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久し振りにお昼ご飯をお腹いっぱい食べたせいで、ちょっとだけ苦しい。けどそれはなんだか幸せに満たされた満腹感で、体がぽかぽかと暖かい。
教室の自分の机に戻って、次の授業の準備をしようと思ってカバンの中に手を突っ込んだら
教科書じゃないものが手に触れて、一瞬動きを止める。
....ん
そっとカバンの中からそれを取り出してみると、
こ綺麗な袋に入っているそれは、俺が今朝千里に持たされたもので、先日白石くんに借りていた洋服だった。
あ....普通に返すの忘れてた....。
返そうと思って、白石くんの方へくるっと振り返る。
すると俺と目があった彼は、一瞬だけ目をぱちっと開いてすぐに眉間にしわを寄せた。
そして、白石くんがこちらに手を伸ばしてきたかと思ったら
そのまま俺の額にぴたっと手のひらを押し当ててくる。
驚いて、思わずキュッと目を瞑る。
肩をすくめて身構えると、ひんやりとした彼の手の温度が額から背筋に流れてきたような気がしてぶるっと体が震えた。
「 わ、な....なに?」
「 桜木....大丈夫?おまえちょっと顔赤いぞ 」
白石くんが怪訝そうな顔をして、今度は手の甲を
俺の頬の上を滑らせていく。
彼の長くて冷たい指が顔に触れるたびに、ぞくぞくとした感覚がしてどうしたらいいか分からない。
....く、くすぐったい....
恥ずかしさとくすぐったさに耐えかねて、
思わずふるふると首を横に振って白石くんの手をはらうと
彼は「....犬みてぇ 」と言って少し笑った。
たしかに朝から、熱っぽくて頭痛が続いているけれど
それは昨夜飲まされた変な薬のせいだと思ってた。
この後を引くような気だるさや体の熱は、いつものセックスの後には無い倦怠感で、どうも調子が良くない。
だけどそんなこと思ってたって体調が良くなるわけでもないので、気にしないようにしてたけど
どうやら白石くんは気づいてくれたらしい。
やっぱり優しい....
「 白石くん、これ、このまえありがとうね 」
白石くんの部活着が入った袋を差し出すと、
彼は「あぁ.... 」と言って今思い出したかのような声を出した。
「 忘れてたわ、そういえば桜木に貸してたな....」
「 うん、俺も忘れてた....」
ごめんね?と謝ると、白石くんは「いいよ」と言って笑った。その顔がなんだかすごく優しく見えて、一瞬見惚れてしまうくらいにかっこいい。
「 あ、なんかめっちゃこの服桜木の匂いがする」
「 ねぇばかほんとやめて、恥ずかしいから匂い嗅がないで」
袋の中を覗き込むように顔を埋めて、匂いをくんくんと嗅いでいる白石くんの肩をばしっと叩く。
そりゃ自分の家の洗濯機で洗ったんだから俺と同じ匂いがするに決まってるじゃん。
「 はー、いいにおい。なんかひとんちの柔軟剤とか家の匂いってすごい好きなんだけど、わかんない?」
「 わかんないよ....ってかもう嗅がないで、ほら....それはやくカバンにしまってよ。」
なに照れてんだよ、って言ってニヤニヤしながら、
白石くんはその服を彼のカバンにしまってくれた。
「 あれ、次の時間割ってなんだっけ?」
不意に白石くんが聞いてきて、「あー、美術?」と答えると彼は焦ったように筆箱と教科書を取り出して席を立つ。
「 まじか、移動じゃん 」
周りを見渡すと、既に教室を出て行く生徒がちらほらいて、
日直が教室の戸締りをしたり、電気を消したりしている。
俺も行こうと思って、準備を始めた時、
数人の男子生徒の声が大きく響く。
「 しらいしー!なにぼさっとしてんのー?」
「 はやく一緒に美術室行こうやぁ 」
「 1分でも遅れたら欠課扱いだぞ笑笑」
いつも白石くん達と一緒にいて、結構やんちゃで声も身長も大きく、あんまり得意じゃないタイプ。
みんな白石くんのことが好きなようで、いつも白石くんを中心に輪を作っている、クラスの中でも明るい人達。
やっぱり白石くん人気者なんだ....
いつも周りに人が溢れている。
常に誰かと一緒にいて、誰からも求められる。
そりゃこれだけ優しくて顔も良くて、運動神経よかったら人気でない方がいいおかしいよね....
けど男の子にも女の子にも同じくらい好かれるって地味にすごい。俺と真逆じゃね?素直に感心する。
羨ましいとか........全然思ってないけど。
仲良しグループに返事をする白石くんの声を聞きながら、
俺も道具を持って教室を出ようと立ち上がる。
「 あれ、桜木一緒に行かねーの?」
ドアに手を掛けた時、不意に呼び止められて
体がぴたっと固まる。
「 え....なんで。行かないよ 」
「 は?、いや今まで一緒にいたんだから.... 」
「 あのひと達と一緒に行くんでしょ?俺居たら邪魔じゃん」
「 邪魔とか思わないし....みんなで行けばいいだろ 」
「 そう思ってるの白石くんだけだよ....みんなが一緒に居たいのは俺じゃなくて白石くんなんだし。」
俺は、ただ思ったことを言っただけなのに
白石くんはそれを聞いたあと、少し苛立ったような声色で
また「はぁ?」と言った。
えっ....ちょっとなんで半ギレなの。
だって本当のことじゃん。
あのひと達が好きで一緒に居たいと思うのは俺じゃない。
白石くんは優しいから、俺がそばにいても煩わしいとか嫌だとかそんなことは思わないかもしれないけど、あのひと達は多分違う。
特にクラスでもカーストの上の方にいる彼が
俺と仲良くしてるのを良く思ってない人たちも絶対いる。
白石くんの優しさも、こういうところでは俺にとって嫌な方向へ働いてしまう。
俺と周りとの関係も割り切ってほしい。
「みんな平等に」とかそんな仏様みたいな精神じゃなくても全然良い。俺ばかりに構わないでもいいのに。
「 ..........なんでそんなこと言うの?」
きろりと俺を睨みつけながら、声を低くして呟いた白石くんを、黙って見つめ返す。
「 別に。そう思ったから言っただけ。」
「 ........ 」
ハッと目を見開いた白石くんを無視して、スタスタと教室を出る。ポケットに手を突っ込んで、なにも考えずに廊下を歩いた。
........、、、、
あー、なにやってんだ俺。
もっとほかの言い方もあっただろ....
なんかすごい性格悪い奴になっちゃったなぁ。
まぁ、あながち間違いではないか。
思ったことを言っただけなんだけど。
俺と一緒にいたら白石くんイメージが下がる........
とかは思わなかった。
ただ1つ頭に浮かんだのは、
白石くんと俺が一緒にいたら、俺が反感買うかもって事だけ。
人気者の彼と俺なんかが一緒にいることを、妬ましく思ってる人たちの怒りの矛先が自分に向かうのが怖いだけ。
最後に考えてるのは自分のことばかり。
だから俺は性格が悪い。
自覚してる分もっとタチが悪い。
自分の都合のいい時だけ誰かに頼って甘えて浮かれて、
自分が攻撃されそうになったらそそくさと逃げ出す。
しかもそれを反省して改めようとしているどころか、開き直ってまた人を傷つけた。
本当嫌になる、
自分はどこまでも大切な何かが欠けている。
学習しろよ、これじゃ本当に価値のない人間だ。
鉛を飲み込んだような息苦しさを取っ払うために、
早歩きで足を進めた。
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