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「ああ、紺野先生。そんな顔でドン引かないで下さい。大丈夫ですよ。なにかあなたに危害を加えようという悪いストーカーではないですから」
ストーカーに良いも悪いもあるのか。
思わず神谷の顔を見つめたまま絶句してしまう。
人として完璧な後輩だと思っていた奴が実はストーカーだったとか、俺は何か悪い夢でも見ているんだろうか。
「…とりあえず俺はお前を警察に突き出すべきなのか」
「ふふ、紺野先生と警察署までのデートは魅力的ですが、そうなると学校の問題に発展してしまいますね。そうなればこれから進学予定の生徒も困るでしょうし…」
言われて七海の顔が思い浮かぶ。
いや待て、なんでアイツなんだ。
慌てて振り払ってから、ばら撒かれた写真にもう一度目を落とす。
やっぱりどう見ても俺だ。
勿論カメラ目線ではないし、全部盗撮だ。
ちらりと見ただけでも、学校内でのいろんな俺が映っている。
さっきからひっきりなしに冷や汗が背中を伝っている。
ここ最近の俺の人生は一体どうなっているんだ。
ストーカーの後輩と強姦魔の生徒に板挟みとかもう意味が分からない。
「紺野先生は恋愛には興味を示さない方だったので、昔からその姿を見守れるだけで幸せだったんですけどね。まさかキスマークなんて付けてきたので…少し驚いてしまって。取り乱してしまいすみませんでした」
今節丁寧に謝られたが、取り乱すレベルが普通のそれを越えている。
「…っいや、これは」
「どう見てもキスマークでしょう。今朝はありませんでしたし、今日学校内で付けられたものですよね」
「ちょっと待て、なぜ今朝は無かったと分かる」
神谷はニコニコとした顔のまま、生徒に大人気な笑顔を俺に見せる。
「俺はあなたのストーカーだと言ったでしょう」
よく分からないが物凄い説得力を感じる。
というか何をコイツはいっそ清々しく開き直っている。
「…ああくそ、頭が痛い」
はあ、と大きくため息を吐いて俺は脱力する。
余計な悩みが一つ増えた。
こんな写真の束を見せられたら、コイツの気持ちは嫌でも信じざるを得ない。
「…先に言っておくがお前の気持ちに応える事はできないからな」
「ちゃんと分かってますよ。言ったでしょう。俺は紺野先生の姿を見ていられればそれだけで幸せなんです。…ただ――」
そう言って神谷は俺の首筋を見て目を細める。
今まで見たことの無いような、どこか忌々しそうな表情を一瞬見せた。
「あなたが汚されるのは面白くありません。紺野先生のことですから好きな方が出来たわけではないでしょう。無理やりされたものなら――」
「…っむ、無理にされたものではない」
咄嗟にそう言ったが、神谷は考えの読めない微笑を俺に向けるだけだった。
その視線の強さに耐えきれず、思わず視線を伏せる。
「…それにしても全く相手が分からないですね。若い女教師だと…保健の先生か…あ、家庭科の先生もありえますか」
「お、お前はそれを見つけ出してどうする気だ」
ストーカーの考えることなど全く分からない。
何か相手に危害を加えるとかであれば、やはりコイツを今すぐ警察に突き出さねばならない。
とはいえ学校内におけるコイツの信頼は非常に厚く、俺の言葉のほうが信用してもらえない可能性が高い。
神谷はどこか俺の顔色を伺うように首を傾けた。
「ああ、すみません。怖がらせてしまいましたか?大丈夫ですよ。あなたを困らせるようなことはしませんから」
「し、信用出来ない」
あんな写真を見せられて、突然机に押し付けられて、今後コイツが何をしでかすのか分からない。
「大丈夫です。それに紺野先生が公私混同するのを嫌うのも、俺はちゃんと分かっています。仕事に支障をきたすような真似はしませんし…それに俺もこの仕事は好きですから」
決して安心したわけではないが、その言葉にほんの少し肩の力を抜く。
ストーカー発言は確かに常軌を逸していたが、それでも俺はコイツと数年間を共にしてきている。
考えたくないがストーカーは昔からだと言っているし、何かするならもうとっくにしてきているだろう。
それに今は生徒にとって大事な時期であって、今後も神谷とは連携を取ってクラスをサポートしていかねばならない。
余計な私情で教師である俺達がフザけた態度をとるようなことだけは、絶対にしたくない。
「…分かった。一先ずお前とは今まで通りでいてやる」
「ああ良かったです。警察に突き出されてしまったら、しばらくお顔を拝見できなくなってしまいますから」
「いや問題はそこじゃないだろう」
どうやら教職を奪われることや、社会的地位は眼中にないらしい。
やはりコイツ、今すぐ警察に突き出すべきか。
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