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球技大会は結局バスケのみが優勝という結果に終わった。
職員室に掲げられたボードに書かれた結果表を眺めながら、自分の受け持つクラスを確認しておく。
初心者のバレーであれだけやれたなら、さぞバスケは上手いんだろうと想像がつく。
「…いやちょっと待て。何を想像する必要がある」
自席に戻り、頭を抱えて脱力する。
この間から頭の中に所々七海が出てくる。
それは男に身体を奪われるという衝撃的な出来事があれば、考えないほうが無理な話だが。
もちろん恋愛感情が芽生えたとかそういうことはありえない。
ただ俺は七海に対してどう接すれば良いのか悩み始めていた。
しばらく数学準備室で飯を食うのはやめたほうがいいのか。
だが勉強を教えてほしいと言われたらもちろん教えてあげたい。
事実アイツはやれば出来るし、テストの結果を見て気持ちが高揚したのは否めない。
ちらりと右前の席の神谷を見る。
悩み事は相談してほしいと言っていたが、こんな事を相談するわけにはいかない。
神谷には前から話しかけられることはあったが、今年担任、副担任という関係になるまではそう多く言葉を交わしてきてはいない。
だからアイツが予想外に俺を見ていたことには少し驚いた。
「あれ、どうしました?」
ほんの一瞬見ただけのはずなのに、なぜか視線が合った。
優秀な奴というのは、察するのも早いらしい。
なんでもないと視線を逸らす。
翌日の昼休み。
数学準備室で飯食おうとしていたら、案の定七海が来た。
「センセー聞いてくださいよ。カミヤンにみーちゃんにあまり心配かけるなって言われたんすけど。俺別に困らせるようなことしてないですよね?」
とりあえずお前の問題児っぷりには相当頭を悩まされている。
逆に困らせていないという発想になぜ至ったのか知りたい。
「カミヤンはみーちゃんのこと大好きですよね。前からよく話してますし。仲良いんすか?」
「…なんだそれは。仲悪くはないが、別に好きだと言われるようなことをした覚えはない」
「知らないんすか?カミヤンの話、紺野先生ならって引き合いに出すことよくありますよ」
憧れだと言っていたが、まさか社交辞令でなく本当だったとは。
いや、単純に生徒指導だから話題に出しやすいのか。
とはいえ後輩に慕われる事に別に悪い気はしない。
「えー、ちょっと待ってくださいよ。担任と副担任の関係なんて俺絶対許しませんよ」
「お前は何を言っている。俺と神谷をお前の物差しで図るな」
むしろ生徒と教師よりはまだマシだ。
そしてあまりに自然な流れで誤魔化されそうになっていたが、なぜか当然のように俺の机の横にパイプ椅子を開き、飯を一緒に食おうとしている。
「図りまくりますよ。俺独占欲強いですもん。みーちゃんカミヤンには気を付けてくださいよ」
「正しい日本語を使え。俺はお前こそ気を付けねばいけない相手だと思っているが」
「えー、そんなに期待されてるなんて嬉しいです」
ぐいっと顔を近づけて覗き込んできたから、慌てて身体を後ろへ引く。
いやちょっと待て。
なぜ俺が逃げなければいけない。
相手は生徒だ。
「…そ、そもそもなぜ七海に独占されなければならない。俺はお前のものじゃない」
フイと顔を背けたら、伸びてきた手に頬を取られた。
体温の高い手のひらに、視線を強制的に合わせられる。
「じゃあ早く俺のものになってくださいよ。死ぬほど愛しますから」
真っ直ぐすぎる視線に、心臓がバクリと大きく跳ねた。
こんなとんでもないセリフを一回りも年下の、まさか生徒に言われる日がくるとは。
思わず固まってしまったが、七海の手が俺の頬を撫で身体へ落ちる。
ギクリとした。
「お、おい。また変なことを――」
慌ててその手を止めようとしたが、それは予想した動きではなく俺の胸ポケットからするりと何かを引き抜く。
七海はそれを目の前に掲げると、ニッコリと俺に向けて笑顔を作った。
「とりあえずみーちゃん、まずは連絡先交換から始めましょうか」
胸ポケットに入れていた俺のスマホが、七海の手にしっかりと取られていた。
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