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人の身体って不思議だなぁと思う。
悲しい過去や辛い記憶を思い出してる時だけは、身体的苦痛を忘れることが出来る。
だから人は、身体が痛いより心が痛い方が耐えられないようにできているんだろう。
意識が朦朧としている所為で暑さや苦しさをあまり感じなくなったのがせめてもの救いだと言える。
さっきまでガンガンと響いていた頭痛と喉の渇きが無くなったように思えた。.......気のせいなんだろうけど。
おそらくかなり危ないところまできているんだろう。
体が重い。
苦しさを感じなくなったとはいえ、全身が鉛になったような体のダルさは続いている。
寝返りなんてとてもできないくらいにキツイし、呼吸をするだけでも体力を奪われている感じ。
硬いコンクリートの地面に長時間同じ体勢でいると、体の節々が痛くなってくる。
酸欠に加え、曲がったままの手足は先端が痺れて動かない。
せめて体さえ動けば、ドアを蹴るなりなんなりしてなんらかの助けを呼べるかもしれないのに.......
ここまで自分の体が使い物にならないと、逆に笑えてくる。
「 はぁっ、.......はぁ、はっ、 」
不規則な自分の呼吸音が、エコーがかかったように頭に響く。
もう外の音や、扉の向こうの人の気配なんて全然考えられない。
ドクドクと脈打つ心臓の音を恨めしく思いながら、必死で酸素を取り込むことしか出来ないのが悔しくてまたじわっと涙が出てきた。
______なんで俺ばっかりこんな目に.......
.......俺って最低だ。
こんな状況になって、何故だか千里への怒りがふつふつと湧いてきた。
今回の件であいつが悪いことなんて一つもない。
それなのに、どうして俺だけが辛い思いをしないといけないんだとか、千里がいる所為で.......とか、黒くて汚い感情が後から後から生まれてきて頭の中を染め上げていく。
多分暑さで思考回路がやられとんだと思う。
そういうことにしたい。
だってあまりにも考えがクズすぎる。
俺は「お兄ちゃん」なのに。
自分に降りかかる不運を前にして、弟への怒りと劣等感しか考えられないなんて酷いとしか言いようがない。
こんなんだから、親からオマケだのなんだの言われて比べられて、ますます自分の首を締めることになるんだ。
分かっている。
充分分かっているつもりだ。
それでも、あの無邪気な千里の笑顔を想像すると苦しくてたまらない。
きっと、俺がこうしている間も、
千里は周りの人に太陽みたいな顔で接して、なんにも知らないような笑顔で笑いかけてるんだ。
その笑顔のために、今まで俺がどれだけ妥協して我慢して犠牲を払ってきたかも知らないで.......
「なんにも知らないような」 じゃない。
「なんにも知らない」のだ。
だからこそ、あれほど澄んだ真っ直ぐな顔で笑えるんだ。
俺はその笑顔のために「お兄ちゃん」としての役目を全うするってとっくに決めたんだ。
だってそうしないと生きてられないから。
なんに対しても劣る俺の唯一の存在意義だから。
そうやって半ば依存のように生活してるくせに、
自分が不利な立場になると千里にイラつくなんて.......
つくづく自分が嫌になる。
もう嫌だ。
嫌だ。
このまま消えてしまいたいと思ったとき、
ドアの外に誰かがいるような気配がした。
.......だれ?
お願い、気づいて。
俺はここにいるから。
その心の中の願いが届いたかのように、
重たい鉄製の扉がガラッと音を立てて一気に開かれた。
あぁ、よかった.......
これ以上ここにいると頭の中が真っ黒になってしまいそうだから、見つけてもらえてほんとに良かった。
ドアが開いたことにより、途端に差し込まれる久しぶりの日光に目の奥が痛む。
眩しくて、そのうえ逆光だから誰かは分からない。
つらくて顔を上げられないし、上げたとしても目が霞んでほとんどなにも見えない。
俺を見下ろしたその人が、ハッと息を飲んだのがなんとなく伝わる。
「 っつ.......桜木っ!!! 」
そして切羽詰まったように絞り出される声。
慌てたようなその人は、俺のところに駆け寄って来てくれて
俺の肩をガシッと掴んで揺すった。
ガクガクと揺れる体を抱き起こしてくれた。
.......雨に濡れたんですかレベルで全身汗びっしょりだったから、正直申し訳ないと思った。
でも、長時間ここにいて発熱している俺の体にとって、
彼の体温はひんやりと冷たく感じて心地が良い。
その手は俺の額や首元に当てられて、
「 熱い.... 」とその人は怯えたように呟いた。
汗でペタッと顔に張り付いた俺の前髪を、彼は指でとかしてくれた。.......少しだけ手が震えている。
「 おいっ!桜木っ、大丈夫か!? 」
しっかりしろ、と俺の上で叫ぶ声が、ぐわんぐわんと響いて聞こえる。
.......あれ、
どっかで聞いたことあるような声だなぁ、
誰だろう.......
視界は未だにぼやけているけど、
目をうっすらと開けたら、自分を不安そうな顔で見つめる整った顔が至近距離に現れてハッとした。
「 し、らいし.......くん? 」
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