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43 桜木 千里 side
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「 ♪〜〜♪〜〜♪〜〜 」
トントンと、リズムよく階段を降りていくと
自然に鼻歌がもれる。
校内で、色んな人とすれ違う度に向けられる視線を感じながら進んでいくと、たまに全然知らない上級生の女の子たちにまじまじと見られる時がある。
目が合えばニコッと笑いかけるし、手を振られたら振り返す。
そうすれば大抵の人たちはそれ以上に良い笑顔を見せてくれる。だから多分俺の行動は正しい....んだと思う。
俺に視線を送る相手は何も女子だけではなく。
同じ1年生の男たちはなんかすっごいきらきらした目で見てくるんだよね。きっとそれは「憧れ」とか「羨望」とかそんな感じの感情なのかな?
ただ、そういうきらきらした感情を向けられる代わりに、やっぱり悪意を持った視線もあるわけで。
ガラの悪い上級生に通りすがりに中指立てられたり、わざと肩にぶつかられたり、悪質な嫌がらせもごく稀だけどある。
いわゆるアンチってやつ?
「嫉妬」や「妬み」っていう醜い感情を剥き出しにしてくる人たちなんてどうでもいい....、、、、、とは絶対ならない。
見てて不愉快だし自分に危害を加えないでほしい。
はぁ....と静かに1つため息をついて、一階まで降りて行った。
売店の自販機の前まで行くと、さっきまで俺と一緒にいたグループの男子達がたむろっていて、駄弁っている。
「 あ〜千里やっと来たぁ!」
「 何してたんだよー!待ってたぞー」
「 やっほーちさとくん 」
俺を見つけた彼らが次々に口を開いて俺を迎えてくれる。
入学してからつるんでいるこいつらの顔や声は、他の人たちから感じ取れるような嫉妬やら憧れやらそんな感情は一切無くて、ただ純粋に俺を見てくれる。
心地が良くて思わず笑みが零れた。
「ごめんごめん、 今来たから許してね」
笑って言うと、彼らも「しょーがねぇな!」って笑って楽しそうに話を続ける。
こんな風に、俺の周りには俺に良くしてくれる人たちが結構たくさんいるし、友達にも困ってない。
そりゃ俺のことを嫌っている人も中にはいるだろうけど、そもそも俺のことが本気で嫌いな人はまず近寄ってこないし、関わりも持ちたくないだろう。だからあんまり関係ない。
人に恵まれてる、とは言わない。
だって全部俺の努力の結果だから。
自分が頑張れば必然的に人脈が広がるし、良いやつしか集まらないのは当たり前だと思ってる。
だからこうやって、割と不自由なく家でも学校でも生活ができているのは、俺が日常において上手く立ち回れているからだ。
上手に上手に周りの信用を勝ち取って。
上手に上手に自分の味方を増やしていく。
それがいつしか俺の生き方の根底に根付いてしまった。
別に悪いことじゃないから良いんだ。
意図して優しくするのも、計算して動くのも、察して先回りするのも、全部あざといのかもしれないけれど。
本心じゃないかもしれないけど、やっていれば相手にとってはそれが事実で、俺への評価になる。
なんて単純な話。
あーあ。
さっき、階段ですれ違った時の
涼のあの焦った顔をふと思い出した。
圭介先輩に「はやく」って言ってたの聞こえてたしね。
俺から逃げようとUターンしようとしてたのバレバレだったよ。
それに目があった眉間にシワが寄ったのとか、肩が一緒上がったのとか、小さな反応だけど俺に対しての不満がありありな態度だったなぁぁ....
「 極力会話もしないようにする」
「 相談なんてしない 」
そう言ったの誰だったっけ?
誰かにペラペラ喋らない方が良いんじゃない?って言ったのは、別に俺の保身のためじゃなくて、涼がしんどくならないように言ったのにさ。
頭使いなよ本当、バカじゃないんだから。
仮に涼が誰かに本気で助けを求めても、そいつが涼を軽蔑したり裏切ったりしたら。
ましてや噂を流すようなクズだったら、学校内的にも家庭内的にも、不利なのは涼の方なのだ。そうなればいよいよ涼の居場所がなくなる。
けどまぁ圭介先輩は思ったよりお人好しそうだし、少なくとも今は涼の救いになりつつある存在なのかも。
それに、涼の性格上うっかり口を滑らせて墓穴を掘る発言をするようなことはしない。
だから涼が俺とのことを告白する時があるなら、それはきっと涼自身の意思だ。
涼が本気で相手を信頼して本気で助けて欲しいと思った時。
ただ相手に対する信頼が大きい時ほど、それを失った時の絶望感は並みじゃない。
だから下手な真似はするな、相手を考えろ、
って意味で忠告したのに。
本当に俺の言いたい事わかってんのかね、あのひとは。
余裕がないんだろうなぁ。
まぁ仕方ないか。
痛い目見てからじゃ分からないなら、まだそっちの方がいいだろうし。でもなにかあってからじゃ遅いのにねぇ。
下を向きながらじっと考えていると、
ふと視界いっぱいに綺麗な顔が飛び込んできた。
「 ちさとくんなに考えてんのー?」
サラサラのグレーの髪を揺らし、切れ長の目を細めて
不敵にニヤッと笑う整った顔。
彼は俺がよく一緒にいるグループの友達の中の1人で、
零(れい)っていう名前まで綺麗な男。
いつもミステリアスににこにこしてて、その笑顔は多分俺より抜かりない。多分同族だから分かるんだろうな。
実は零だけはいつもなにを考えているのかが全くわからないから、どう接するのが一番正しいのかもわからない。
だから多分、唯一俺が素で接している人だと思う。
ただ零にじっと見つめられると、頭の中を覗かれてるような気持ちになるからどことなく落ち着かない。
でも決して不快なわけでもなければ零に対して苦手意識が働くこともない。ほんとに不思議な子。
「んー、特になにも。抹茶オレ飲みたかったなぁって。」
俺が笑顔で返すと、零はまたじっと目を細めた。
「ちさとくんおれにうそついたー」
「................、、、、、、」
俺が黙ってみても、かれはまだその笑顔を崩さない。
やっぱなに考えてるのかわかんねぇなぁ。
こういうひと嫌いじゃないけど。
「 なにが言いたいの?」
きつい言い方にならないように、語尾を上げて聞いてみたら、零は俺を上目遣いで見上げながら言った。
「 ちさとくんのおにーさんって美人だよね 」
「....!」
まさか零の口から涼のことが出てくるとは思ってなかったから、一瞬驚いて目を見開いてしまう。
俺と涼が兄弟ってことを知ってる人は実は少ない。
それに俺と同じ学年のやつなら尚更。
さっき俺と涼が階段で話してたところを見ていた?
だけど俺は、零の前で涼が俺の兄だと分かるような呼び方はしていない。
まぁでも突然のことに驚きはしたものの、不思議なことでもないから、変に取り乱したりはしない。
ただちょっと気にはなるけれど。
やっぱり零の言いたいことがよくわからない。
「 美人........?零の方が顔は綺麗だと思うよ。」
「 ふふっ、兄弟だから普通って思うんだよー。っていうかちさとくんに綺麗って言われてもうれしくなーい。」
........俺これ遠回しに嫌味言われてるよね。
「 ちさとくんは、なんか、非の打ち所がない完璧なイケメンって感じで、おにーさんは少し儚さっていうか憂いがある綺麗さだよね。一部の人にばかみたいに人気がありそうなお顔....」
「 俺も涼もすごい美化されてるよね、それ。」
「 本心よー。それに多分みんなが思ってることだよ。」
「 へぇ、、、よくわかんないな。」
ほんとに零が何を考えてるのか分からない。
はぁ、っと困って息をつくと、零がくすくす笑う。
「 ねぇ....ちさとくんに聞きたいことがふたつあるんだけど、こたえてくれる??」
不意に零が声のトーンを落として、俺に顔を近づけて静かに
呟いた。
口角は上がっているものの、目は笑っていない。
じっと俺を見つめてくる彼の目は静かな光を灯していて
その心理は読み取れない..。
ほんとわかんねぇ。
「 質問にもよるな。こたえられる範囲でなら。」
「 そう?ありがと。じゃあちょっとこっちきて。」
「えっここじゃ聞けないこと?」
「 俺別に問題ないけど多分ちさとくんはここできかれるの嫌だと思うよー?」
そう言って、零は仲良しグループのやつらに
「ちょっとデートしてくるー」ってアホみたいなこと言いながら俺の手を引っ張り、校舎裏に連れてきた。
俺が人前で聞かれて嫌なことって何だ....?
あんまり思い当たらないから答えの準備ができない。
人気がなくて、しんと静まり返ってるから
声や足音が良く通る。
ここまでして聞かなくてもいいんじゃない?
零がくるっと振り返って
俺の目を真っ直ぐに見て口を開く。
「じゃあまず1個目ね、ちさとくんとおにーさんって、
血が繋がってる?それとも義理? 」
.............、、、、、、、、
.............は???
一瞬零がなんて言ったか分からなかった。
だってそれくらい予想外の質問だったから、
「 えっ、どういう意味?」
「いやそのまんまのいみだよ?」
そのまんまの意味だと言われても....
「 義理とか、そんな話一度も親から聞いてない。
俺も涼も父さんと母さんの子だよ、血は....繋がってる。」
「 あっそうなんだ?」
「 ........うん、そうだよ。」
なんでこんな質問してきたのか分からない。
やっぱ零は不思議ちゃんだと思ってたけどここまでとは思ってなかった。
「 じゃあ2個目の質問ね 」
と言って零はまたニコッと笑って俺に向かって口を開く。
「 ちさとくんってさ、
おにーさんと付き合ってる?もしくは好き?」
そこで初めて零の「無表情」ってやつを見た。
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