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なんで、逃げないんだろ……俺。
もう彼の顔がぼやけて見えるほど近い。
これからされるであろうことが想像できないほど鈍感じゃない。流石にね。
頭ではしっかり分かっているし、体も状況に合わせて……
というか流されてしまって、もうどうぞ好きにしてくださいって感じ。投げやりになっているわけではないけど、ここまできてこの雰囲気で拒絶するのも悪いかなぁ、なんて適当に考えてしまって、自然に無抵抗になる。
……目って、閉じた方がいいんだっけ。
でも、それだと自分からキスしてくださいって言ってるみたいで癪だな。
他人事のように、変に冷静になった頭でそんなことを考えていた。
もう、なんだっていいや。
頭がふわふわと柔らかくなったような感覚がする。
眩しい太陽の光と熱に当てられて、脳みそまでとろりと溶け出していきそうだ。
それでも、なにも考えられないくらいの方がきっといい。
深く考えちゃいけない。
誰かに流されて、振り回されて、そしてそれに身を任せているだけで大抵のことは滞りなくなく進む。
そこに俺の意思なんかあってもなくても一緒だ。
相手がしたいなら、すれば良い。
白石くんの顔がまた少しだけ近づいた。
もう少しで、唇が触れる。
あと、 すこし、
と、思っていたんだけど。
『♪〜〜〜♪〜〜〜』
!?
突如電子音が鳴り響き、お互いの体が跳ね上がる。
「 び、っっくりした」
白石くんが苦笑しながら体を起こした。
一瞬だけ目があって、何か言いたげに困ったような表情を返される。
ポケットに手を突っ込み、その次に制服のブレザーの内ポケットも触る。「あれ?」と白石くんがわたわたしている間も、音楽は鳴り続けている。
どうやら携帯の着信音らしい。
シンとした雰囲気の中に突然流れ始めたキャッチーなメロディがシュールすぎて、あほらしく思えてきた。
それにしてもよくもまあこんなタイミングで鳴り出したな。
まるで誰かが見てたみたいだ。
「 お、あったあった、」
やっと見つかった彼の携帯は、弁当と一緒に持ってきたサブバッグの中にあったらしく、白石くんは画面をスライドして着信に応答する。
「 もしもし??」
『あっ、圭介??お前今どこにいんの??』
通話の設定がスピーカーになっているらしく、電話の向こう側の声がよく聞こえる。
多分この声は、白石くんと仲のいいグループの男の子だと思う。声だけじゃあんまり自信はないけど。
「 …?屋上に昼飯食いに来てたけど、なんかあった?」
『なんかあったじゃねえよ〜、あと1分で5限始まるけど?』
「「え!?」」
電話越しに聞こえたセリフに驚いて、思わず声を出してしまうと、白石くんとピッタリ同じタイミングで声が重なって顔を見合わせる。
まさかもうそんなに時間が経ってたなんて…。
たしかにさっき時計を見た時結構危なかったから心配していたけど、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
俺たちセットで遅刻するのが2回目なんてめちゃくちゃアホらしくて笑えてくる。
いや、まだ今は遅刻と決まったわけではないか。
授業始まってから毎回数分遅れてくる先生もいるし、今から急いで教室まで戻れば、始業のチャイムまでには間に合わなくても先生には怒られないかもしれない。
「 マッハで戻るから先生来たらいい感じに誤魔化しといて、」
『了解〜』
白石くんが通話を終了して、ポケットに端末を押し込んだ。
電話を掛けてくれた白石くんの友達に感謝だ。
まぁ、今でもすごくギリギリなんだけど。
「 うーん、」
サブバッグを拾い上げた白石くんが、俺の方を振り返って、ヘラリと眉を下げて笑う。
「 せっかくいいところだったのになー」
「 ッ、なっ……!?」
てっきりスルーされるものだと思ってた、それ。
いや、そりゃたしかに俺だって思ったけどさ。
でもこういう時って大体無かったことにするのが正しい流れなんじゃないんだろうか。
ていうか遅刻しそうなのに全然焦ってないし、この人…。
「 うーん、勿体無いし、しとく?」
「え?」
「 キス 」
冗談か本気か分からなさすぎる笑顔でサラッと問われて、
俺は絵に描いたようなキョトン顔をかました。
聞き間違いかな。
「 いやいやいや、おかしいおかしい。」
「 なんで?だってあのまま電話かかってこなかったらしてたでしょ」
…痛いところを突かれて、ウッと言葉に詰まる。
たしかに、俺もそうは思うけど。
「 でも、『しますか』『じゃあしましょう』はいどーぞ、ってするものでもないでしょ」
「 なにも言わなかったからいいってこと?」
「 いやだから 」
話が通じなくて頭を抱える。
もしかしてわざとなんだろうか、だとしたら1発くらい叩いてやりたい。
「 そういう雰囲気になったら、何も言わずに、誰とでもするの?、お、男でも?」
いくら経験豊富だからといって、男相手にそういう雰囲気になったところでキスやスキンシップなんてしないのが普通だろう。
「さっきのは冗談だった」とか「なに本気にしてるんだ」とか言って笑ってくれれば、俺もありがたくその言葉を受け入れてさっきのやり取りを「高校生同士のおふざけ」として笑い飛ばすことができるのに。
当の本人は、至ってまじめに
「 え? 、あ、そっか。男ね…。」とハッとしたように呟いて、俺をジッと見つめた。
「 バカにしてる……?」
「 えぇ、なんでそうなるんだよ」
「 もう、いいよ早く教室戻ろう」
話が通じなさすぎて呆れる。
決して彼も頭が悪いわけでないだろうに、どうして今はこんなに軽くていい加減な言動ばかりするんだろう。
地面に置いていたバッグを拾い上げて、白石くんの横を通り過ぎる。
立て付けの悪い屋上の扉を開くと、白石くんがのんびり俺の後をついてきた。
「 別に誰とでもしてるわけじゃないよ、桜木もそうだろ?」
「 だから、俺はしたことないんだってば」
そりゃすごく小さい頃は親とほっぺにキスくらいはあるし、千里に関しては今でもたまにしてくる。まぁ別にそれが大して重要な意味がある行為だとも思わないけど。
「 へぇ、やっぱりピュア」
軽いトーンでどうでもいいことを喋るようにそう言われて、
思わずカチンときた。
なんなら今ここで言ってやろうか。
白石くんがピュアだと思っている俺は、実は弟とキスもセックスもしまくってる汚らわしい奴なんだと。
そんなこと言ったら、絶対にピュアだとか純情なんて言えなくなるだろう。
白石くんは別に俺をバカにして言ってるわけじゃないだろうけど、あまりにも本当の俺と真逆のことを言ってくるから否定したくてたまらない。
だいたいなんなんだ、
俺がピュアだったらなにか白石くんに良いことがあるの?
キスしたらなにかメリットがあるの?
そりゃ抵抗しなかった俺もどうなんだとは思うけど、蒸し返されたら恥ずかしいし気まずいからもう無かったことにして欲しいというのに。
階段を降りながらあれこれ考えていると、つい早足になってしまう。
さっきは無駄にドキドキさせられたし、
白石くんのせいで授業にも遅刻しそうだし。
はぁっとため息をつくと、俺の背後から「なに怒ってんのー?」と白石くんの声がした。
また能天気そうに響いたその声色に呆れて「別に」と
素っ気なく返すと、それが気に入らなかったのか、俺よりも不満そうな声で「怒ってるじゃん」と言われた。
「 怒ってないって、呆れてるだけ」
「 お前こういう時結構ズバッと物言うよな…」
「 オブラートに包む優しさが無くてごめんなさいね」
「 ……別にキスくらい減るもんじゃないのにさー」
まだ言うのか、それ。
「 ………あぁ、もう!うるっさいなあ!」
もう我慢できなくて、バッと白石くんの方を振り返ると、いきなりの俺のアクションにびっくりしたのか、白石くんが肩をビクッと揺らして一歩後退りした。
さっきまであんな風に適当なことばかり言っていたくせに、俺がこうやって真正面から睨み付けると驚いた表情を見せるなんて、変なの。
半ば投げやりになって白石くんの方に詰め寄る。
ただでさえ白石くんの方が慎重が高いのに、さらに階段の上の段にいるから俺との身長差がかなり開いている。
普通に背伸びしただけじゃまず届かない。
だから、白石くんの胸元まで腕を伸ばして、彼のネクタイをぎゅっと掴んだ。
「 え、ちょ、桜木…?」
「 黙って」
さっきは俺のことを押し倒したくせに、なに今になって動揺してるんだよ、ばか。
驚いたように目を見開いて見下ろしてくるから、
俺もキッと上目遣いで見つめ返す。
両手でネクタイをグッとこちら側に引き寄せて、顎を上げ、彼の唇を迎えに行く。
「 わ 」
小さく驚く彼の声が聞こえたけど、噛みつくように唇を重ねてその声ごと飲み込んだ。
勢い余って、お互いの歯当たってカチンと音を立てた。
結構痛くて、ジン…と口の中が痺れたがそんなこと気にせずにさらにグッと唇を押し付ける。
「 ん、」
なんて暴力的でロマンチックの欠片もないキスなんだろう。
それでも文句は言わせない。
不満の言葉なんていう余裕もなく口を塞いでやる。
乱暴に唇を重ねたあと、軽く下唇に噛み付いてから、ゆっくりと顔を離した。
流石にちょっと強引すぎたかな……、
と チラッと後悔したけど、そんなことをこの人相手に思っても気にするだけ意味がないと気付いて開き直る。
うん、俺は何も悪いことしてない。
したがってたから俺がからしてあげただけだもんね。
目線を動かして白石くんの顔を見上げると、
彼は綺麗な顔をほんのり赤く染めて、ぽかんと口を開いたまんまだった。
いきなりで驚いたのだろうけどさっきまでの余裕ぶっこいた態度とは真逆すぎておかしい。
彼のこんな顔が見られただけでじゅうぶんだ。
満足して握りしめていたネクタイから手を離すと、結構強く握りこんでいた所為でしわくちゃになってしまっていた。
「 あ、ごめん。しわになっちゃった」
ネクタイをしっかり締め直して、カッターシャツの襟元を正してあげている間も、白石くんはずっと黙ったままでなにを考えているのかわからなかった。
もしかして怒ってるのかな、なんて思ったけど
どちらかというと被害者は俺のような気がするから俺は絶対に謝らない。むしろお礼を言われたいくらいだ。
あー、スッキリした。
「 ………おまえさあー、ほんと、、」
口元を手で隠して目線を逸らされる。
そんな態度とられてもまだ顔は赤いままなので全然怖くないし、なんならちょっと可愛いと思ってしまった。
「 あー、もうびっくりした。いきなりだし、歯当てられたし」
「 それは、サービスです」
「 その急に行動力上がるのなんなん、ほんと、」
「 だって白石くんがしたいってうるさいから」
「 そこまで言ってねえ」
いーや、言ってたね。と言ってまたくるりと振り返り階段を下りていくと、パタパタと白石くんが後ろを付いてくるおとがした。
もう確実に授業には遅刻だろうから、それほど急ぐ必要も感じられなくなって歩くペースを落とすと、白石くんが大股で降りてきて俺の隣に並んでこちらを見つめてくる。
「 なに?」
「 ……さっきみたいなこと、他の奴にはすんなよ」
そしてまたふいっと視線を逸らされる。
え、それを君が言うの!?
と心の中で思わず全力でツッコミを入れた。
自分は雰囲気がどうとか、勿体ないとか言ってたくせに、
俺にはなんでそんなこと言うんだろう。
俺がいつどこで誰とキスしようが関係のないことなのに。
いや、まあ誰彼構わずはしないけれど。
「 なんで?減るもんじゃないんでしょ?」
嫌味のように、さっき白石くんから言われた言葉をそっくりそのまま返してにっこり笑う。
だって、キスくらい減るもんじゃないって最初に言ったのは白石くんなんだし、俺はそれに沿った行動をしたまでだ。
彼自身矛盾しているし、そもそも他人にどうこう言われることじゃない。
「 それは、そうだけど……」と、白石くんが言葉につまって、ばつが悪そうに続ける。
「やっぱりだめ、なんつーか、破壊力がむり」
「 白石くんの言ってること、たまに意味わかんないよ」
「 分かんなくていーよ別に、こっちの話だから」
「 ふーん、」
やっぱり彼の言いたいことは分からないままだったけど、
なぜか気持ちはスッキリとしていた。
本当に減るもんじゃなかったな。
あんなにうだうだとしぶっていた自分がアホらしく思えて笑みがこぼれた。
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