替えが遅くて結局1番最後だった。
何かを考えてるように、ぼうっと宙を見て上の空。
こいつ大丈夫か?と思って声をかけた。
「.......あのさ、早く着替えてくれないと鍵閉められない。」
俺がいたことに全然気づいてなかった桜木は、明らかに肩を
ビクッと震わせて、もともと大きな目を丸く見開いた。
ちゃんとこんな顔するんだ.......。
いつも、眉間にしわが寄ってる不機嫌そうな顔か、ぼうっとしてる無表情しか見たことなかったからちょっと意外。
俺の言葉に驚き慌てたのか、桜木はなんのためらいもなく
綺麗な長い指でネクタイを緩め、そのままシャツをばさっと脱いだ。
見られてることに抵抗がないような脱ぎっぷりに少し驚く。
いつも人の目を気にしてるような素振りばかりしてるのに、
こういうところでは発揮しないんだな.......
なんだか見てはいけないもののような気がして、
思わず目を背けてしまった。
決して細すぎず、太くもなく、スラリとした引き締まった体。
今までずっと華奢だと思ってたけど着痩せするタイプなんだ。
.......別に観察してるわけじゃないけど、部活をしてるとついつい人の筋肉とかを見てしまう。
変なこと考えてしまったのが申し訳なくなって、目をそらして更衣室を出た。
多分遅刻だなと思って鍵を弄りながら待っていたら、数分後にきちんとジャージを着た桜木が出てきた。
「まっててくれてありがとう」
また今日初めて見た新しい顔。
ちょっと申し訳なさそうに眉を下げて、でも目を細めてニッコリ笑う透明感のある笑顔は透き通るように綺麗だった。
クラスの人達は、桜木のことを「冴えない奴」という認識しかしていないようだ。
でも教室でもこんな笑顔を見せれば、少しは「空気」的なイメージを払拭されるのではなかろうか。
今日は桜木について考えてばかりだ。
.......まぁ、チャイムがなった途端手を引かれてそのままダッシュするなんて全然想像してなかった。
しかもそのままグランドに行ったもんだから正直驚いた。
本人は無自覚らしかったけど。
だんだん気になっていった。
思ってたイメージと違うなー、と思って見ていたら
もう一つ俺の興味をそそるポイントがあった。
走り方のフォームがとんでもなく綺麗だったのだ。
安定しててほとんどブレてない上半身。
足に負荷がかからないように配慮されたような爪先やかかとの置き方や踏み込み。
完璧に保たれているランニングペース。
一目で陸上経験者だと分かった。
次々と持久走を走り終わった奴らが地面にダウンし、激しく息切れさせているのにも関わらず、後からゴールした桜木はケロっとした顔でその辺をぶらぶら歩いている。
特に息切れしてるわけでもなかったから、きっとこのくらいの距離は走り慣れてるんだろう。
.......決して速くはなかったけど。
50メートル走もそこそこ。
経験者のクセに、相変わらずの気怠げな表情で手を抜いているのが明らかに分かる。
勿体無いと本気で思った。
あんなに完璧なフォームは久しぶりに見たし、素材の良さも
抜群なのになぜ100%の力を出さないのだ。
腹がたつくらい、理解ができない。
だから俺は言った。
本気で走れ と。
最初こそ断られたが、桜木はそのあとなにかが吹っ切れたような顔をしていた。
そして慣れた様子でその場で軽くアップを始め、スタートラインの前に立ち、懐かしむような表情で地面に両手をつく。
さっきまでと顔つきが全然違う。
静かに目を閉じた桜木の横顔は息が止まるほど綺麗で、鳥肌がたつくらい。
完璧な前傾姿勢とタイミング、足の踏み込みと蹴り上げ。
最高のクオリティでクラウチングスタートを成功させた桜木はフォームを保ったままぐんぐん加速していき、あっという間にゴールのラインを超えた。
..............すげぇ、
確か専門は100メートルって言ってたっけ.......
多分コースがもう少し長かったら、さらに加速してもっと速かったと思う。あいにく計測したのはたったの50メートルだから、スピードが乗る前にゴールしてしまった.......という感じ。
正直予想外だった。
ここまでとは思ってなかった。
俺と同じで、クラスの男子や別の種目を図っている女子でさえも、桜木に注目して驚いているようだ。
そりゃあ、そうだよな。
誰も知らなかった 桜木涼 の本気。
今の桜木は、普段の空気的な存在からは想像できないほどの
圧倒的な生命力を秘めている感じだった。
50メートル先で息を切らし、空気をはらんで揺れる髪をなびかせる桜木に、この時の俺はどうしようもなく目を奪われていた。
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