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ありえない話をしよう【BF】
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「ねぇ、センパイ・・・」
「あ?」
「・・・もしも、」
―――
―未来は変わる―
確かに、アルコバレーノの赤ん坊たちはそう言った。
白蘭の起こしたこと全てが無になり、あらゆる過去へ遡って、死んだ人間すら死んだこと自体がなかったことになる、と。
いいことなんだ。
それはとてもいいことなんだ。
・・・だけど、“未来が変わる”ことで、失うものも・・・・ある。
「・・・ミーとセンパイは、この未来だから出会えた」
未来が変わるということは、マーモンさんが死んでいない未来になるということ。
マーモンさんが死んでいないのなら、もちろん“後任”なんて・・・いない。
ミーは、ヴァリアーには入らない未来。
それは、つまり、
「ミーとセンパイは出会わない」
ヴァリアーのアジトの会議室。
夕日の差し込むその部屋には、ベルとフランの二人きり。
窓際で窓の外を見つめながら話すフランと、それをソファに座って黙って聞くベル。
「過去に遡って未来が変わるから、この時代で起こった全て事がなかったことになって・・・この時代で出会った全ての人の記憶も・・・なくなる。
・・・センパイは、ミーのこと忘れちゃうんですよー・・・」
フランがそこまで言ったとき、ずっと座っていたベルが立ち上がった。
「・・・忘れねーよ」
「無理ですよー。記憶がなくなっちゃうんですからー」
ベルはフランの即答に言葉を詰まらせる。
「きっとミーはベルセンパイみたいに自分からヴァリアーに入ったりしないでしょうしー・・・」
しばらくの沈黙が流れる。
その言葉の続きは、
―言いたくなくて、
―聞きたくなくて、
・・・だけど、フランが口を開いた。
「・・・もう、二度と・・・会えな・・・」
最後の言葉を発する前に、フランの瞳から涙が一滴、零れた。
その瞬間、何かがぷつりと切れて。
「・・・離れたく、ない・・・」
「・・・フラン」
「一緒にいたい・・・ベルセンパイと・・・ずっと、ずっと・・・っミ、ミーは・・・消えたくないですー・・・っ!!」
未来が変われば、“ヴァリアーのフラン”という存在は―・・・消えてしまう。
「・・・っオレ、だって・・・離れたくない・・・っ!!」
…こんなに哀しい恋ならば、いっそ忘れて楽になろうか。
こんなに哀しい想いならば、愛さなければよかっただろうか。
『ねぇ、ベルセンパイ・・・』
『あ?』
『・・・もしも、』
『もしもミーがいなくなったら・・・どうしますかー?』
『・・・そんなの、ありえねーから考えたことねーよ』
『・・・ありえない?』
『だってオレら、ずっと一緒、だろ』
『!・・・はい』
いつか誓った約束は、
脆くて、儚くて。
「・・・フランが、」
ベルに抱きしめられながら泣いていたフランに、声をかけた。
「・・・フランがヴァリアーに入らない未来でも、オレがお前を見つける」
「・・・忘れちゃうんですよー・・・そんなの・・・無理・・・」
「絶対。」
ベルがそう断言すると、フランの顔が少しほころんだ。
「・・・そろそろ、時間、ですねー・・・」
ベルの腕の中で、フランが薄れていく。
「・・・フラン、最後にさせねーから、キスさせて」
「ベル・・・センパイ・・・」
フランは一瞬戸惑ったあと、すぐに首を横に振った。
「・・・センパイ、約束してください。今ここでキスしない代わりに・・・いつかまた、本当に出会えたら、ここから始めてください。・・・だから、そのときに。」
「・・・わかった」
「・・・って、これも忘れちゃうかなー」
「・・・バカガエル。王子ナメんな」
「・・・別に、ナメてませんよー・・・堕王子」
「てめー・・・」
・・・もっと、もっと、
こんな他愛のない会話をしていたいだけなのに。
消えかかっていたフランの体が、さらに薄くなっていく。
「・・・センパイ、さよならですー」
「フラ・・・ッ!!」
「・・・サヨナラ」
あっけないほど簡単に、フランは・・・消えた。
その瞬間、ずっと泣かなかったベルの頬に、涙が一筋、滴り落ちた。
―――
ベル一人しかいない会議室のドアが、ガチャという音を立てて開いた。
「ベル、こんなところで何してるのさ。ボスがお呼びだよ」
「・・・マーモン・・・」
ベルは自分の手のひらをしばらく見つめたあと、言った。
「オレ・・・ここで何してたんだっけ・・・?」
うっすらと、脳裏に映るのは、綺麗な翡翠色。
それ以上思い出せなくて、
何か、大切な何かを、失った気がした。
数週間後。
ベルはルッスーリアに頼まれ、街に買い出しに来ていた。
「クフフ…早く来ないと置いていきますよ」
前から二人組の男が歩いてくる。
一人は背が高く、後ろで一つにまとめた長髪。
帽子を目深にかぶっていて、顔と頭はわからない。
もう一人は小柄でフードをかぶっているが―…
―…あの、髪の色。
「早くしなさい…フラン」
―…フ、ラン…?
「師匠待ってくださいー」
…ああ、やっと。
見つけた。
ベルはすれ違い様に、その翡翠色の髪の少年に振り返って、言った。
「…だから、言っただろ。絶対、見つけるって」
前の男を追っていたその少年も、ベルのほうへ振り返った。
「…遅いですよー…ベルセンパイ。」
そして二人は微笑みあい、その場で唇を合わせた。
ありえないと思っていた、奇跡。
ありえない話をしよう
(さあ、またここから始めようか。)
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