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嫌な気分だ
自分でも理解出来ないこの気持ちは一体何だろう
「楓、それどうしたんだ?」
「葵にもらった」
「えっ?お前・・・」
「話もした」
「そうか、喜んだだろ?」
「最初は顔が引き攣ってたけどね」
「そりゃね」
並んだスノードームをぼんやり見つめ、まだ夢を持っていたころの自分を思い出していた
あの頃はこの世界に行きたいと思った
死ねば行けるのだと信じていた
でも実際は、死ぬ事も出来ないまま悪魔になった俺
もちろん、この世界には行けないまま無限の時間を過ごさなければいけなくなった
そんなにいけない事をやって来たのかな?
無限に続く罰を受ける程俺は悪党だったのかな?
別に悲しくは無いし、反省もしていないけど心が重いのは何故だろう
「手ぐらい洗え」
「うん」
「俺はお前のやる事に口出しはしないけど、真っ赤な手はさすがにびびる」
「だね」
「何かあったのか?」
「何かって?」
「何だろうな、そんな気がしただけ」
「別に何も」
「そうか」
俺は嘘をついた
隠し事ではないけれど言ったところで仕方が無いと思ったから
「出掛けて来る」
「ああ」
出掛けると言うのもおかしな話だけど、黙って消えると心配するしね
俺は意味も無く自分のお墓の前にやって来た
幻蝶が俺の為に立派なお墓を立ててくれていた
ここには確かに俺の遺骨が納められている
だけど実感がない
悪魔だからと言って幽霊が見えるわけでもない
見えたら怖いけどね
俺はその場に座り込み、ここから見える景色を見つめていた
小高い丘にあるお墓は遠くに海が見える場所
とても綺麗な景色だけど、俺には綺麗だと言う感情が無い
都会の人混みも、穏やかな海も同じに見える
生きていた頃は綺麗だと感じていたはずなのにね
「何なの?あいつ公園から離れてるし・・・」
ふとこちらに近付く影を見つけた
雰囲気ですぐにわかった
鈴のような羽の音
空気が変わるのがわかる
その場から離れ、様子を伺う事にした
どうせ暇だしね
「楓、ここなら怒らないよね?」
そう言って花束をそっと置いた
「好きだったでしょ?ダリアの花・・・楓はダリアみたいにいつも輝いていたね」
何となく思い出した
確かに俺はその花が好きだった
「俺はどうしたらいいんだろうね・・・許してもらおうなんて思わないけど、他人のような楓を見るのがすごく辛いんだ」
他人だし・・・
「俺ね、楓に抱きしめられるのが好きだった・・・すごくドキドキした顔を見られないようにするのが大変だったんだ」
「きっと楓より俺の方が好きだったんだと思う」
「楓と過ごす毎日はとても楽しくて、このまま時間が止まればいいといつも思っていた」
よく言うね
嘘くさい
「楓・・・もう一度抱きしめてよ、俺を見つめてよ、優しい声で愛してると囁いてよ」
何言ってるのかな?
自己中すぎだね
「ごめんね、俺の我儘だよね・・・だけどもう一度話がしたいんだ」
「どうしたらその願いが叶うんだろうね」
本当にイライラする
その透明な心が鬱陶しくて堪らない
「お前を消すにはどうしたらいいんだろうね」
「・・・・・・・・楓、今の話を」
「くだらない話の事かな」
「ごめん、だけどっ」
「いい加減にして欲しいな」
「お願い、話を」
「お前を許すとかどうでもいいんだけど」
「楓」
「天使なら天国で仕事でもしたらどう?」
「・・・・・・・・・・・」
「それとも俺が送ってあげようか?」
「楓、俺の話を」
「だから何度も言ったよね?お前の事は知らないからそんな顔で謝られても鬱陶しいだけなんだよ」
「だったら・・・」
「・・・・・・・・・・」
「だったらこれから俺の事を知って欲しい」
「馬鹿なの?」
「馬鹿でもいい、楓が悪魔でもいい」
「話が通じないらしい」
「楓っ!」
咄嗟に掴まれた手首を見つめ、微笑んだ
「天使って飢えてるの?お望みならその体を壊してもいいけど」
「違う!そうじゃない」
「その綺麗な体にはどんな色の血が流れているんだろうね」
手首を掴み、長い爪を首筋に突き立てた
「痛みを感じるのかな?それとも血は流れていないのかな?」
そのまま爪で体を切り裂くと、赤い血が流れ落ちた
「普通の血なんだ」
「楓の気が済むのなら好きにすればいい」
「そう言うのがムカつくんだよ」
「っ!」
今度は胸元まで切り裂きながら微笑んだ
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「・・・・・・・・・・・・・」
流れ落ちる赤い血は不思議な色の赤だった
「楓」
「翔・・・」
「えっ?」
「思い出したよ、翔」
「楓っ・・・本当に俺の事が?」
「何を謝っているの?翔は悪くない」
「楓・・・」
「涙も綺麗なんだね・・・俺の為に泣かなくてもいい」
「どうしよう、すごく嬉しい・・・楓」
「また会えて嬉しいよ、翔」
「楓」
そっと抱き寄せて唇を近付けた
「クスッ」
「えっ?」
「馬鹿みたい」
「楓?」
「もしかして信じたの?冗談でしょ、ホントに笑える」
「嘘だったの?」
「目を閉じて何を期待したのかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
「もしかしてキスして欲しかったの?悪魔の俺に」
「酷いよ・・・どうしてそんなウソを」
「酷いってお前が言うの?」
「・・・・・・・・・・」
「天使が悪魔に何を求めるの?正反対の悪魔に」
「それは」
「でも、なかなか面白かったよ・・・だけどもう姿を見せないでね、今度は体を八つ裂きにするよ」
「嫌だ、何をされてもいい・・・俺は楓から離れない」
「天使のストーカー?」
「それでもいい」
「そんなに言うなら条件を出そうか」
「条件?」
「ほら、あそこに兄弟が見えるでしょ?」
「子供の事?」
「そう、その子供を殺してみてよ」
「えっ?」
「悪魔を愛したいのなら綺麗な心は必要無いでしょ?」
「・・・・・・・・・・・」
「俺に魂を食べさせてよ」
赤い舌で舌なめずりしながら翔を見つめた
「出来ない」
「残念」
「俺には罪のない子供の命は奪えない、俺の体を気が済むまでいたぶればいい」
「お前の魂は食べられないんだけど」
「・・・・・・・・・・」
「俺には出来ない・・・楓、ごめんなさい・・・出来ないんだ」
「本当に鬱陶しいね、出来る訳ないよね・・・天使なんだから」
「ごめん」
「二度とここへは来るな」
「・・・・・・・・・・・・」
「そんな涙を見ても何も感じないから」
スノードームの雪のようなキラキラ光る涙だった
天使の流す涙が綺麗に輝く涙なら、俺の流す涙は真っ黒に濁っているに違いない
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