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「 は、………はぁ? いきなり何言って…」
「 だってさ、普段必要以上のことは喋んないお前が、あえて『女子とは』言葉をチョイスして、対象を限定させてたの、妙〜〜に引っかかってたんだよな」
俺の上から退いてくれない白石くんは、淡々と言葉を続ける。
「 男相手なら、桜木は受け身っぽいね、細いし。」
なんでこんな鋭いんだよこの人……
普通の人なら気にしないであろう些細な言い回しにも違和感を覚えて、こんな風にサラッと言及しにきてる。
心臓がさっきとは違う鳴り方をしている。
みぞおちがグッと重たくなるような、嫌な苦しさだ。
ズイッと上半身を近づけられて、反射的に顔を背けてしまう。
白石くんの瞳に、明らかに動揺している俺の顔が写り込んでいて、見てしまったら余計に落ち着かなくなると思った。
てか、この状況なんかデジャヴ…。
こんな風に上に乗られて質問される行為に見覚えがありすぎて、はて……と心の中で考える。
と同時に頭に浮かんできたのはグレーの髪の綺麗な男の子。
あ、なるほど。零くんだ。
つい先日保健室で遭遇したときに、彼にもベットの上で迫られて質問攻めにあった。
零くんの方がいくらか可愛げがあって怖くなかったけれど。
こんな短いインターバルの間に2回も男に押し倒されるなんて人生何が起こるかわからないなと、他人事のようにぼんやりと頭の中で考える。
一体何が楽しいのだろうか。全く分からない。
零くんも白石くんもルックスは完璧なのだから、俺みたいな凡庸な男ではなくて、もっと綺麗な女の子とかにこういうことした方がいいと思う。絶対に。
まぁ、彼らも好きでこんなことしてるわけではないんだろうけどね……。
「 そんなわけないよ……さっきのは、ただの言葉の綾みたいなもので、別に大した意味ない」
まさかはいそうです、なんて言えるわけもなく。
白石くんだって、別に本気で気になって真面目に問い詰めてるわけじゃないだろうし。
でも、
……やだな、この人の目は。
どうしてか、彼の目は何も恐れを知らないように黒くて真っ直ぐで、少しだけ怖い。
嘘をついても、全部見抜かれてしまうような気さえする。
「 別に、俺はそういう偏見ないよ。……っていうか、桜木だったらなんかむしろ納得できる。」
納得できる、とは?
目を見ていられなくなって、パッと視線を逸らしてしまった。彼に掴まれたままの腕はまだしっかりと固定されていて動かせない。
白石くんが、大きな目を一度ぱちりと瞬きさせたのがわかった。視線は向いていなくても、やけにその動作がゆっくりとスローモーションのように見えて胃のあたりがヒヤッとする。
変なタイミングで咄嗟に目を逸らしてしまったから、怪しく思われただろうか。
明らかな動揺を悟られてしまえば、それは肯定と同じこと。
逆光になっているから白石くんの表情はよく分からない。
俺を糾弾しようと真剣な面持ちなのか、はたまたそんなに重く考えずにケロッとしているのか。
俺の手首を握る握力や声色からは、その真意は伝わってこない。
そもそもこの行為には何の意味があるんだろう。
興味?好奇心?
それとも俺と今後関わることを決める判断材料にしようとしてるんだろうか。
俺が、男と寝るような人間で、
しかも相手が弟なんて知ったら彼はどんな顔するんだろうな。
軽蔑するかな。
気持ち悪い、汚らわしい、異常だと、そう思うかな。
本当は、今触れられているこの手だって、
ほんとは、ずっときたない。
また一つ嘘をついてしまったから、もっと汚くなってしまった。
そして、きたない俺に触れている白石くんも汚れてしまう。
俺の体から黒い靄が生まれて、俺に触れたところから白石くんの手が黒く侵食されていってしまうイメージが頭の中に湧いてきて、鳥肌が立った。
喉の奥がキュッと閉まるような感覚。
息苦しくてたまらない。
じっと、俺だけの目を見つめて瞬きもしない彼の視界に、
こんな汚い俺が写っているのが嫌だった。
酷く不快で、叫んで逃げ出したくなった。
でも、できない。
胃がキリキリと痛んで歯をグッと食いしばる。
「 ………桜木?」
至近距離から覗き込まれる。
「 白石くんの考えすぎだよ、本当に何もないから」
そう早口でまくしたてる。
何か別のことを考えてないと平常心を保てなくて頭がどうにかなりそうだ。
白石くんは何か言いたげな顔して口を開いたけれど、
すぐに目を伏せて何も言わなかった。
ずるいな、と思った。
ふとした瞬間に距離を詰めてきたと思えば、
容赦なく心の深いところにスルリと入り込んで荒らしていく。
だけど本当に踏み込まれたくないところまで来ると、全て分かったような顔してやんわりとUターンされる。
でも、自分自信でも心から触れられたくないか、と問われればはっきりと分からないのだ。
心のどこかでは暴いてほしいと思っているのか、知ってほしいのか。自分でも収集がつかないこの感情を一緒に背負って理解してくれるような相手は望んでいないが、そんな人がいたら、と思考の片隅で期待している自分も確かにいる。
ずるい、ずるい。
こんな風に俺の内側にばかり近づいてきて。
俺がもう少しだけ心を開いても、どうせまたどこかに行って、肝心なところまでは触れてくれないくせに。
そういうのって、振り回される方はすごく疲れるんだってことをきっと知らないんだ。
無意識のうちに、期待してしまうから自分ではどうすることもできない。ただ側にいられるだけでどんどん自分のペースを乱されて、身動きが取れなくなる。
そうなってしまったらもう終わりで、何かに縋ってないと立っていられなくなるほど心が弱ってしまう。
今の俺がまさしくそうで、その依存先は千里だ。
救われない、みっともない。
今の俺は白石くんの目にどんな風に映ってるんだろうか。
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