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なんとか重い腰を引き摺って、その日の授業を全て終える。
とはいえ授業が終わったからといって学生のように帰れるわけではない。
パソコンを叩きながら授業で使うプリント作成に勤しんでいたが、不意にコトリと机にカップが置かれた。
指の長い綺麗な手が視界に入る。
神谷だ。
「…紺野先生、やっぱり具合悪そうですが大丈夫ですか?何かここ最近様子がおかしいように思えます」
どこか心配そうな顔で覗き込まれる。
この間から思っていたが、コイツ本当に俺のことをよく見ている。
まあ同じクラスを任されているいわゆる相棒みたいなものだからだろうか。
サポートである副担任の様子がおかしいのでは、確かに安心して頼ることは出来ない。
「…ああいや、ここのところ少し考えさせられていて」
「悩みですか?至らないかもしれませんが、俺で良ければ力になれませんか?」
弱っているところに優しい手を差し伸べられて、心がじわりと暖まる。
とはいえコイツは七海に期待している部活の顧問であり担任だし、まさかあんな事を間違っても口になど出来ない。
それでも七海に会って今までの価値観を一気に変えさせられるような出来事の連続に、自分の頭がついて行ってないのも事実だ。
いや頭どころか身体もついて行ってない。
鈍い痛みを思い出し腰を擦りながら神谷を見上げる。
「…自分が教師に向いているのか疑問になった」
「――えっ?どうしてそんな考えになったんですか」
「いや、少し生徒とあってな。考えさせられている」
生徒指導部であれば勿論いろんな問題児と関わり合うから、生徒と何かあった、なんてのは日常茶飯事だ。
だからこそそこまで深く聞いてこないだろうとぼやいたわけだが、神谷はどこか浮かない顔で一度視線を伏せる。
「…紺野先生を悩ませるなんて、その生徒やりますね」
「は?」
「ああ、いえ。先生はご自分の教育指導に関しての考えはハッキリしてらっしゃる方ですから。教職自体を悩ませるなんて本当に珍しいことだなと」
悩んで当たり前だ。
俺は今まで生徒には忌み嫌われる程に厳しく指導を続けてきた。
それが間違っているとも思わないし、むしろ正しいと思うからこそ指導が出来た。
だが七海に会って好きだ運命だと喚かれ、キスどころか身体まで奪われ、あろうことかアイツにされるままに快楽に溺れ受け入れてしまった。
そんなどうしようもない自分に酷く罪悪感を感じている。
「理由は何であれ紺野先生は生徒のことでそれだけ悩まれているのでしょう。そんな方が教職に向いていないと私は思いません。それに――」
神谷は一度言葉を区切る。
続けて言葉を紡ごうとしたが、何か自分の中で押し留めたように口を閉ざす。
なんだと首を傾けて見上げると、いつもの優しげな表情で微笑まれた。
「…いえ、まあもうすぐ恒例行事もありますし、その日は授業もないので少し気晴らしされてみたらどうですか?」
「恒例行事って…ああ」
そう言われて思い出す。
俺は見回り程度でそこまで関わり合いのない行事だが、担任や運動部の顧問を受け持つ教師は最近楽しそうに話をしている。
「うちのクラスも各種目で優勝出来るように今練習中なんですよ。ぜひ紺野先生も応援してくださいね」
その言葉にああ、と頷く。
すぐそこに迫るのは、球技大会だ。
今でこそ関係ないが、学生時代は運動が苦手だった俺の大嫌いな学校行事だった。
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