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今まで逸らしていた視線をゆっくりと持ち上げてみる。
彼は今どんな顔をして俺を見ているんだろう、
どんな気持ちで俺に触れているんだろう。
大したことは考えずにこんなことしているなら、俺の思考量と割に合わなすぎる。
こんなにも頭の中がぐるぐる回ってパンクしそうになのに、
それが俺だけなんてあまりに不平等で悔しいではないか。
まあこんなことですらも心の中で一方的に対抗しようとしてる俺は俺でちょっと子どもじみているんだろうけどさ。
白石くんとゆっくり目があった。
その時、彼がハッと息を呑むような気配がする。
相変わらず見つめ続けられるのは恥ずかしいけど、この距離なら敢えて目を逸らしてることの方がわざとらしい気がして、今度はちゃんと見つめる。
頭の位置が少しだけズレているから、自然と上目遣いになった。
「 退いてよ 」
と、そう言えば良いだけなのに、なぜか口から出てこなかったのはどうしてだろうか。
さっきまでは痛いくらいだった心臓は今はもう落ち着き、
程よく速まっていて心地の良いドキドキだ。
ずっと、このままでいい…なんて。
心のどっかで思ってしまってるんだろうか。
相変わらず自分に都合のいい脳みそだ。
さっきからずっと、振り回されてる
ふと、白石くんがキュッと目を細めた。
なにかを言いたげな、寂しそうな目。
怒っているのか、
泣きそうになっているのか、
そのどちらとも言えるような切ない表情が視界に広がって、だんだんと心配になってくる。
俺はまた自分の気づかないうちに何かやらかしてしまったんだろうか。
声をかけるべきか否か少し考えたけど、そんなことはすぐに無駄だと気づく。
なんとなく、本当になんとなくだけど、彼は誰かと俺を重ねてるように思えたのだ。
俺に注がれる視線は本当は俺にではなく、その奥の誰かに向けられている。
はっきりとはしないけど、そんな気がした。
だったら俺が彼にかけられる言葉はない。
「 め、……が、」
あ、
思わず、口からぽろりと言葉が出てしまった。
無意識だった。
考えすぎて、考えられない。
白石くんも多少驚いたようで、少しだけ小首を傾げる。
「 ……ん?」
「 目…が、濡れてるみたい」
自分で言ったのに、何言ってるんだろう……と困惑した。
なんでこんな時にこんなどうでもいいことを口走ってしまったんだろうか。
だって、ほんとうに、白石くんの瞳はしっとりと濡れているように光っていて、大きな黒目が艶めかしく煽情的にこちらを見つめている。
何か言わなきゃこの空気に流されてしまいそうだったからなのか、俺じゃない方に向かってるように思えた彼の意識をこちらに引き戻したかったのか、
それとも、
「 はっ………なんだ、それ。」
煽ってみたくなったのか。
小さくバカにするように鼻で笑われる。
でもその笑みはすぐに傷ついたような色を浮かべて、悲しいような、切ないような、苦い表情になる。
白石くんがずっと掴んでいた俺の手首をそっと離して、今度は俺の頭の横に両手を着いた。
片手が俺の首の下に入れられて、くっと持ち上げられる。
彼はなんとも言えない顔で、
でもそんな彼の瞳に映る俺の顔も、やっぱりなんとも言えない表情をしていて、少しだけ笑いそうになる。
白石くんが前のめりになって、ふっと視界が暗くなる。
整った顔がだんだんと近付いてきて、
鼻先が触れそうになった時、白石くんが少しだけ顔の角度を変えた。
あ、喰われる。
直感的にそう思って、
もう動けなかった。
動くつもりもなかった。
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