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昼食後は修学旅行に関して取り決めるHRをどのクラスも行っていて、俺は神谷に背を押されて仕方なく教室でその様子を見守っていた。
各種担当や班決め、自由行動先、栞作成等決めることは山積みで、決まったことを神谷の席で書き留めていた。
わいわいと昼休みのように好き勝手に動いて盛り上がる生徒に、うんざりと頬杖をついて眺める。
神谷は生徒の自主性に任せているようだが、こう盛り上がってしまっては子供だし遊びに発展するんじゃないか。
たいした話し合いも出来ないままこの時間を終えるというようなこともありえそうだ。
口を挟もうとも思ったが担任は神谷だし、アイツが何も言わないなら黙って見守ることにする。
「みーちゃんと同じ班がいーんですけどっ」
突然俺の前に来た七海に、笑顔でそう言われた。
さっきの昼休みの光景を思い出して、嫌でもバクリと心臓が跳ねる。
自然と熱くなった顔に、七海はどこか優しげに目を細める。
「…おい、呼び方」
「あっ、すんませんっ」
小声でそう言ったら、ハッとしたように七海はキョロキョロと周りを見回す。
ガヤガヤと賑わう教室内は、特に誰も俺達を気に留めている様子もなさそうだ。
――ただ一人以外は。
ちらりと神谷を見ると、すぐに視線が合いニッコリと微笑まれた。
女子生徒と話していたようだし距離があるから内容は聞かれていないだろうが、心臓に悪い。
「ん、どうしたんすか?」
「…なんでもない。それより俺は教師だからお前と同じ班員にはなれない」
「ぶ、安定のマジレスっすね。分かってますよ。ちゃんと真面目に決めてきますっ」
七海はくしゃりと楽しげに笑って、何事もなかったようにクラスメイトの輪に入っていく。
ぎゃははと男友達とふざけあってる様子をぼんやりと眺める。
こうやって見ると、本当にただの子供だ。
周りと変わらないただの一生徒。
分かっているのに、どうしたって俺はさっきのことを思い出してしまう。
触れられる体温、乱れた呼気、ゾクリとするほど色気を帯びた俺を挑発する瞳。
アイツは俺が考えさせてほしいと言った言葉をもう忘れているんだろうか。
俺以外にもたくさん同じようなことをしてきたという発言をしていたが、もしかしてこの中にも同じようなことをされた生徒がいるのか。
俺に信じて欲しいと言っていたし、裏表がないのは分かるがどうしても軽い印象を持ってしまう。
「紺野先生。どうでした?たまにはHRに参加するのも新鮮ではないでしょうか」
授業が終わり、神谷と職員室への道を歩く。
神谷を見てキャッキャと顔を赤らめる生徒と、俺を見てギクリと顔を青くする生徒と対象的な光景が廊下に広がっている。
「最近どこか根を詰めたようでしたし、気晴らしになればと思ったのですが」
俺の悩みにトドメを刺したのは誰だ。
とは思ったが、確かに黙々と仕事をしているよりは多少の気晴らしになった。
「…ああ、そうだな。自分のクラスの生徒を見る時間も必要だと思った」
どう見てもまとまらんだろうとじとっと教室内を見ていたが、最終的にはきっちりと生徒一人ひとりが自らのやるべき事を決めていた。
やはり特進科の生徒なだけあって、時間を無駄にしたくないという意志はそれぞれあるらしい。
勝手な先入観と自分の頭の堅さに反省したところだ。
「お前のおかげでクラスはしっかりまとまっているな」
「ありがとうございます。紺野先生にそう言っていただけて嬉しいです」
ニコニコと神谷が綺麗な顔を綻ばせる。
それから修学旅行についての話をしながら歩く。
取り決めることはまだたくさんあって、教師の方も時間は足りない。
「あ、ところで紺野先生」
職員室が見えてきたところで、ふと話を切り替えられた。
なんだと何気なく首を傾げる。
「最近七海と親しいようですが。何か彼を気に入っているのですか?」
「――はっ?」
唐突に変わった質問に思わず声が裏返る。
慌ててゴホンと咳払いしながら、一体なんでいきなり七海の話を振られたのかと急ぎ思考を巡らせる。
コイツ何か気付いているのか。
それともさっき七海が話しかけてきたのを見ていたからか。
いやでも生徒に話しかけられることくらい当たり前にあるし、さすがに七海が相手という回答には思い至らないはずだ。
「…あ、アイツには最近数学も教えてるし…受験生なんだから勉強を教えるのは当たり前だろう」
「そうですよね。すみません、自分でもおかしいと思っているのですが、なんだか少し嫉妬してしまって」
「…嫉妬?」
聞き返すと、神谷は足を止める。
職員室前の廊下は俺達以外誰もいなかった。
目の前の顔が、どこか困ったように笑う。
「この間部活で七海と話をしたのですが、どうやらあなたのことを気に入っているようなので。もちろん教師としてなのは分かっていますが、この間の球技大会でも随分親しくされていたでしょう」
「…お前は何を言っているんだ。ただの生徒だろう」
「ええ。でもあなたの笑顔は貴重ですから」
あの時そこまで見ていたのか。
冷や汗をかきつつ視線を落とす。
それにしても話をしたって、アイツ一体何を神谷に話したんだ。
あれだけ神谷にはバレるなと言ったのに、何を考えている。
「ふふ、紺野先生って本当に可愛い方ですね」
顔に出さないよう必死に思考を巡らせていたが、不意にクスクスと笑われた。
ほんのりと顔を色づかせて至極楽しそうに笑う表情に眉を寄せる。
「可愛いってお前な。俺は一応お前の年上なんだが」
「ああ、すみません。その、気付いてないようでしたので」
「…は?何をだ」
「いえ、紺野先生のこともう長いことストーカーしているのですが、あなたが噓をつく時は決まって、一度視線を伏せるんです」
絶句した。
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