アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
28
-
目を覚ますと、家の中はしんと静まり返っていた。
物音1つしない静かな空間。
きっとお母さんとお父さんは仕事に行って、今は家に俺一人なんだと思う。
ゆっくりと体を起こして時計を見る。
......もう昼か.......
結構寝ていたのに、疲労感は残っていて楽にはならない。
しわになったシーツを綺麗に伸ばして千里のベットから降りて、部屋を出た。
体が重たくてズキズキと頭が痛い。
.......これ絶対熱上がってるなぁ。
ふらふらでおぼつかない足取りでとんとんと階段を降りてリビングにある棚から体温計をとって、脇に差し込み温度を測る。
ちらっとテーブルを見ると、そこにはラップに包まれて放置されている朝ごはんらしきものが置かれていた。
.......俺の分かな。
用意してくれてたんだぁ。
やっぱりちゃんと朝起きれば良かった。
仕事でしょうがなかったとはいえ、学校から連絡があっても
迎えには来ず、心配や労りの言葉も無しに体調不良の息子を放置して呑気に食事して帰ってくるような人だとしても、
俺にとってはちゃんと親なのだ。
もうとっくに見放されてるってわかってるのに、
自分の分の用意された食事を見て不思議と涙が出てきた。
ぽたぽたと頬を伝って落ちた雫がフローリングを濡らす。
視界がぼやけて何も考えられない。
慣れた扱いにこんなにも心が辛くなるのは、
多分熱のせいだろう。
心と思考が弱ってる。ダメだ、こんなんじゃ。
ぐっと唾を飲み込み顔を上げる。
気持ちだけでも暗くならないように。
音がして、体温計を抜き取り体温を確認すると、
「 38.5 」と表示されていて笑みがこぼれる。
熱上がってんじゃんか。バカみたい。
昨日発熱したことのをきっかけに、溜まっていた疲労がいろいろとやってきてタガが外れたのだろう。
あとセックスの後に体を冷やしたのがいけなかったと思う。
熱がぶり返してキツイけど、そんなこと思ったってどうにもならない。
体温計を片付けて、薬類が入っている引き出しを開けて風邪薬を飲もうとしたけど、市販の風邪薬の瓶は空になっていた。
「 最後に飲んだ人誰だよ...... 」
仕方なく空になった瓶をゴミ箱に投げ入れ、水だけ飲んで
自分の部屋に戻った。
ドサっと倒れるようにしてベットになだれ込み、枕に顔を埋める。
また睡魔がやってきてうとうとと目を閉じかけた時。
ピリリリリっ、と携帯の着信音が鳴り響いた。
急な音に驚いてビクッと肩を揺らし、ちらっと目だけで携帯の方を見る。
誰だろう。
.......めんどくさい。
体を起こしすのが辛くて、電話を取りに行く気がおきない。
もう無視して寝よう。
そう思ったのに。
ピリリリリ、ピリリリリ、ピリリリリ、ピリリリリ、
全然電話が切れる気配がない。
ずっと鳴り続けそうな気さえする。
「 ん''〜、うるさ...... 」
いやいや体をおこし、机の上に置いてあった携帯に手を伸ばすが、表示されているのは知らない番号。
未だに鳴り続ける携帯をぼうっと見ながら首を捻る。
めんどくさいし切っちゃおうかなぁ。
........と、思ったけれども、今切ってもまたすぐに電話をかけてきそうな気がしたので、応答ボタンを押して仕方なくでた。
「 .......もしもし。」
『あ、桜木??』
その真っ直ぐなハッキリとした声の持ち主は、
俺にはすぐに分かった。
「 白石君?」
電話の向こうの相手がちょっと笑ったような感じがした。
『どう?体調は。死んでんじゃねぇかと思って。』
「 .......今生き返った。」
『なんだよ、それ。声は死んでるぞ。』
「 うるさいな。......今昼休みなの?っていうかなんで俺の連絡先千里に聞いたの。」
『 .......なんとなくだよ。......今どうしてるかなーと思って電話したんだけど、全然でないから.......もしかして寝てた?』
だとしたらごめん、と言って白石君はちょっと笑った。
その声を聞いて少し体が軽くなったように感じる。
ふわっと胸があったかくなって幸せな感じ。
それと同時になんだか涙が出てきた。
鼻の奥がツンと痛み、目の裏がじわじわと熱くなる。
どうして。
どうして、俺なんかを気にしてくれるの。
みんなに忘れられて、疎ましく思われている俺を。
一度涙が溢れたら、もう自分では止められなくて。
ぽろぽろこぼれて止まらなくなった。
必死で声をこらえても、嗚咽が抑えられなくてしゃくりあげる。
『 桜木.......?』
「 っつ、ふ......」
『 どうした?お前泣いてんのか.......?』
桜木、桜木、と何度も呼んでくれる。
あの優しい声を俺のために使ってくれてる。
『 おい、桜木っ、大丈夫か? 』
心配かけてごめん、でもすごく嬉しい。
ありがとう。
そう言いたかったけど言葉にはならなかった。
「 ちが、違うよ...だいじょうぶ。ほんと、にだいじょ...ぶ」
相手がぼろぼろ泣きながら大丈夫って言っても、
白石君は「何が大丈夫なんだよ」って思うよね、きっと。
ごめんね、心配かけて。
でもほんとに大丈夫だよ。
嬉しくて流れてる涙だから。
「 ありが、とう。白石君.....電話、嬉しかった.......
ありがとうね、ほん、とに。.......もう、切るね、じゃあね 」
『 あ、おい!桜木っ.......まっ』
ぽちっと通話終了ボタンを押して、携帯を握りしめる。
多分電話を続けたらもっと泣いてしまう。
これ以上自分の情けないところを曝け出したくなくて
何か言いかけた白石君に構わず電話を切っちゃった。
今度会ったら謝ろう、うん。
案の定また着信音が鳴って白石君から電話がかかってきたけれど、それには応答せずぽいっと携帯をベットに放り投げた。
そのまま自分も寝っ転がってベットにダイブする。
体は辛いのに、心はぽかぽかと満ち足りた気分だ。
すごく幸せな気持ち。
ただ涙の所為で口の中が少ししょっぱかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
29 / 70