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一転
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堪えきれないのは、
涙と共に気付いた気持ち。
・・・・見たくなかった、一番の光景だった。
ベルセンパイと任務。
わりと簡単そうな任務だった。
ターゲットは城へ追い込んで、周りの雑魚はみんな片付けた。
・・・だけど、そのターゲットを追い詰めたところで―・・・逆転されることになる。
「―・・・っ」
息を、呑んだ。
「・・・久しぶりだね・・・ベル」
「・・・マー・・・モン・・・」
目の前には、追い詰めたはずのターゲットではなく―・・・ミーの前任であるマーモンさんがいる。
「・・・センパーイ、騙されないでくださいよー。コレ幻覚ですからー」
「・・・わかってる、よ」
全然わかってるように見えませんよー・・・。
そう、これは幻覚だ。
今回のターゲットは術士だ。
コレくらいの芸当は優にできるだろう。
だけど、ベルセンパイには明らかに動揺が見て取れる。
・・・センパイは、マーモンさんと仲が良かったから・・・?
・・・それとも、やっぱり2人は・・・。
チッ、と舌打ちすると、いつもならナイフを投げてくるのに、今は聞こえてすらいないのか、全くの無反応。
目の前のマーモンさん(のフリをしたターゲット)がニヤリ、と不気味な笑みを浮かべると、術士とは思えない師匠並の体術を使ってきた。
「くっ・・・!」
どうやら呆然として固まっているベルセンパイは放っておいても大丈夫だと踏んでいるらしい。
術士のミーは相手に隙がなければ幻覚を使えない。
普通の人間ならまだしも、相手も術士。
精神はかなり強いはずだ。
動き回りながら隙もなく相手を幻覚にハメるのは簡単ではない。
相手もそれをわかっているのだろう。
ミーに集中攻撃をしてくる。
「・・・ベル・・・センパイ・・・っ」
敵の攻撃を避けながら、ベルセンパイの名前を呼ぶ。
マーモンさんの姿のままでは、体術はさすがに無理。
ミーには普通のターゲットに見えるのに、センパイにはまだマーモンさんに見えているらしい。
あんな簡単にセンパイが幻覚にハマるなんて・・・。
やっぱり、マーモンさんは・・・センパイにとってそれほど・・・。
思わず視線を落とす。
その瞬間。
―ビュッ!!
ミーの頬を、敵の刃物がかする。
ミーの頬はスパッと切れて、赤い鮮血が傷口から流れる。
・・・しまった・・・油断・・・・
そう思う暇もなく、すぐに切り替えしが来てミーは思いっきり腹に拳を食らう。
「うっ・・・」
腹を押さえてその場にうずくまり吐血する。
・・・・このターゲット・・・案外強いですねー・・・。
この任務、Sランクじゃないはずなんですけどー・・・。
それにターゲットが体術も使うなんて聞いてませんよー・・・アホのロン毛隊長め。
なんて考えていると、相手は全く攻撃の手を休めず、その鋭利な刃物がミーを襲う。
二度の攻撃を食らっているミーの回避率は格段に落ち、さっきからかなりの攻撃を食らっている。
刃物で隊服は切れ、肌からは血が流れる。
こんなんじゃカエルがなくても匣を開匣できない。
幻覚の使えないミーは圧倒的に不利だった。
「・・・センパイ・・・っ!!目ぇ醒ませ堕王子ーっ!!」
攻撃をくらいつつも必死にベルセンパイに呼びかけるが、ベルセンパイは動けないままだ。
きっとセンパイにはマーモンさんがミーを襲っているように見えてるからでしょうねー・・・。
「・・・ぐぁっ・・・!!」
ミーの体にバキッという音を立てて強烈な蹴りが入る。
視界がかすむ。
・・・もう、だめですかねー・・・。
そう諦めたその時だった。
「・・・フラン、下がってろ」
ずっと動けなかったベルセンパイが、ミーの前に立ってターゲットと応戦した。
我に返ったセンパイの攻撃で、ターゲットは簡単に殺れた。
「・・・ッ!」
・・・だけど、ミーが受けた傷はわりと深手で、体に激痛が走る。
「・・・フラン、悪ぃ。大丈夫か?」
痛みで顔をしかめているミーに、センパイが心配そうに駆け寄ってくる。
「・・・そんなこと言うくらいならもっと早くやってくださいよー・・・」
ミーの常備している携帯用の救急箱をポケットから取り出して、応急手当を始めるセンパイ。
「・・・悪ぃ。幻覚解くのに手間取っちまって」
今回は本当に申し訳なさそうに謝ってくるセンパイ。
センパイが謝ってくること自体が珍しいのに、こんな風に心からすまなかったと思っている姿をみるなんて初めてかもしれない。
・・・ミーの格好、そんなにスプラッタですかねー・・・。
体中の切り傷から流れる血に、打撲などの傷跡。
たしかにボロボロって感じですけどー。
自分で自分に苦笑する。
・・・だけど、ミーだけじゃ、なくて。
・・・ベルセンパイ。
情けないですよー・・・センパイ。
死んだ同僚(恋人だったのかもしれませんけどー)の幻覚見せられたくらいで動けなくなるなんて。
これならミーのほうが強いし、凄いですよー・・・。
・・・なのに、センパイの方がミーより情けなかったはずなのに、
なんで、なんでこんなに哀しい気持ちになるんですかー・・・。
思わず、ベルセンパイの前で涙をこぼす。
「・・・フラ、」
「痛いだけ・・・ですーっ・・・」
傷だけじゃ、なくて。
胸が、痛い。
まるで、センパイはまだ前任が好きなんだって、思い知らされたようだった。
ミーの入る隙間なんてないような気がして・・・怖くなった。
・・・バカ。
あの悪趣味なターゲット・・・。
だから、認めたくなかった。
「・・・フラン」
「!」
センパイがミーに顔を近づける。
飴はない、のに。
「ゃ、だ・・・っ!!」
どんっ!!と音を立ててミーはセンパイを突き飛ばした。
「・・・てぇ・・・ってめーフラ・・・ッ」
ミーの瞳からは涙がぼろぼろと零れ落ちる。
「・・・っミーを・・・ミーをマーモンさんの代わりにしないでくださいー・・・っ!!」
ミーはそう言って闇の中を駆け出した。
だから、認めたくなかった。
気付きたくなかった。
好き。
好きです、ベルセンパイ。
好きすぎて、おかしくなりそうなんです。
代わりになんてなりたくない。
好きだから・・・ミーを見てほしい。
ミーだけを・・・見てください。
一転
(もう、抑えられない)
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