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「 じゃあ帰るぞー、学級委員号令〜」
「 きりーつ、気おつけ〜、れい」
担任の声かけの後に学級委員の女子が号令をかけると、
「 さよなら〜」と教室中でクラスメイト達の声が上がる。
ほぼフライング気味に教室を出て行く男子生徒や、
ぺちゃくちゃお喋りを続けたままの女子たちを横目に俺も教室を出ようとカバンを肩にかけると、後ろから「おい」と声をかけられた。
「 放課後付き合えって言ったろ、なに帰ろうとしてんの」
むっとした顔で俺のカバンを掴んでいる白石くんと目が合う。
俺がすぐに帰る素振りを見せたから、約束を忘れたと思われたんだろう。
でも前日からメールをもらって、放課後のために白石くんの体操着を借りる約束までしていたのだ。
覚えてるに決まってる。
それにしても昼休みにあんな出来事があったのに、さっきから普通すぎるテンションだし、いつもと全く様子が変わらないことに驚く。
やっぱり白石くんにとってはああいったスキンシップは日常茶飯事のことでいちいち気にする必要もないってことね。
妙に納得して肩をすくめる。
「 覚えてるってば。でもちょっと待って、1回職員室寄らなきゃ。再提出の課題あってさ。」
記入漏れがあって返却された現代文の問題集を白石くんの前にひょいっと掲げて見せる。
空欄を全部埋めて、担当の先生に再提出しなければ成績を平常点に響いてしまう。
そんなに頑張るほど本気で取り組んではいないけれど、一応担任の先生の科目なので最低限の評価は貰っておきたい。
「 あー、おけおけ。じゃあそれ終わったらグラウンドに来て。荷物持ったままでいいから」
「 え、グラウンド……?なんで」
「 いいから。待ってるからな」
逃げんなよ、と困ったように笑いながら白石くんが手を振って教室を出て行った。
そのまま廊下を真っ直ぐ歩いて、リズミカルに階段を降りて行く背中を目で追っていると自然にため息がもれる。
やっぱり完全に彼のペースというかなんというか。
まぁOKしたのは自分だし今更文句なんて言わないけど。
よいしょっと勢いをつけてカバンを肩にかける。
1日分の教科書や授業で使う辞書なんかが入っているから、本当に重たくて、毎日これを持って通学していると肩が凝るが仕方ない。
ズッシリと首にかかる圧力に顔をしかめながらゆっくりと歩き出した。
何人かの生徒とすれ違いながら職員室前まで行き、とりあえず手持ちの荷物を入り口付近に置いた。
再提出の課題だけ手に持って、そうっと職員室を覗き込んで中の様子を伺ってみる。
こうやって入る前に確認しとかないと、目当ての先生がいなかった時何もせずにUターンして職員室を出ることになってそこそこ恥ずかしい思いをするからだ。
キョロキョロと部屋を見渡して、
担任でもあり国語教師でもある本城先生を探していると、割と近くに先生の後ろ姿を見つけた。
中に入って声を掛けようとした瞬間、先生が誰かと話しているのに気づいて立ち止まる。
取り込み中ならもうすこしタイミングをずらした方がいいし、このまま入り口付近で道を塞いでるのも躊躇われたので一旦外に出ようかな、なんて考えているとすごく聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「……?」
部屋から出ようとした足が止まる。
本城先生と話している男子生徒が視界に入って
思わず「あっ」と声が出た。
俺の担任と話し込んでいたのは、昨日保健室で出会ったばかりの美少年だった。
えっと、名前は確か…、零くん だったかな。
なんとなく目を惹かれて2人のやり取りをじっと見つめた。
最初は普通に話しているだけに見えたが、よく聞くとなにやら軽い言い争いをしているような雰囲気で、心配になって少し近づいてみる。
零くんが先生の方を見上げ、綺麗な顔をムスっとさせて口調を強くさせるのが分かった。
「だぁかぁらぁ、もともとこういう色なんです、地毛なの、地毛。生まれつき!」
「 でもそれを証明する方法がないだろうが」
「 も〜!入学からずっとこの色だってば、ほら、根元も毛先も全く同じ色でしょう〜」
なんか言い争っているかと思ったら、零くんが生活指導を受けていたんだ、なるほど。
話からすると、きっと零くんは髪色について注意を受けていたのだろう。
たしかに零くんの髪は黒にしては色素の薄いグレーっぽい髪だし、頭髪検査に引っかかってしまうのも当然と言える。
それにしてもすご……
よくもまああんなに堂々と先生に向かって反論できるな、、、俺絶対無理だ……こわすぎ。
自分が当事者な訳でもないのにドキドキしながらも、
なんとなくふたりのやり取りが気になってしまってこっそりと身を隠しながら2人の様子を見続ける。
零くんは、自分のサイドの髪を持ってくるりと指に巻きつけて、そのまま頭の上の方に毛先を持ち上げる。
髪の根元と毛先を並べて見比べても、全く変わりのない同じグレーだ。もし染めていたらこんなに綺麗な髪質にはならないだろうし、根元の色も変わるはずだ。
だけど先生には通用しなかったようで、
「 許可できない」と簡単に言い切られる。
可哀想に。
あんな否定的なこと言われて呼び出しなんてされたら俺だって良い気持ちはしない。
先生も零くんの言ってることは分かってるはずなのに。
きっと立場的に「OK」とは言えないのだろう。
零くんもそれを理解しているようで、それ以上先生に反論することもなく、フッと小さく溜息を吐く。
そして「あー、くそ」とその綺麗な顔に似合わない乱暴な言葉を吐きながら、自分の頭を爪でガシガシと掻いた。
「 じゃあどうすればいいんです?黒染めでもしますか」
零くんは半ば諦め気味に、投げやりになっている感じだ。
けれど案外先生はそうでもなくて、けろっとした態度で「いや」と零くんの言葉を否定する。
「 事務室いって「地毛届け」貰ってこい。ちゃんと親のハンコ押して、次の風紀点検までに提出すれば大丈夫だから。地毛届けは毎年更新するから、今出せばあと1年は有効だ。」
「 え、提出したら今の髪のままでいいんですか?」
「 少なくともこの1年間はな。……生まれ持った髪の色どうこうしろなんて、そこまで学校側も鬼じゃねぇよ…」
零くんは安心したように両手を胸元に当てて「なーんだ」と自分の髪をさらさらと指でとかした。
「そうそう……ってなわけでそこで隠れて見てる桜木はまだ今年の分の届けは提出されてないみたいだけど、お前は今年から髪の毛黒にすんのか」
「 ひっ」
急に自分の存在に急に気づかれて、死ぬほど驚いた。
なんの前触れもなく、そしてこちらを振り返りもせずにそんなことを言われたもんだから心臓が飛び出るかと思ったくらい。
さっきから先生はずっと零くんの方だけを見て話を進めていたはずなのに………
先生はこちらを振り返ると、「ニヤッ」と意地悪そうな笑みを浮かべて俺に向かって手招きをする。
……いつから気づかれてたんだよ。ていうかなんでバレた。
あの人後ろに目でもついてるんだろうか。
んなわけないけど。
動揺と焦りが入り混じった声色で「 いえ、あの……」とかそんなしどろもどろなことを言うのが精一杯だ。
肩を縮こませながら、そのままそうっと職員室に入って先生がいるところまで近づく。
「 あ、 りょー先輩だ。こんにちはぁ 。変な登場ですね」
「 こんにちは 、別に隠れてた訳じゃないんだけど…」
まあ嘘なんだけどね。
しっかり隠れて盗み聞きしてたんだけどね。
様子を伺おうと思って一方的に見ていたのすらバレていたし、なんだかコソコソしてるストーカみたいな登場になってしまってめちゃくちゃ不本意だし地味に恥ずかしい。
とりあえず、持ってきた課題を先生に渡して「遅れてすいません」と誤った。
これで一応俺の目的は果たしたからなるべく早く退散したいのだが、零くんが俺の方にずいっと体を近づけて、そのままサイドの髪にスッと手を伸ばした。
親指と人差し指で摘んでクルクルとこすり合わせるように触られてくすぐったい。
「 そういえば、確かにりょー先輩も完全な黒髪じゃないですよね、ちょっと赤っぽい茶色みたいな…」
「 うん、これでも一応地毛だからね、俺も去年地毛届け出したんだよ。………今年の分は完全に今の今まで忘れてたけどね。」
「 あらあら……。というか先輩のこの髪色でもアウトなら千里くんもダメなんじゃないです?」
どうやら零くんは千里も巻き添えにするらしい。
そして、それは俺も気になった。
髪型や髪質は違うけれど、千里の髪の色は俺と全く同じの煉瓦色だから十分風紀点検でアウトになるはずだ。
まさかあいつだけ点検免除とか無いだろうな。
いくら教師に好かれてるからと言って流石にそこまで贔屓はされてないか。
「 桜木の弟は既に届けは提出済み。始業式の次の日にね。行動が早くて助かるよ、ほんとあいつは優秀」
先生が腕組みしてうんうんと頷きながらそう言った。
「 ……あぁ、そっか。先生って生活指導の担当でしたっけ」
俺の担任でもあるこの本城先生は、生活指導の先生でもあるのだ。風紀点検の時に最終的な判断でチェックするのもこの人だし、生活指導に関する報告は全部この人のところへ行く。
顔も良くて背が高くて、さらに仕事ができる人だからモテるのだろうけど、常に女子生徒のスカートの長さを注意している所為か、一部の女子には嫌われてるみたいだ。
「 そ、だから見た目が目立つ生徒は既に全員把握済み。女子も男子も」
「 零くんも目立ちますもんね…目立つっていうか、目を惹くっていうか……」
チラリと零くんの方を見る。
色白で華奢な肩。
女の子みたいに大きな目と薄い唇で、抜群に顔が良い。そして色素の薄い淡いグレーの髪の毛は左右で長さが違う、アシンメトリーってやつ。触りたくなるくらいサラサラで、猫みたいに毛が細くて柔らかそう。
そして大きめのカーディガンを着ているもんだから片方の肩からずり落ちて酷く着崩しているように見える。
……これは目立つよなぁ。
良い意味でも悪い意味でも。
「 んー、褒め言葉として受け取っておきますね」
零くんがへらりと笑って抑揚のない声色でそう言った。
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