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「 まー、たしかに桜木ってちょっと性的なもんからかけ離れてる感じするわ。清楚、っていうか。エロいことなんて知りませーん、みたいな顔してるもん」
「いや、どんな顔………」
ていうかこの話まだ続くんだ。
今現在の話題に関しては俺にカッコつけられることなんて何一つないし、話続けてるとさらに墓穴を掘りそうで怖い。
「 別に、俺だって男だし……。そりゃ、女の子とは経験はないけど人並みくらいには、知識も、あるし……」
だんだんと語尾が消え入るように小さくなっていって、さらに情けなくなる。
俺は何をムキになって反論しているんだろう、と途中で客観視してしまい、自分の器の小ささに呆れる。
こんなことで張り合っても絶対意味なんかないのに。
はぁ、と息をついて肩を竦める。
無駄に言い返さない方が良かったな……
ださいな、俺。
「別にバカにしてるわけじゃねーよ。そういうのってほんと勢いとタイミングみたいなもんだから、重く考えなくてもいいしな。あでも、始めての時に失敗すんのは最悪だから気を付けとけよ。」
残りの弁当をかき込んで、もぐもぐと口を動かしながら白石くんがそう言う。
「 ご忠告どうもありがとうございます、経験豊富なんですね。」
わざと冷ややかな目で見てやったら、彼は苦笑して俺の顔に手を伸ばして軽く頬を突いた。
「敬語やめろよ」
そこは経験豊富を否定するところだこのやろう。
ふいっと顔をそらして、自分の食べかけだったおにぎりに向き直る。
美味しい卵焼きの後のコンビニのおにぎりは、酷く味が薄く感じた。多分錯覚だろうけど。
お弁当いいなぁ。
俺は特に好き嫌いがあるわけでもないけれど、毎日コンビニのパンやおにぎりだとちょっと味気ないというか、物足りないというか。
慣れてしまったからさほど不満はないし、なにせあのお母さんに文句なんて言えるわけもない。
面倒なことに、今まで大して気にしてなかったのに、彼の手の込んだお弁当を見てからというもの、急に羨ましいと思うようになってしまった。責任とってほしい。
手軽なおにぎりは数分で全て胃の中に収まってしまい、
ペットボトルのお茶を少しだけ飲んでふーっと息を吐く。
おにぎり2つで満腹になる省エネの胃袋に感謝しつつ、ゆっくりと後ろに手をついて楽な体勢になる。
気温もちょうどいいし、そよそよと吹く風が優しく頬を撫でて気分が良くなる。
同時にだんだんと睡魔がやってきて、意識がぼんやりとしてくる。このまま横になったらすぐに眠れそうだ。
食べてすぐに眠くなるなんて子供みたいで恥ずかしいが、
弁当を食べた後からずっと静かな白石くんも、俺と同じく眠気に襲われているのだと思うと、安心する。
「 5限目って、なんだっけ………眠くなっちゃうよね」
ふわりとあくびをしながら、そう呟いた。
生物基礎か、現代文だったか。
どちらにせよ眠くなる授業だった気がするな……。
次の時間は睡眠学習になりそうだ。
半分くらい飛びかけていた意識を引き戻して、フルフルと頭を振った。腕を目一杯上げて伸びをする。
「 次、移動じゃなかったよね?…….そろそろ降りる?」
「 ……………」
……????
伸びをしながら聞いても、白石くんは静かなまま。
返答がなかったからパッと彼の方を向いてみると、
首をカクンと倒してしっかり眠っていた。
俺よりちゃんと本能で行動してるな…。
眠っていたから返答がなかったのか。なるほど。
それにしてもあのちょっとの間でこんなにしっかり寝るなんて。しかも座ったまま。
仕方なく彼の方に向き直る。
とりあえず放り出されていた弁当箱を手にとって、蓋を拾ってしっかりと締めた。
その辺にお弁当を入れる袋のようなものがあったから、空の弁当箱をそれに入れて結んだ後、彼が持ってきたカバンに入れておいた。
持っていた携帯で時刻を確認すると、5限の本鈴がなるまで後10分もないくらいだった。
そんなに急いで起こす必要もないけど、外だし、しかも屋上にいるからなるべく余裕を持って教室に戻りたい。
声をかけようと口を開いてみるが、少し躊躇ってしまう。
気持ち良さそうに寝てるから起こしづらいのだ。
声をかけたいのにかけられずに、ただ何もしないままじっと
白石くんを見つ続けるという変な状況になってしまった。
「 ……うー、どうしよ」
悩んだけど、思いのほか白石くんの寝顔が幼く見えて、不覚にも可愛いと思ってしまったからもう少し見ていたくなった。
もうちょっとギリギリまで待ってもいいかな。
もしかしたら自分で起きるかもしれないし。
そうやって自分に軽く言い訳した後に、ちょっとだけ白石くんに近いところに移動して腰をかけた。
近くで見ると、余計に顔が整っているのがわかる。
そうっと体を倒して、彼の顔を覗き込んでみる。
鼻が高くて彫りが深い。
少し薄めの唇も形が良くて、本当にいい顔してんな〜〜と感心する。
これで背が高くて運動できるんだから、女子にはたまらんだろうな。男の俺でもカッコいいと思ってしまうんだから。
天は二物も三物も与えたみたいだ。
羨ましくて、ぼーっと彼の彼の顔を見つめていた。
どれだけ見てもやっぱりイケメンはイケメンのままで、虚しくなって目をそらした。
人の顔なんてこんなにまじまじと見たことがなかったから、少しドキドキした。
しかも相手が寝ている状態だから、なんだかこっそりといけないことをしている気分になって落ち着かなくなる。
別に見てるだけだから、悪いことはしてないと思うんだけど……。
1人で勝手に悶々と考えていると、ふと彼の首筋に目が留まった。
ブラウスの下に着ているシャツの襟の部分に、糸くずのようなものがついていたのだ。
どこの糸かは分からないけど、教室で見たときにはついてなかったから、屋上に来てから付着したものなんだろう。
良かった、虫とかじゃなくて……
変な虫とかだったら俺絶対触れないし、、、、
白石くんを起こさないように取ろうと思って、そろりと手を伸ばす。
これまたさっきと同様に、悪いことをしているような気分になる。
寝ている人間の体に触れることがこんなに緊張するとは。
俺の指が彼の首筋に触れそうになったとき。
「 お触りは禁止でーす」
白石くんが俺の手首をガッシリ掴んで目をぱちっと開いた。
「ッつ……!?!? !!!!!!!!!!」
まさかの出来事に本当に驚いてしまって、思わず後ろに飛び退いてしまった。
「 うわ、ちょっ、」
もちろん、白石くんに手首を掴まれたままの状態なので、
彼もつられてバランスを崩して、そのままこちらに倒れてくる。
し、心臓飛び出るかと思った…………
ていうかいつから起きてたんだこの人。
あの緊張感の中で、まさかいきなり手を掴まれるなんて思っていなかったから、予期せぬ異常事態にまだ心臓がばくばくと鳴り続けている。
しかも、
さっきまで一方的的に盗み見していたあの整った顔が今は俺の目の前にあるのだ。
一緒に後ろに倒れてしまったので、勢いのまま白石くんの下敷きになってしまった。
………ち、近い。
白石くんも、まさかのお互いの体勢に驚いているのだろう。
大きな目をぱちぱちさせて、ポカンとした顔ですぐ近くの俺の顔を見下ろしている。
掴まれたままなので、硬い地面と彼の手に腕を固定されてしまってうまく身動きが取れない。
こんなに近いと心臓の音が聞こえてしまうんじゃ……
とあり得ない心配してしまって余計に頭がこんがらがっってくる。
顔もだんだんと熱くなってきて、動揺を隠そうと表情を引き締めようとすると逆にこわばって変な顔になってしまう。
いや、でも俺別に悪いことしてないよね。
寝てる間とはいえ友達の体についてたゴミ取ろうとしてただけだよね、しかもまだ触る前だったよね。
あっ、でもその前にこっそり顔はガン見してました。
その罰ですか。その罰でこんなに恥ずかしい思いしてるんですか。
俺が悪かったです、すいません。
謝ったんで早くこの状況なんとかしてください。かみさま。
頭がパンクしそうです。
もう思考回路がショート寸前になった時、
俺の目の前の顔がフッと微笑んで口を開いた。
「 …………顔まっか」
「…………ッ、、、」
いやいや10割あなたの所為ですけどね!
「 う、うるさいなぁ 、誰のせいだと……」
「 あ?こうなったのはそれこそお前の所為だろうが、
そもそもお前が先に俺に手出そうと……」
「 ないないないない 」
やっぱり何か誤解してるみたいだ。
いつから起きていたのかは知らないが、本当に俺が変なやつだと思われるのは避けたいので全力で首を振る。
「 いや、俺の寝込みを襲おうとしてたね」
「 だから違うって、ほら、これ!これを取ろうとしたの!」
掴まれていない方の手を伸ばして、白石くんの襟についていた糸くずを摘みとった。
そして彼の目の前に突き出して、証拠と言わんばかりにズイっと突き出して見せつける。
俺は人の寝込みを襲うような変態じゃない。断じて。
「 あ、そういうこと。なーんだ、なんか穴が開くほど見られてんな〜〜って思ってたら、とうとう触ろうとしてきたからちょっと怪しんだぞ」
「 バカ言うなよ、……」
取った糸くずをその辺に捨てると、自然とため息が出た。
疲れた………でも誤解が解けてよかった。
「 ね、わかったなら早く退いて、」
「 別に取って食ったりしねえよ」
そう言って白石くんはまた片方だけ口角を上げてにやっと笑った。
わぁぁ、近い、近いって。
いくら男同士でも、流石に誰しもが認めるイケメンの顔がこんなに目の前にあると緊張する……
ハッキリ言ったら、彼がかっこいいからドキドキするのだ。なるべくならこの距離では直視したくない。
そしてあろうことか、今度は彼が急に静かになってジ……っと俺の顔を凝視してきてまた頭がパンクしそうになる。
彼は目を少しだけ細める。
鋭くなった目線を注がれるが、合わせたらダメなような気がして、目をキュッと閉じる。
目の奥がキラリと光っていた。
あれは完全に捕食者の目だった。恐ろしい。
「取って食ったりしない」なんて言っていたけど、本当に食べられてしまいそうな雰囲気と緊張感だ。
まぁそんなこと有り得ないのだけれど、予測もしてない展開は俺の脳内でどんちゃん騒ぎしていて、1つも言葉が出てこない。お手上げ状態だ。
ギュッと目をつぶってこの緊張感を耐えているのに、未だ俺の上にいる白石くんは一言も言葉を発しないまま時間が流れていく。
え、なになに怒ってんの?
俺が悪いのにぐちぐち口ごたえしたのがダメだったの?
謝ったじゃん……心の中だけど。
俺の手を掴んでいる彼の手が少しだけギュッと力強くなったかと思えば、白石くんはちょっとだけ上体を起こした。
……あ、やっとどいてくれる…!
と安心したのもつかの間。白石くんが、片方の膝を俺の腹の逆サイドに持ってきて膝立ちする体勢になった。
うーわ、下から見てもイケメンてどういうこと……
………じゃなくて!?!?!
なんで俺押し倒されてんの!?!?
さっきまでは、ただ一緒に同じ方向に倒れこんで並んで寝そべってる感じだったのに、たった今白石くんが俺の腰を又越してきて、完全に上に乗られるという形になってしまった。
「 …………どんな状況だよ」
「 嫌なら逃げればいいじゃん」
何言ってんだ。こんな力強く押さえつけといて。
離す気なんてないくせに。
この状況を面白がってるのか、白石くんは目を細めながら肩を揺らして笑う。
申し訳ないけど俺はちょっとも面白くない。
未だに心臓はドキドキ煩いし、仰向けになっているから日光が直撃して眩しいし、そして何より誰かに押さえつけられて動けない、ということ自体が少し怖い。
なんでこんなことされているのか分からないけど、相手が面白がっているなら、こちらは下手に反応を示さない方がいいかもしれない。すぐに飽きて退いてくれるだろうし。
でもされるがままなのも癪なので、今までソッポ向いていた顔を彼の方に向けて、ジっ……と睨みつけてやる。
ふと、白石くんの笑みに温度がなくなった、
……ような気がした。
「 …………っ、」
横腹に膝をトンっと当てられて体がこわばる。
「 さっき……ちょっと気になったんだけどさあ、」
白石くんがゆっくりと口を開く。
え、このまま喋るの…。
退いてくれないんだね、あ、そう。
「 『女の子とは』って言ったよな…さっき。」
それってつまり……と、白石くんが顔を近づけながら続ける。
白石くんの表情から完全に笑みが消えた。
「男相手ならそういう経験あるんだ?」
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