アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
42
-
「 お前のことなんとかしてやりたいって言うのも、ただの自己満足なんだと思う。自分と似たやつが、自分と同じ間違いをするのを見たくないだけ........ 」
どんなに、自分と他人は違うって理解してても
どうしても過去と重なって余計なことまで考えてしまう。
と言って白石くんは俯いた。
「 自分のためにお前を助けたいと思った。ただの自己救済」
申し訳なさそうに言葉を紡ぐ白石くんを見て、
彼はこんなことで俺が軽蔑するとでも考えていたのだろうか....とちらりと思った。
良い人すぎない....?
彼がどういう意図で、なんのために俺を気にしてくれていたかは今なんとなく分かった。
だけどそれにどんな問題があるというのだ。
彼が自分のためだと言っていても、俺にしてくれたことだけ見たらそれはちゃんと「優しさ」だと言えるはず。
何かを考えていてもいなくても、全てはそれを受け取る俺自身の解釈でどうとでもなるんだから。
結果、白石くんが「自己救済」と言っていたことも
俺にとっては感謝しなきゃいけないことばかりで、それを責めたりしないし軽蔑したりもしない。
してくれたことだけが、全て。
「それでもいいんじゃない?自己救済でもなんでも。」
気づいたら俺は彼に向かってそう口を開いていた。
「 白石くんにとって俺を気遣ってくれることが結果自分のためでも、俺はそれで救われてるんだから。」
自分のためでも、「俺のことを知りたい」と少しでも思ってくれたのなら、こんなに嬉しいことはない。
1人は寂しい。
多分彼もその寂しさを知っているんだ。
だから俺と自分を重ねた。きっとそう。
だけど俺たちにとってそれは大した問題じゃない。
「優しくなくても善良な人間じゃなくても良いんだよ 」
むしろ俺が特に気にしていないのに相手が重く考えすぎているこの状況自体の方がだいぶ疲れる。
相手が自分に対して負い目があっても不満があっても、それを口に出さない限りは人間関係はイコールで結ばれるのだ。
あくまでも対等が良い。
愚かなひと。
きっと優しすぎるが故に優しいと言われることに戸惑ってしまう。本人に言えばそれはまた否定されてしまうだろうけど。
そもそも最初から俺は白石君に自分を犠牲にしてまで救ってほしいとか、助けて欲しいとか、そんなことはこれっぽっちも思ってなんかいない。
というか誰に対しても助けを求めたことが無い。
相手を煩わしく思えるほど自分に余裕はない。
相手から煩わしく感じられるのも、面倒だから好きじゃない
優しくされたら嬉しいだけで、優しくして欲しいわけではないし、俺が白石くんに「優しい」と言って、彼がそれをいたたまれなく感じていて罪悪感があったとしても、俺が気にしなければそれは見えなくなる。
まぁ蓋をしただけで中身が消えるわけではないけれど。
まぁぶっちゃけ俺も、放っておいて欲しいとか聞かないで欲しいとか関係ないとか散々突き放したのに、
こうやって一緒に食事できることに浮かれている気持ちが多少あるんだから同類だろうな。
愚かなのはどっちだ、と思った。
でもお互いが自分の事を考えていても、それで関係が成り立っているのなら特に気にすべきことじゃない....
と、俺は思う。
だけど白石くんは違うのだろう。
「 気になった相手に、干渉しすぎるのが癖で....
そういうの、嫌だったんならごめん。」
俺の目を真っ直ぐ見た後、
白石くんがパッと下を向いた。
「........え...?」
数秒遅れて、彼に頭を下げられているのだと気づいた俺は、
慌てて白石くんの肩を掴んで顔を上げさせた。
「 ちょちょちょ、まってまって。別に謝らなくても良いって....というか謝らなきゃいけないことじゃなくない?俺が気にしてないんだからそれで良いんだよ....」
「 ん....ごめん、ありがと.... 」
まだ申し訳なさそうな顔をして、不安げな瞳で俺を見つめてくる彼の子犬みたいな顔を見ると、むしろこっちが謝りたくなってくる....。
逆に申し訳ない。
そしていちいち誠実すぎるぞ、白石くん。
「ん〜、、、、」
どうしたものかと、頭を抱える。
別に怒ってもないし気にしてもないんだよなぁ....
これ以上彼に負い目を感じて欲しくない。
罪悪感と一緒に俺と過ごして欲しくなんてないのだ。
....なんて、
こういうのも結局は、俺が白石くんに気を遣わせたくないっていう自分の欲で願望だ。
そういう意味では、彼と俺は同じ人間なのにどうしてこうも誠実さというか....素直さに差が出るのだろう。
彼はこんなにも律儀に謝罪してくれたのに、俺は気を遣われるのが嫌で「謝らなくても良い」と言って気持ちを受け流してしまった。
やっぱ幼少期に育むべき道徳的な思考が欠落してんな俺。
恥ずかしい。
はぁっと溜息をついて白石くんと目を合わせた。
今度は俺から歩み寄る番かな。
ちょっとだけ体を白石くんの方に寄せた。
そして彼のお弁当の中身を指差す。
「 ね、それ俺にちょーだい? 」
白石くんは、一瞬俺が何を言ってるのか分からない....とでも言いたげに、首をこてんっと横に傾ける。
彼のお弁当の中身は、今日も色とりどりのおかずが綺麗に配置されていて、見るからに美味しそう。
「 だし巻き、前に食べたの美味しかったから俺にください。それで許してあげる。チャラね?」
俺はお弁当の中のだし巻き卵を指差して、「あ」と白石くんに向かって口を開けた。
まだぽかんとしてる白石くんに向かって
「はやく、おなかすいた!」と言ったら、彼はそこでようやく笑顔を取り戻した。
........良かった....。笑ってくれて。
「 なにそれ、おまえ可愛いな」
白石くんはハハッと笑って、箸でつまんだ卵焼きを俺の口に優しく入れてくれた。
前に食べたのとおんなじ、優しくて美味しい味だった。
でも今日の方が美味しく感じる。
「 いくらでもあげるよ、卵焼きくらい」
そう笑った白石くんは、もうひとつ卵を俺の口に入れてくれた。
「 白石くんのお弁当のたまごの味付け本当においしい」
「 すき?」
「 うん、すき 」
美味しいものを食べると顔がにやけるのは、多分人間共通の反応だと思う。
もぐもぐとほっぺたを動かしながらへらっと笑うと、白石くんは少しだけ顔を赤くしてまた笑った。
「 ........桜木って....なんか、いいな。」
「 なんかって?」
「 いや、わからん 」
「 なにそれ 」
顔をくしゃっとさせて笑う白石くんの笑顔は、本当に破壊力がすごくて、俺が女の子だったら確実に恋に落ちてると思う。
本当に、こんなに良い人が俺に接してくれてありがたいな....と頭の片隅で考える。
今日一緒にご飯が食べれて良かったなぁと思った。
昼休みが終わるまで、だし巻きだけじゃなくて他のおかずも強制的に食べさせられてものすごく満腹状態で教室に戻ったことはかなり予想外だったけれど。
それはこの際おいておこう。
楽しかったからね。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
43 / 70