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「 どうする、今から授業もどる?どうせあとちょっとでチャイム鳴るしこのまま最後までサボっちゃってもいいかな?」
俺がふざけて笑いながら白石くんに向かって言うと、
彼はふと真面目な表情になったあと顔をしかめた。
「 あー、別にいいんじゃね?美術の先生優しいし多分怒られんだろ。というより俺はお前にもう刃物を持たせたくないから授業に戻りたくない。」
「 なにそれ。」
「 いや真面目な話。」
白石くんが呆れたように言うから、ちょっとムッとして反論しようとしたけどすぐにそれは遮られる。
「イライラして、とかむしゃくしゃして、とかならまだ分からんでもない。いや、それでもダメだけど…....無自覚っていうのが1番タチが悪い。普通に見てて怖い。」
まだその話か。
ふぅっと溜息をついて手のひらの包帯をそっと撫でた。
「 別に俺だって切りたくて切った訳じゃないし、なんかこう、無意識にサクッと……」
「 だから余計に危ないって言ってんの。自分で制御しようがないのが問題。」
「 はぁ…… 」
白石くんが痛くないように配慮しながら俺の手首をぎゅっと掴んでまじまじと手のひらを見つめる。
包帯が巻かれているから直接傷口が見える訳じゃないのに、彼は痛々しそうに顔を歪めて小さく呟く。
「 ないわー、彫刻刀で手切るとか。痛ぇー………」
怪我をしたのは俺だけなのに、彼は顔をしかめながら自分の手のひらをプルプルと振っている。変なの。
そして俺の頭を軽くペシっと叩いてきた。
「 次こんなことやったら怒るからな、本気で。」
「 ……………わかった。」
なんで白石くんが怒るんだろう、と思ったけれど
そんなこと言ったらまた怒られそうだったのでとりあえず肯定の意思表示だけするためにこくんと頷いた。
納得してくれたかな、と思ったら今度は白石くんは俺から顔を背けて何か言いたそうにしている。
なんだか顔も赤いような気がするし、気になって「なに?」と尋ねると彼はやっぱり目を合わせてくれないまま口を開く。
「 その……さっき、体触ったり、抱きしめたりして……悪かった…特に意味はなかったんだけど、気持ち悪かったら……ごめんな。もうしない。」
体触ったりって、さっき廊下で抱きしめたりとか泣いてる俺の涙を拭おうと顔に触れたりしたこと??
別にそんなこと全く気にしないのに。
いや、普通は男同士だったら嫌だって思うのかな。
普段男と寝ているから通常の男友達同士のスキンシップの程度がいまいち掴めない。
けれど白石くんから触れられるのは全然嫌じゃなかったし嫌悪感も湧かなかった。
本人が気にしているほどこちらも特になにも思ってなかったし、謝られるようなことじゃない。
「 謝らなくてもいいのに。気持ち悪くなんてないよ。むしろなんかいい匂いした」
白石くんに抱きしめられた時に、洗剤かシャンプーか香水かなにかわからなかったけど、とにかくすごくいい匂いがした。
たくさん太陽の光を浴びた洗濯物みたいに優しくて温かくてお日様みたいな匂いだった。
俺が真面目な顔して言ったからか、白石くんも真顔になって制服の袖を顔まで持って行ってくんくんと匂いを嗅ぐ仕草をした。
なんだか犬みたいで可愛い。
大型犬っぽいな、白石くんは。
「 自分じゃ分かんねーや 」
そういって白石くんは眉間にしわを寄せて小さく肩をすくめた。そりゃそうだろう。たしかに自分の匂いは自分じゃいまいちわからないだろうし。
「でもまぁ臭くないなら良かった」
と言って白石くんが笑うもんだから、俺もつられて吹き出してしまった。
なんでこの人の隣ではこんなに楽に笑えるのかな。
もっとはやく出会って話しかけていたらまだ楽しく学校生活が送れてたかもしれないのに。
「 おまえ、いつもそんな顔してればいいのにな 」
白石くんが小首を傾げながら俺に向かって口を開く。
「そんな顔って?」
「 笑ってんじゃん。いつもの無表情アンド不機嫌って感じの顔よりそっちの方がいくらかマシじゃねーの」
「 マシって……それ誰目線なのさ」
「 俺目線だよ 」
いやいや、なに真顔で言ってんのさ。
そりゃあ人は真顔よりも笑顔の方が顔面偏差値高く見えるって聞いたことあるけど。
俺だってできることなら毎日自然と笑顔になれるような生活送りたい。
笑顔が貴重だと思われてるって多分やばいぞ、俺。
表情筋使ってなさすぎて死んでないかな。
廊下の窓ガラスに映る自分向かって視線を送る。
そっと自分の頬に手を当てて覗き込むと、光の宿ってない大きな黒目と死人のように血色が悪い顔面が映る。
特に高くもない鼻、薄い唇、これといって目立つパーツがない。千里のように目鼻立ちがハッキリとした顔ではないのに、似てると言われることが多いのは何故だろう。
不思議でたまらない。
訝しげな表情を浮かべるガラスに映る自分と睨めっこしてみても、やっぱり見慣れた俺の顔はパッとしない。
笑ってみたところでどうせ自分ではマシかどうかも分からないし俺の顔が良くても悪くても誰も見ないだろう。
人は見た目じゃない、と言っても第1印象って大事だ。
こんな平々凡々な顔なんだからせめて笑顔でいないといけない、とは思っているんだけどそれがなかなかできないのだ。
さっき笑ってる方が「マシ」って言われたから、多分白石くんは俺のこの普段の不機嫌と言われがちな真顔が嫌いなのかもしれない。
いや別に不機嫌な顔をしてるつもりは全然ないんだけど、
そう言われることが多いからそう見えてるんだろう。
笑顔でいろ、と言われても…………って感じなんだ。
「 白石くんは………俺が笑ってる方がいい…?」
笑顔ってどう作るんだよ……と思いながら
白石くんを少し見上げて上目遣いでそう尋ねると、彼は驚いたようにほんのちょっと顔を赤くして目をぱちくりさせた。
「 え? あー、いや、いいっていうか……うん。まあ」
赤い顔で目線を逸らしてしどろもどろになり始めた彼の挙動に、途端に不安が募った。
え、なんでこんな言葉詰まらせてんの……
笑っても笑ってなくても俺の顔面生理的に無理とか思われてたらまじでメンタル死ぬんだけど。
たしかに俺だって自分の顔好きじゃないけど、中の下くらいには一般的な顔面だと思ってたのに。
そりゃあ白石くんみたいに、かっこいい顔だったら笑顔でも笑顔じゃなくても絵になるだろうけど……
恥ずかしいやら情けないやらで、もはや半泣き状態になりながら、白石くんに「ごめん…」と呟く。
「 不細工はせめて笑ってろってことだよな、うん、愛嬌のないブスなんて救いようないもんな……」
俺が自虐っぽくへらりと笑いながら続けてそう言うと、
白石くんは慌てたように俺の言葉を遮った。
「 いやいやいや、まてまて。俺そんなこと言ってねぇだろ。なに被害妄想膨らませてんだあほ。」
白石くんは、はぁっとため息をついて俺の方をちらりと見た後、恥ずかしそうに腰に手を当てて「あのな、」と話し始める。
「 ……笑ってる方が、100倍すきだよ」
彼が「くそ恥ずいな………」とぼそっと呟いたのが聞こえた。
赤い頬を手のひらでパタパタと扇いで、白石くんは俺の頭にポンっと手を乗せてくる。
「お前さ、自分の顔面よーく鏡で見てみろよ。そこらへんの女子より美人だろうが。」
「 それはどの方面にも失礼な発言じゃ……」
俺のツッコミに白石くんが吹いた。
顔を逸らしてケラケラ笑っている彼の横顔がなんとなく幼く見えた。笑い方が可愛いと思ってしまったのは内緒にしとかないと。
「 あははっ、いやでも冗談抜きで。おまえは自分が思ってるよりずっと綺麗だよ。そりゃ笑ってなくても顔が整ってるから美人は美人なんだけどさ、笑顔の方が親しみやすさが出るっていうか……可愛いし。おれはそっちの方がすきだな。」
笑いながらそう言われて、
一瞬どうしたらいいのか分からなくなった。
もしかして本気で言ってるんだろうか。
初めて言われた言葉に戸惑いを隠せず、ぽかんとして口が半開きになってしまって、多分いまものすごく情けない顔してると思う。
驚いて目をぱちくりさせて白石くんを見つめると、
彼は俺の顔が可笑しかったのか、またけらけらと笑う。
16年間この顔と一緒に過ごしてきたけど、自分の顔が綺麗だとか可愛いだとか美人だとかこれっぽっちも思ったことがなかった。誰が見ても顔が整ってる千里の隣に居すぎた所為か、自分の顔なんて「目と口と鼻が付いてる」くらいのレベルでしか認識してなかった。
「 ………お、お世辞でも嬉しい、、ありがと。」
つい卑屈になってしまった俺に気を遣ってくれたんだろう。
じゃないと俺なんかを美人って言う人なんているわけないし。
本気にしたわけではないけど、素直に嬉しいと思ってしまったから小さくお礼を言うと、白石くんがムスっとしてちょっと強めの口調で口を開く。
「 だから、冗談じゃないって言ってんじゃん。
お世辞じゃねぇっつの。ちゃんとお前の顔見たら多分うちのクラスの奴ら全員そう思うから。」
…………いや、そこまで?
それはちょっと盛っただろ。
と、言いたいところだけどこれ以上反論したらまた彼の機嫌が悪くなりそうな気がする。
「 白石くんかっこいいから、そんなこと言われたら嬉しいな……………ていうか照れる。」
「 おーおー、照れろ照れろ。」
「 あ、カッコいいって言われたのは否定しないんだ」
「 はぁ??本心のくせに!」
白石くんがふざけたように笑いながら俺の頭をくしゃっと乱暴に撫でた。
けれど手つきは優しくて手のひらからはじんわりと彼の温度が伝わってくる。
あったかい気持ちになって自然と笑みがこぼれた。
「 はは、美人とか初めていわれたな」
恥ずかしさと嬉しさが混ざって、へにゃりと笑う。
そしたら白石くんが思い切り俺を指差して
「そう!そのかお!」って言ってきたから肩を思い切り叩いてやった。
さっき保健室で頭叩かれた時の仕返しのつもりで、
渾身の力を込めてフルスイングで叩くと、彼は手で肩を押さえて笑いながら「ごめんなさい」って謝ってきた。
「 どういたしまして」
「ごめんなさいにどういたしましてはおかしいだろ」
「 うるさいイケメン。もう白石くんの前では笑わない」
「 えっ、それはほんとにごめんなさい」
急にしおらしく謝られたから「 嘘だよ 」と返すと今度は俺が叩かれた。しかもいま俺が叩いた強さより絶対強かった。絶対。
お互いあほらしくなってクスクス笑ってたら、
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
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