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ー彌生ー
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翔と暮らし始めて一か月
翔の願いは決まらないまま三月を迎えた
「楓、いい天気だよ」
「眩しい」
光の中にいる翔が笑っていた
本当に病気なのかと思えるような笑顔だった
「楓、あのね」
「今日はドライブでもしようか」
「いいけど」
「じゃ、決まりね」
俺は翔の話を遮った
お願いなんか聞きたくはない
聞いたらこの手で殺さなければいけないのだから
俺は何をしているんだろう
生きているのが苦痛かも知れない翔を連れまわそうとしているなんてね
「どこへ行くの?」
「海」
「楽しみ」
「体調は?」
「大丈夫」
「そう」
久しぶりの海は綺麗だった
都会で見る海とは違っていたしね
「綺麗」
「少し歩く?」
「うん」
二人で砂浜を歩き、貝殻を探した
「桜貝」
「可愛いね」
「うん、あそこにも」
「危ないよ」
躓きそうになった翔の腕を掴んだ拍子に俺まで転んでしまった
「砂だらけだね」
「髪の中も砂が」
「あははっ、ちゃんと支えてよね」
そう言って笑う翔を抱きしめて耳元で囁いた
「支えたら逃げないの?」
「楓」
「しっかり抱きしめたら腕の中にいてくれるの?」
「困らせないで」
「答えて」
「だからっ」
「翔の気持ちだけ答えて」
「困らせないでと言う意味がわからないの?お願い、わかってよ」
「それが答え?」
「・・・・・・・・・・」
「翔が悲しむのならこれ以上何もしない、それでいいんだね」
「俺は死ぬんだよ?好きな人を悲しませるのは嫌なんだ・・・だからっ」
「だから?」
「気持ちがぐらつくだろ?死にたくないと思ってしまうだろ?でも俺は死ぬ・・・どうしようもない事実を受け入れられなくなるだろ・・・バカ・・・楓のバカ」
「だったらその悲しみを半分分けてよ・・・どうしようもない事実だけど一人で悲しまないで」
「殺し屋だろ?」
「翔の最後の願いは聞いていないから」
「だったら今願いを言うよ、俺の願いは・・・っ」
涙を流す翔の顔を両手で包み込み、キスで言葉を遮った
「ダメ、無理に言う願いは聞き入れない」
「楓っ」
「ごめんね、悲しませるつもりは無かった」
「どうしてくれるんだよ・・・死ぬより辛い事が出来ただろ」
「俺にもわからない、だけどもっと翔を知りたいと思った」
「ホントにバカだろ?」
「そうかもね」
「殺し屋が殺す相手を好きになってどうするんだよ」
「依頼人が殺し屋を好きになってどうするの?」
「もう・・・」
この恋は報われない事ぐらいわかっている
悲しい結末が待っていても気持ちは止められない
「楓の手で必ず殺してね」
「今夜はベッドの上でね」
「いいよ・・・殺されてあげる」
「帰ろう」
「うん」
翔を抱きしめたまま車に戻り、無言で車を走らせた
言葉がなくても俺達は満たされていた
今だけを考えよう
先の事なんて明日考えればいい
今日が幸せならそれでいいと思ったんだ
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