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「それで…みーちゃんはバレたくないだけっすか?それともカミヤンのことが好きなんですか?」
「――はぁ?」
「だって今になってそんなに必死で知られたくないなんて、カミヤンに誤解されたくないみたいじゃないですか」
詰め寄っていたはずが、なぜか俺が詰め寄られる。
全く見当違いなことを言われて面食らった。
どうしてそんな発想になる。
「馬鹿なことを言うな。知られたらマズいのは別に神谷に限ったことじゃない」
「それはそうですけど。でもせっかくみーちゃんから俺に話しかけてくれたの初めてなのに――」
そう言って、どこか拗ねた顔をされた。
俺に無理やりあんなことをするくせに、かと思ったらいきなり歳相応の顔を見せる。
いっそ全部教えてやったら話は早いが、だが神谷が俺のストーカーだということはさすがに七海に教えることは出来ない。
教師に対して不信感を抱かせるようなことはしたくない。
「それなのにカミヤンの話とか…」
俺がいくら怒っても不貞腐れた態度など見せないのに、今日に限っては完全に不貞腐れている。
分かりやすく唇を尖らせて、不機嫌そうにその視線が伏せられる。
明らかに一変した態度に少し戸惑ってしまう。
「…なんでそんな顔をする必要がある。別に今は説教しているわけではない」
「だってみーちゃん俺に少し考えるって言ったのに、それよりカミヤンの話じゃないっすか」
「し、仕方ないだろう。緊急事態だ」
あまりに神谷のカミングアウトが衝撃的すぎて、全く考える余裕などなかった。
神谷の昨日の様子を見るとまだ相手が七海ということは想像も出来ていないようだったが、性格上七海の方が先に口に出してしまいそうだ。
そうなった時、コイツがどんな目に合うか想像もしたくない。
だがそんな俺の心情など全く知る由もない七海は、完全に何か誤解している。
これ以上ややこしい事態になってどうする。
「お、お前のために言っているんだろう」
「…え、俺ですか?」
そう言ってやったら、ピクリと反応してすぐさま顔が上げられる。
「お前が俺にした事が公になれば、間違いなくマズイことになる。俺だけなら済む事も他の奴が知れば当然穏便には済まなくなる」
「…えーと」
「お前は子供だからまだ分からないだろうが、大人社会はそこまで優しくはない。お前のしたことは世間一般的には白い目で見られるような行動であって――」
「…つまりみーちゃんは、俺の事を庇ってくれてるんすか?」
今更何を言ってるんだコイツは。
「そう言っているだろう。生徒を守るのは教師の役目だ」
だから必死に神谷に気付かれないように、わざわざ俺が休み時間にここで話をしているんだが。
今更何を言っているんだと続けようとしたが、目の前の不貞腐れていた顔が打って変わって熱を取り戻していく。
あっという間にいつもの爛々とした瞳を向けられた。
「…かっこいー」
「怒るぞ」
感動するように言われたが、どうも茶化されている気しかしない。
怒ると言っているのに、不意に腰に回った手がぐいと俺の身体を引き寄せた。
「やっぱり大好きです、先生」
そう言ってキスしてこようとしたから、咄嗟に手を伸ばしてその口を塞ぐ。
「…だからそういう行動のせいでこんな事態になっているんだ。いい加減にお前は反省をしろ」
ピシャリとそう言ったが、キスの代わりに嬉しそうに抱きしめられた。
さっきのような不貞腐れた顔はもう欠片も見られなかった。
「20代男性、職場の女性にストーカーで逮捕。怖い世の中ですねえ」
職員室へ戻ると、神谷がテレビ前で学年主任と話していた。
他人事のように言っているが、お前もストーカーだろう。
とりあえずその手の話題には関わりたくないので、心を無にして自席へ戻る。
授業の組み立てをしていると、コトリと俺の机にコーヒーが置かれた。
長い指先に、ギクリと心臓が跳ねる。
恐る恐る見上げると、ニッコリと物腰柔らかな笑顔を向ける神谷がいた。
「お疲れ様です、紺野先生」
いつもと何一つ変わらない光景。
昨日のことなど本当に何も無かったかのような振る舞いだが、俺の心境は正直かなり穏やかではない。
このコーヒーも、実は何か入ってるんじゃないかと危惧してしまうほどには。
「大丈夫ですよ。何も入ってませんから」
心を読まれた。
思わず瞠目して固まってしまったが、神谷は特に気にした様子もなく俺に書類を手渡す。
「来月ですよ。修学旅行。沖縄楽しみですねえ」
どこかはしゃいだ様子だったが、俺は何も言わず手渡された職員用のしおりに視線を落とす。
神谷と七海と一緒の修学旅行なんて、不穏な気しかしないんだが。
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