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俺はただ生きていた
理由はない
死ぬ事さえ面倒臭いと思いながら呼吸だけしていた
「ゴミを捨てて来な!」
「うん」
だらしのない母親が布団の中から叫んでいた
俺は散らかった酒瓶を集め、アパートを出た
ゴミを捨て、ふと隣のゴミを見つめるとギターが捨ててあった
「ギター」
壊れてはいないみたい
ギターなんて弾けないのに何故か拾ってしまった
「馬鹿かい!ゴミを拾って来るんじゃないよ!!」
「・・・・・・・・」
俺はギターを持ったまま、公園に向かいベンチに腰掛けた
「君、もしかしてギターを弾くの?」
「弾けない」
「まじで?実は俺もベース買ったけど全く弾けない」
「誰?」
「俺は葵、中央高校2年」
「・・・・・・・・」
「お前は?」
「楓」
「高校は?」
「行ってない」
「そっか、俺もほとんど行ってないけど」
おかしな奴だと思った
でも、人懐こい笑顔
「じゃ、一緒に練習しない?」
「ここで?」
「俺の家」
「・・・・・・・・・・」
「俺一人だからさ」
葵は一人暮らしだった
両親は海外で生活していると言っていた
その後、葵は両親の話を笑いながら話してくれた
母親が再婚して海外に行ったと言っていた
ようするに俺が邪魔なんだよなって笑いながら
俺達は心の寂しさを埋めるようにひたすら練習した
ギターを弾いている時だけは全てを忘れられた
「楓は天才かっ!」
「何?」
「いやいや、まじで」
「葵だって弾けるようになったじゃない」
「俺とお前は違うんだよ、お前のギターは最高だ」
「・・・・・・・・」
「いつかバンドを組もうぜ!」
「バンド?」
「勿体ないだろ!お前はバンドを組んでギターを弾くべきだ」
「簡単に言うんだね」
「夢は必要だろ?」
「夢」
俺にも夢が出来た
たった一日だけの夢
「じゃ、バンドメンバーを捜しておくから」
「うん」
俺は幸せだった
暗闇から一筋の光が見えたから
ギターを葵の家に預けて豚小屋のようなアパートに帰った
「ただいま」
「楓、待ってたよ」
この顔は・・・
嫌な予感がした
「この人がね、楓としたいって言うから」
「馬鹿なの?」
「いいだろ?そうしないと出て行くって言われて」
「出て行けばいい」
「黙れ!」
母親だったはずの女は俺を思い切り殴りつけた
抱きしめるのではなく殴った
こんな男の為にまた俺を売ろうとしていた
「あんた、やっちゃいなよ!」
「だな」
「ふざけるな!」
二人がかりで俺を押さえつけ何度も殴られた
これは何の儀式?
大人しくしていれば終わるの?
でも俺には夢が出来た
だからもう大人しくされるがままにはならない
「何だこのガキ!」
「楓、大人しくしな!」
「嫌だ、離せ!」
俺は初めて人を殴った
殴る方も痛いと知った
「こいつ・・・殺してやる!!」
殴られた男はビール瓶を拾い上げ、テーブルで叩き割った
最後の願いはね
母親が止めてくれる事だった
だけど
「殺したら出来ないよ、だから腕を」
「押さえてろ」
「ああ」
さすがに母親は殴れない
それが子供だから
俺は母親に腕を掴まれたまま最後の最後まで願い続けた
「くっ・・・」
「これで大人しくなったな、脱がせろ」
「ああ」
腕から流れ落ちる赤い涙は俺の壊された心の涙
そして俺の心は完全に壊れてしまった
突き刺さったビール瓶を掴み、目の前で笑っている男の首に突き刺した
「きゃーー!あんた!あんたっ!!」
心配するのは俺ではなく俺を傷付けた男だったとはね
だからもういらない
こんな悪魔はいらない
俺は喚きたてる母親に血が滴り落ちるビール瓶を突き刺した
薄れゆく意識の中、視界に入ったのはキラキラ光るガラス玉だった
絶対行けない夢の国
夢でしかない雪の国
もう疲れた
生きている意味を誰か教えて欲しいんだ
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