アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
40
-
「…で、なぜお前がいる」
「ほら、昨日抜け出して怒られたじゃないっすか。その時にみーちゃんこの時間ここにいるんだなーって気付いたんで」
「それでお前は、また怒られに来たのか」
「そんなわけないじゃないっすか。会いにきたんですよ。一人で見張りなんてつまらないでしょう?」
ニッコリと七海が屈託のない笑顔でそう言う。
こっそり部屋から出てきたと思ったら、静止する俺の声も聞かずにちゃっかり人の隣に腰掛けた。
「…お前は本当に俺の言うことを聞かないな」
「え?だって見張りって悪いことしないように見張るわけじゃないっすか。俺別にみーちゃんの側にいるだけなんで、何も悪いことしませんし」
「そんな理屈が通るか」
はあ、とため息を吐く。
何を言ってもコイツは戻る気はないらしい。
他生徒なら正座させて説教して有無を言わせず部屋に戻すのだが、しかしコイツに限ってはそのやり方では通じない。
どうするかと思ったが、俺は仕方なく肩の力を抜いた。
「…まあいい。お前にちょうど話があった」
「え、なんすか?別れ話はやめてくださいよっ。もうお腹いっぱいなんで」
別れ話ってそもそも付き合っていないんだが。
色々否定しどころはあるが、一先ずキリがないので置いておく。
静かな廊下には窓の外で聞こえる虫の声と、時たま年季の入った蛍光灯が無機質な音を出していた。
冷房が効きすぎて少し冷えた身体を誤魔化すように、上着の袖を引く。
「…昨日の夜の件だが。お前は俺が見張っているから抜け出しはしない方がいいと、生徒を止めてくれたらしいな」
「――えっ?」
「お前と同室の生徒が、七海は反省文免除してやってほしいと自由時間に言いに来た」
「…マジっすか」
俺の話を聞いた七海が、驚きに目を丸くさせている。
この様子だと同室の生徒からは何も聞かされていないんだろう。
「無理に七海を誘っていたとも言っていた。なぜ自分は止めたと言わなかったんだ?」
「いや最終的には止められなくて一緒に女子部屋行ったんで。行ったらフツーに遊んでましたし」
「そうだとしても俺に言い訳くらいしても良かっただろう」
「…んー、確かに嫌いって言われた時めちゃくちゃ凹みましたけど」
七海はそう言って少し拗ねたように口を尖らす。
そんな顔を見たら、確かに少し言いすぎてしまったなと思い出す。
生徒に「嫌い」なんて言葉をまさか使うべきではなかった。
「…わ、悪かった。それは言い過ぎたと俺も反省している」
「えっ、まさかみーちゃんが謝るんすか」
何だその言い方は。
俺だって間違ったことをしたと思えば謝りくらいする。
「――あっ、だからか」
不意に七海が何か納得したように声をあげる。
なんだと小首を傾げると、じとっとした目を向けられた。
「アイツらが部屋でデレ眼鏡とか騒いでたんで、何をデレたのかなーと妬いてたんですけど教えてくれなかったんで。みーちゃん何かアイツらに優しくしたんすか?」
「…はぁ?何もしていないが。ただ神谷とその件は相談すると伝えただけだ」
「ほんとにそれだけっすか?」
じーっと疑わしい目で見られる。
本当にそれだけだ。
「俺にももっとデレ眼鏡くださいっ」
「なんだその物言いは。正しい日本語を使えと言っているだろう」
「圧倒的ツン眼鏡じゃないっすか。メッセも返してくれないしっ」
全くコイツはすぐに話が脱線する。
確かにコイツらのやったことは悪いことだが、それでも友人のためを思って俺に言いに来た姿勢には好感が持てる。
ちゃんと反省もしているようだし、そこまでキツイ処分にするつもりもない。
俺は七海に向き直ると、納得してない顔を向けてくるその額を小突いてやった。
「文句をいうな。庇ってくれるなんていい友人をもっているじゃないか」
「わっ…まあ、そうなんですけど」
額を抑えながら、七海が言葉を濁す。
結局のところ女子部屋には行ったわけだが、それでも俺の話をないがしろにしていたわけではなかった。
そう知った時は少し嬉しくて、そういえば久しぶりに笑ったかもしれない。
「ああ、それからもう一つ。この間の神谷のことなんだが」
「ん、カミヤン?また何かありました?」
「いや、お前に嘘を付かせてしまっただろう。ピアスを返してほしいと言っていると」
「…ああ。ありましたねーそんなこと」
まだこの間のことだが、もうすっかり昔の話というような反応だ。
「その場を凌ぐためとはいえ、していない罪を着せてしまっただろう。その事が気にかかっていた」
「えっ、だってアレはカミヤンにバレないようにしたわけじゃないっすか」
「…でも納得していなかっただろう」
ムッとした表情をしていたのを覚えている。
あれがずっと俺の中で引っかかっていた。
七海は俺の言葉に一度ポカンとしてから、プッと可笑しそうに吹き出す。
なぜ笑う。
考えが読めず眉を潜めると、どこか悪戯な表情に顔を覗き込まれた。
「なんつーか、みーちゃんってほんと超真面目っすね。それって教師だからですか?それとも元々の性格っすか?」
「…元々だな。自分でも面白みのない人間だとは思っている」
そう言ったら余計に笑われた。
やっぱりコイツの考えは分からない。
「俺はそういうとこも好きですよ」
「…適当な事を言うな。自分でももう少し柔軟な考えが出来たらと思っている」
無愛想にそう言って視線を逸らす。
クスリと隣でまた笑う声がして、居心地が悪くなる。
七海ほどではなくても少しは頭を軽く出来たら、こうすぐに苛々とすることもなくなるんだろうか。
「なら今から俺が、真面目じゃなくさせてあげます」
「――え?」
不意に伸びてきた手に頬を取られる。
強制的に合わせられた視線の先で、七海の瞳の色が変わった気がした。
不意に大人びた表情に気付いたのと同時、遮る間も無く口付けられた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
43 / 209