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渓谷の仙人②
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パリのアパルトマンの4階
可愛らしいサーモンピンクの壁
螺旋階段を登り、402の下にあるブザーを押す
パタパタと急いで走ってくる音に、
オレの悪戯心が芽生える
「おかえり、シュン。随分
早かっ……おっと、え!ゼン!」
緩みきった頰を急に引き締め驚いた
間抜けな顔をした幼馴染に思わず笑いが溢れる
「ははは、ごめんねー、
可愛い可愛い奥さんじゃなく、って。」
「いや、大丈夫だよ。それより、入ってよ」
今日も相変わらず爽やかダナ…そう思いながら
エリックに続き、友人2人の家に足を踏み入れる
青と白が基調のマリンテイストのリビング
キッチンはいつ見ても清潔感があり綺麗だった。
奥さんの方が綺麗好きだからだろうけどネ
大きめの白枠の窓から見えるエッフェル塔は
早くも茜色に染まりつつあるパリの空に
今日も映えていた
「座ってよ。コーヒーでいい?」
「謝謝」
「こっちに帰ってくるなら連絡を
くれたらよかったのに。」
「あー、ちょっと、ネ」
そう言うとオープンキッチンの向こうで
困ったようにはにかんだエリックと目が合う
…コーヒーを作るときはキッチンに
立たせてもらえるんだネ。
「どう?アジア支社は」
「まぁまぁってところ。」
2ヶ月間、アジア支社に出張に行っていた
実は、帰ってきたのは昨日
すぐ…ここにきたのにもちょっとした訳がある
「それは、よかったのかな?」
マグカップを俺に手渡しながら
ソファの隣に座ったエリック
マグカップからはコーヒーの良い香りが漂っていた
「今日は、店の方はないのー?」
「うん、今日は夕方にはお終いだから、
シュンが先に上がれ、って」
2人のパティスリー、シエル・エトワール
今製菓業界では急成長しているにも関わらず、
海外輸出はしない、他店に委託もしない、
購入するにはパリの5番街にある可愛い
お店に並ばなきゃいけない。
たまたまSNSで広がり、今や世界中が
注目しているパティスリーだ
「ルイは、どう?」
「え?あぁ、相変わらずやってるよ。ホント、」
坊ちゃんは腹の底に眠ってたらしい
商い魂を引っ張り出して今や世界を
股にかける貿易会社・エティエンヌの若社長。
ルイのお母さん…奥様譲りの商いに対する
気の強さで仕事の時はいつもの
のんびりタンポポ畑のマシュマロくんは
どこにいったのやらキビキビ動いちゃってるよ。
怖いからね?本当に。
「そっか…まぁ、2人が何も変わらず
元気にやってるなら、安心だよ。」
ニコリと優しそうに微笑む幼馴染に、
実家に帰ってきたような安心感が体中を駆け巡る
「…あのさ、エリック」
「ん?」
ガチャン…バタ、バタン
言いかけていた言葉を遮るように
ドアが開き、閉まる音と共に、誰かが
入っくる足音と紙袋の擦れる音がした
「おい、お前メール見たか?炊飯器に米が
入ってるから赤いボタン押しておけって言っただろ」
その人物は俺に気づかず、キッチンに入り
バタバタと何かを置く炊飯器の蓋を開け、
舌打ちをした
「今日和食が良いって言ったのは
お前なのに米がなかったら意味ないだろ!バ…カ、」
そこで初めて
振り返ったお姫様と目が合う
「ニーハオ、お姫様。相変わらず綺麗ダネ」
「えっ…!?おま、!いつから!?」
似たような反応をする夫婦に思わず笑みが零れる
隣でクスクスと笑うエリックを小さく
睨みつけるお姫様…シュンちゃん
「…ていうか…久しぶりだなゼン。
構えなくて悪かった。ゆっくりしてけよ」
そう言いながら袋から食材を取り出し、
仕舞い始めるシュンちゃん
すっかり主夫業が身に付いて似合っちゃってるヨネ
「ごめんネ、突然お邪魔しちゃって。
もう帰るからさ」
「え?もう帰るの?」
「んだよ…飯くらい食べてけば?」
「今日はシュンがニクジャギ?
作ってくれるんだよ。」
「肉じゃが。な、」
エプロンをしながら冷蔵庫を開け、
鍋に水を張り始めたシュンちゃん
当たり前で当たり前じゃなかった2人の
やり取りを見ながら、心のどこかでホッとする
「どうせ、そこらのバーで済ませるなら
栄養あるご飯食べてゆっくり休んでいけよ」
心配するようにオレを見るシュンちゃん
相変わらず…優しいヨネ
あぁ、良かった
オレの大切なものは変わってないナ
「……じゃあお言葉に甘えちゃおうカナ?」
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