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極道
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あぁ、やばい。
これは死ぬ・・・。
少し脱げた服の間から、それは見えた。
鮮やかな、刺青が。
・・・極道。
それは裏社会の番人。
俺のような、頭の中お花畑の馬鹿なヤツと、こんな裏社会を牛耳ってる怖い人とか、結びつき様がないと思ってた。
しかし、その考えも終止符を打った。
・・・30分前に。
〜数時間前
「お〜い、西園寺!
西園寺っ!」
「ん、何だよ?」
高校2年の最後の一学期。
終業式を終え、帰ろうとした時、友達に呼び止められた。
「西園寺!
早く終わったからさ、カラオケ行かね?
他の奴らも来るけど暇なら来いよ!」
「んだよ、俺、今帰ろうとしてたのに。」
「まぁそう言うなよ!
ほぉら、行こうぜ!」
そう言いながら、親友とも言えるそいつは俺の肩に腕をかけた。
早く帰りたかったのに。
「・・・しょうがねぇなぁ。」
「っしゃあ!」
そして俺はこの日、カラオケに行った。
学校帰り、友達とこうして遊んで、それはこれからも続くと思っていた。
が、家に帰ればそれは違うと否定された。
俺の日常は、俺の家族は、壊されていた。
「・・・?
なんだ、この車・・・。」
カラオケの帰り、家に帰ると、家の前には黒い車が数台止まっていた。
見たこともない高級車。
そして、自分の家の不自然さを感じた。
いつもなら、この時間は母さんが電気をつけて、夕飯の準備をしているはずだ。
それなのに、家の窓から明かりひとつ感じられない。
どこか、外食にでも言ったのだろうか。
でもそれなら、既に連絡は入っているはずだった。
っていうか、この車はまじでなんなんだ?
恐る恐る自分の家のドアの前まで行き、ゆっくりとドアを開ける。
最初は暗さで見えなかったが、だんだんと分かった。
そこには俺の家族ではない黒いスーツを着た男達がいた。
初めて見るその異様な光景に、違和感しか感じられず体は硬直し、冷や汗が吹き出る。
やがて、一人の男がこちらに気づいた。
「おいお前、西園寺 要(かなめ)だな?」
ドスの効いたその声は、妙に恐ろしく感じられた。
足がすくみ、逃げるということすら忘れていた。
「・・・っ、要、逃げろ!」
ふいに、家の中から父親の声が聞こえた。
そしてそれがスイッチのように、俺の体は気づけば走り出していた。
行く宛もなく、ただただ逃げなくては行けない、そう本能が叫んでいた。
「っ、なんだよあれっ!」
走りながら後ろを振り返る。
男達は俺のことを捕まえようと、車に乗りこんでいた。
やばい、このままじゃマジで捕まる。
どう考えたって車と人間の足じゃ適うはず無かった。
後ろから黒い車が俺のことを追い抜き、俺は囲まれていた。
やばい、殺されるのかな。
最後に食ったのがカラオケの唐揚げなんて・・・俺の人生お粗末さまでした・・・。
馬鹿なことをもんもんと考え、涙を浮かべながら車から降りる男をただ淡々と見ていた。
「おい、逃げんなよ。
命が惜しけりゃ大人しくこっち来い。」
そして俺は簡単に捕まって、自分の家へと後戻りさせられた。
手には手錠。
こんなの、どこから持ってくるんだよ。
ほんの数メートル、その距離を車で移動し、乱暴に車から下ろされ、気づけば自分の家のリビングに連れてこられていた。
そこには父と母もいた。
「くそが、手間かけさせやがって・・・。
ちっ、もう一度聞くぞ。
てめぇは西園寺 要だな?」
もはや自分におけるこの状況を把握できずにいた。
僕のこの弱い頭は、考えることを停止していた。
「おい、ガキ!
答えろっ!
・・・わし怒らせたらどうなるか分かってんか?」
額にぴたっと冷たい金属をつけられる。
黒く光るそれは銃口。
こんなもの一つに、俺の命が左右されているのか。
「要、答えて・・・。」
母さんのか細い声が聞こえる。
目の前の男も、指に力を込め始めた。
「要っ!!」
「っるせぇ、ババァ!」
2人の声に体はビクついた。
「こいつら2人、押入れにでも閉じ込めとけ。
ったくやかましくてかなわん。」
男の声に他の男が反応し、俺の両親はどこかへ連れていかれた。
そしてやっと自分のおける状況が理解出来た気がした。
「・・・、そ、そうです。」
静かに自分の名前だと首を振る。
目の前の男は「そうかお前か」と静かに僕の顔を見た。
「ん〜まぁ、・・・そうだな、うん。
似てるっちゃ似てるかもしれねぇ・・・。
なぁ、要ちゃんよ。
おめぇ自分の親父が何者か知ってっか?」
思ってもいない疑問を投げかけられ、また思考は停止した。
親父が何者?
いやいや、そんなの普通のサラリーマン・・・。
母さんも普通の主婦だし・・・。
え?
何?
この人たちの目は節穴なの?
「え・・・。
サ、サラリーマン?」
「・・・知らねぇのか。
お前、さっきん奴らはな、育ての親ってだけで血は繋がってねぇんだぞ。」
「・・・えぇ?」
間抜けな声が口から出た。
・・・はい?
俺が親だと思ってたこの人たちは俺の本当の家族じゃないと?
いやいやそれは冗談でも言っちゃダメでしょ。
「あ、あの何かの間違いじゃないですかね・・・?」
男の癪に触らないように、そっと疑問を問いかける。
苦笑いはそれはそれは見苦しいものだったに違いない。
しかし、そんな僕に無の表情を見せつけ、男は淡々と話し始めた。
「お前はなぁ、お前の本名はなぁ、「東三条 要(ひがしさんじょう かなめ)」っつー名前なんだよ。
東三条つーのはな、いわばわしら小宮山(こみやま)組の敵だ。
東三条はお前を隠し玉としてこんなところに匿っていたのさ。
時が来たら真実を知らせようとな。」
あー待って、何?
「組」?
ってことはこの人達、ヤクザってこと?
で、俺は、この人達の敵組の子供?
「・・・いや待ってください。
それ、何かの間違いじゃ・・・?」
「間違いなわけねぇだろ。
お前は正真正銘、極道の血が流れてんだよ。」
・・・夢だ。
これはきっと悪い夢に違いない・・・。
寝ている僕に誰かがヤクザ系のなにか音源か何かを流しているんだ。
目を閉じて開ければほら・・・。
「・・・何見とんじゃ。」
「あれ、夢じゃない・・・。」
もう何が何だか本当にわからなかった。
すごい難しい英語の文をやっているような、数学の大っ嫌いな二次関数をやっているとか、そんな感覚。
もっとこう、幼稚園児に説明してもらうようにしてもらわないとこんな難しい内容簡単には分かりません・・・。
「おい要ちゃんよ、ちと極道なめてんじゃねぇか?」
「え、?」
あ、やばいな俺。
ヤクザさんすっごい怒ってる気がする。
・・・いやでも馬鹿にはしてないです。
追いつかない頭をフル回転させながら、どうにか許してもらおうと頭の中で考えたが、答えは見つからない。
男は暗闇の中静かに火をつけた。
苦いような匂いが部屋に充満する。
「ちったぁ痛い思いしてもらおうかね。」
気づいた時には遅かった。
男は俺の手錠を外し、他の男に俺を抑えるように命令すると、シャツの袖をまくった。
「おめぇみたいなんでも、極道にどれくらい口答えできるか根性見てやろうじゃねえか。」
男は咥えている煙草を、静かに俺の腕へと押し当てた。
もちろん、火は消えていない。
「うわぁぁぁあああっ!!!!
いっ、痛い!
やだ、やめっ!」
「ほら、もう一回。」
「やだ、やだやめっ、や、あああぁぁっ!」
2回ほど腕に熱すぎる感覚が走り、同時に激痛も走る。
自分の皮膚が焼け、煙草の臭いと混じった。
感じたこともない痛みすぎて、視界が滲む。
離せ、と声を上げようとした瞬間、目の前で男が倒れた。
男の顔はぐにゃりと変形している。
「おい要!
逃げろ!」
その声は紛れもなく、親父だった。
・・・いや、今までの話を聞けば〝育ての〟父。
親父は何人もの男を蹴り倒していた。
親父に蹴られ、倒れていく男達。
なぜそうなったかは知らないが、親父の着ている服の、いつの間にか破けている間から、鮮やかな刺青が見えた。
あぁ、やばい。
これはやばい。
呆然とそれらを眺めていると、親父は声を張り上げた。
「お前は・・・、お前は俺の息子だ!
血が繋がっていなくてもな!
・・・逃げろ!
東三条は、・・・兄貴はお前を待ってる!」
そして、その後方では母さんが親父と同じように暴力にまみれていた。
しかし、母さんの目は確実にこちらを捉え、睨むようにしてこちらを見ながらも、口元だけは微笑んで、何かを訴えていた。
「・・・ごめんっ!」
滲む視界にピントを合わせ、自分の家から飛び出た。
裸足でもそんなもの気にせず、遠くまで走った。
母さんと親父が止めていてくれているのだろうか。
車に乗り込む人影は見えなかった。
でも「東三条」の組って何処にあるの?
逃げろと言われても、場所がわからなければ行くすべもなかった。
とりあえず、あのヤクザ達に見つからないように、高校に逃げ込む。
長い距離を歩くうちに、あたりはすっかり暗くなった。
真っ暗な中、職員室の部屋だけ明るく照らされ、少し安心した。
が、後方からなにか不自然な車が近づいてきたことは間違いなかった。
・・・さっきのヤクザだろうか・・・?
度胸も肝も据わってない俺の足は、ガクガクと小刻みに震えだした。
待て待て、こんなところでこんな小鹿みたいに足を震わせていたって、あの車がさっきのヤクザなら、親父と母さんの行為が無駄になるじゃないか。
そう思っても体はゆうことを聞かなかった。
そればかりか、脚の震えはいっそう増すばかり。
気づけばその車に追いつかれていた。
冷や汗が背筋を伝う。
「あっ、・・・やばっ・・・。
にげ、なきゃ・・・なのに!」
もはや体は動かなかった。
静かに車から人が降りる音が聞こえる。
やばい、親父、母さん、のろまな俺を許してください・・・。
心の中で懺悔していると、降りてきた人は俺の肩をそっと掴んだ。
「要さん・・・ですか?」
聞こえてきたその声は、嫌に優しくて。
その優しさが逆に怖く感じて、言葉も出なかった。
出来る限りの事と言えば、首を振るくらい。
「あぁ、要さんですね・・・。
安心してください。
敵はある程度片付けました。
・・・遅くなって申し訳ありません。
怖い思いをさせてしまいましたね・・・。」
片付けた、ということはあの二人は無事なのだろうか。
「あ、あの!
親父と母さんは?!」
「大丈夫です。
あの夫婦に限ってヘマはあり得ません。
何しろ、若頭の弟夫婦ですから。」
あ、そうなんだ。
俺の親だと思ってた人・・・いや、一応血は繋がってるじゃん・・・。
あのおっさん、いい加減なこと言いやがって。
「さぁ、大丈夫ですか?
一旦本家に帰りましょう。
若頭があなたを待っています。」
そう言いながら、降りてきた男は俺のことを車へと誘導した。
車のドアを開け、「どうぞ」と声かける。
今気づいたが車はリムジンで、扉の奥は見えなかった。
俺は、男の人に開けられた車に乗り込む。
「閉めますよ。」
男は車の扉を静かに閉め、ドアをロックした。
しかし、想像外な事が起きた。
何でいるんだよ。
「やぁ、要ちゃん。
根性焼きの具合はどうだい?」
車の奥で笑っていたのは、あの男だった。
・・・頭から血を流して、辛そうだが。
「ちっ、たくよぉ、てめぇんところの弟夫婦は察知がいいんだな?
あとすこしってところで舎弟共が来るとはな。
オマケに、若衆まで出るに出揃って・・・。
お陰で殺し損ねちまった。」
男は頭に手を乗せ、血のついた自分の手を見た。
傷口は深いのだろうか。
男の手には大量の血が流れ出ていた。
「・・・っ、」
「だから言っただろ。
極道なめんなって。
それに、さっきお前が話してた来栖(くるす)ちゃんは言葉巧みだからよ〜く聞いてねぇと簡単に騙されんぞ。
どこの組か言わねぇ時点でちったぁわかれよ。」
「お褒めの言葉ありがとうございます。
でも、東吾(とうご)がちゃんとあの二人を見張らないからこうなるんです。
まぁ、要さんが騙されやすくて事が楽には進みましたが。」
静かに運転席に乗りながら、来栖という名の男はこちらを見てニッコリと不吉な笑みを浮かべた。
うぜぇ。
ただでさえ頭悪いのに、そんな言われ方したら味方としか思えないじゃないか。
あまりのイラついたので、少し睨んでみる。
「・・・そんなに睨まないでください?
俺もソレ・・・やりたくなっちゃいますよ?」
そう言いながら、来栖は俺の腕の焼け跡を見た。
灰混じりで、ジクジクとしている。
・・・これだけはもう勘弁してください。
「す、すんません・・・。」
「いえいえ。」
そして来栖はこちらを見てまたニッコリと笑った。
あぁ、この人のこの笑顔は嫌いだ。
一方、東吾という男はそれに対して「来栖ちゃん怖。」と一言だけ呟き、俺のすぐ横に座り直した。
「なぁ、要ちゃん。
囚われのお姫様になった気分はどうだ?」
挑発的な言葉を投げかけながら、手には洋酒を握っている。
「・・・。」
もう、正直この人と話したら調子乗ってるだの、理由をつけてまた根性焼きでもされたら・・・。
そう思うともはや言葉も出なかった。
「・・・だぁんまりか。」
「東吾が悪いんだろ?
根性焼き作ったからじゃないのか?」
また来栖の声が車内に響く。
あぁ、その通りです。
・・・今は来栖さんに1票・・・。
「何だよ、いいじゃねぇか別に。
若頭に殺す以外で好きにしていいって言われたんだからよぉ。」
あぁもうなんだよ、若頭さんとやら、勘弁してくれ。
根性焼きはダメだろ。
めっちゃ痛いんだぞこれ。
高校二年生も涙が出るレベルだぞ。
心の中でツッコミを入れていると、東吾は俺のことを押し倒してきた。
「えっ?!
な、何ですか!
ごめんなさいっ!!」
「いや別にまだ何もしてねぇだろ・・・。
お前がな、本家についた時に逃げたら困るからな。」
そういって東吾は1口、手に持った洋酒を口に含むと、そのまま口渡しで酒を飲ませてきた。
あぁ、初キスは・・・女の子がよかった・・・。
「っんん、っ!!!」
苦いような、なんとも言えない味が口に広がる。
1口飲んだだけで俺の体はポーっとした。
体が火照る感覚がある。
「なんだお前、意外と弱いのな。
40℃で駄目なのか。
・・・こりゃ早そうだな。」
そして何度も何度も口移しに酒を飲まされ、視界はぼやけ始めた。
来栖がなんかいってる気がするけど、それすら鼓動の音で聞づらい。
「・・・・・・せ、・・・るなよ。」
あぁ、もうだめだ、ドクンドクンと心臓が高く脈打つ。
目の前の東吾は微かに笑ってる気がしたけど、それすら分からなかった。
「も、やめ・・・、許して・・・。」
体の奥から精一杯力を振り絞って言葉を吐く。
しかし、もう俺の意識は遠のき始めていた。
「・・・・・・もう・・・・・・・・・・・・いな。」
え?なんて言ってるんですか?
意識をつなごうと、聞こうとした時には、もう俺は夢の中に落ちていた。
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